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薬院法律事務所

刑事弁護

道路交通研究会「交通警察の基礎知識249 危険運転致死傷罪について」月刊交通2023年7月号(670号)82頁


2024年01月27日読書メモ

道路交通研究会「交通警察の基礎知識249 危険運転致死傷罪について」月刊交通2023年7月号(670号)82頁に、【以下本稿では、今春新たに交通事故捜査員として任用された警察官等を対象として、危険運転致死傷罪の基礎知識や、同罪の適用を検討する上で混同しやすいことなどについて、ご紹介します。】ということで、危険運転致死傷罪についての概説がありました。

 

月間交通の道路交通研究会の記事は大事です。弁護人も十分に把握しておく必要があります。

 

というのが、犯罪を「立件」して「送致」するのはまずもって警察だからです。これは他の犯罪にも共通することなのですが、警察がいかなる行為を犯罪として認知するのか、いかなる場合に逮捕状を請求するのか、捜索・差押令状を請求するのか、といったことは十分に認識していなければなりません。弁護人としては、最終的に「無罪」をとればそれで「成功」のように考えがちですが、逮捕・勾留・裁判などで失った時間や信用、収入といったことは取り返しがつきません。何も起こらなければ、それは一見弁護士の仕事としては目立たないことでも、実はもっとも価値があることなのです。私が以前担当した事件でも、通報直後から関与することで、警察実務での解釈に照らして、依頼者の行動が刑罰法令にあたらないことについての意見書を出すことができて、正式に事件として立件されることなく(あるいは立件されたものの)すぐに捜査が打ち切られて終結しました。

 

今回の記事で特に私が気になったのは次の記述です。法第3条第1項における「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とは、通常酒気帯び程度でも該当するとされていますが、85頁に次のような記載がありました。つまり酒気帯び運転に該当しなくても危険運転致死傷罪に問われるおそれはあるということです。この点は弁護人が強く意識しておくべきでしょう。

 

【本罪は、酒気帯び運転のように客観的に一定程度のアルコールを身体に保有しながら自動車を運転する行為を処罰するものではなく、あくまでも、運転の危険性・悪質性に着目した罪ですから、アルコール等の影響を受けやすい人が、酒気帯び運転に該当しない程度のアルコール量であったとしても、自動車を運転するのに必要な注意力等が相当程度減退して危険な状態にあれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」に該当し、その程度のアルコールを保有している状態でも危険性があるという認識があれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の故意があるといえます。(最高裁平成23年10月31日決定、岐阜地裁平成29年10月6日判決、千葉地裁令和4年3月25日判決)】

 

月刊交通 ❯❯ 2023年7月号

https://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/kotsu/202307/

 

千葉地裁令和4年3月25日判決は、判例雑誌には取り上げられていませんが、裁判所のホームページには掲載されています。弁護士目線、裁判官目線での重要裁判例と、警察目線での重要裁判例(実務の基準になる)は異なることがあります。岐阜地裁平成29年10月6日判決はd1-lawでは見つかりませんでした。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=91083

事件番号
令和3(わ)1204

事件名
危険運転致死傷被告事件

裁判年月日
令和4年3月25日

裁判所名・部
千葉地方裁判所  刑事第3部

【主 文
被告人を懲役14年に処する。
未決勾留日数中180日をその刑に算入する。
理 由
(罪となるべき事実)
被告人は、令和3年6月28日午後2時53分頃、千葉市内の高速道路のパーキングエリアにおいて、一時休憩のため停車中に飲んだ酒の影響により、前方注視及び運転操作に支障が生じるおそれがある状態で大型貨物自動車を発進させて運転を再開し、もってアルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、よって、…

(量刑の理由)

…被告人の運転していたトラックは車両重量約6.4トンの大型貨物自動車であり、他の車両や歩行者に衝突すれば大きな被害が生じる危険性が高い。被告人からは、本件犯行後約1時間39分を経過した時点での呼気検査により呼気1リットル当たり0.15ミリグラムを超える程度のアルコールが検出されており、被告人が自認する運転開始前の飲酒状況(後記)も考慮すると、犯行時にはそれよりも高い濃度のアルコールを身体に保有していたことが推定される。また、本件現場の少し手前から仮睡状態に陥ってハンドルの操作をできないようになり、道路の左端に寄りながら時速約56キロメートルで進行して道路脇の電柱に衝突し、それでも事態をはっきりと認識するには至らず、対向歩行してきた被害者らに次々と衝突するなどしたものである。被告人の運転行為の危険性は、非常に高いものであった。】