酒気帯び運転、行政処分の軽減は可能かという相談(刑事弁護、道路交通法違反)
2024年09月07日道路交通法違反
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、居酒屋で飲んだ後、短距離だからと思って車を運転していたところ、警察官に呼び止められて呼気検査をされました。酒気帯び運転で0.25mg以上となっているのですが、免許取消を避けることは可能でしょうか。
A、呼気検査の数値の正確性を争える事案でなければ、免許取消を避けることは極めて困難です。
【解説】
結論としては、「事実が認められれば」ほぼ不可能、ということになります。
もっとも、呼気検査の正確性に疑問がある場合であれば、「事実が認められない」ということで処分を回避ないし軽減できる可能性はあります。具体的な事案によっては運転直後の呼気検査であっても信用性を否定できる場合もあり得ますので、まずはご相談頂ければと思います。下記東京地判令和2年7月3日判例タイムズ1483号131頁はウィドマーク方式での算定に基づく免許取り消し処分を取り消した裁判例になります。
【参考文献】
髙山俊吉『入門交通行政処分への対処法』(現代人文社,2017年10月)81頁
【当局は、酒気帯びや酒酔い運転に関しては、事情を勘案して処分の量定を軽減するという対応を基本的にとらない。酒気帯びや酒酔い運転には「汲むべき事情」はないという立場に立ち、事実が認められれば基準どおりの処断をするのである。】
東京地判令和2年7月3日判例タイムズ1483号131頁
1 東京都公安委員会が平成31年4月14日付けで原告に対してした、運転免許取消処分及び1年間を免許を受けることができない期間として指定する処分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が東京都公安委員会から酒気帯び運転をしたとして運転免許(以下「免許」という。)の取消処分(以下「本件取消処分」という。)を受けるとともに、1年間を免許を受けることができない期間として指定する処分(以下「本件指定処分」といい、本件取消処分と併せて「本件各処分」という。)を受けたことについて、酒気帯び運転の事実はないなどとして、それらの取消しを求める事案である。
2 関係法令の定め
(1) 道路交通法(以下「道交法」という。)103条1項5号は、免許を受けた者が、自動車等(普通自動二輪車を含む。同法84条1項、2条1項9号、3条)の運転に関し同法若しくは同法に基づく命令の規定又は同法の規定に基づく処分に違反したときは、公安委員会は、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消すことができる旨を定める。
(2) 道交法65条1項は、何人も、酒気を帯びて車両等(普通自動二輪車を含む。同法2条1項17号、8号、9号、3条)を運転してはならない旨を定め、同法117条の2の2第3号は、同法65条1項の規定に違反して車両等(軽車両を除く。)を運転した者で、その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあったものは、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する旨を定める。
道路交通法施行令(以下「施行令」という。)44条の3は、道交法117条の2の2第3号の政令で定める身体に保有するアルコールの程度は、血液1mlにつき0.3mg又は呼気1lにつき0.15mgとする旨を定める。
(3) 施行令38条5項1号イは、免許を受けた者が一般違反行為をした場合において、当該一般違反行為に係る累積点数が、施行令別表第3の1の表の第1欄に掲げる区分に応じそれぞれ同表の第2欄、第3欄、第4欄、第5欄又は第6欄に掲げる点数に該当したときは、免許を取り消すものとする旨を定める。
施行令別表第3の1の表は、第1欄が「前歴が1回である者」の第6欄の点数を「10点から19点まで」と定め、施行令別表第2の1の表は、「一般違反行為」(施行令33条の2第1項1号)である「酒気帯び運転(0.25未満)」の点数を13点とする。
「酒気帯び運転(0.25未満)」とは、道交法65条1項の規定に違反する行為のうち、身体に施行令44条の3に定める程度以上のアルコールを保有する状態(身体に血液1mlにつき0.5mg以上又は呼気1lにつき0.25mg以上のアルコールを保有する状態を除く。)で運転する行為をいう(施行令別表第2の備考の二の9、5、2)。
(4) 道交法103条7項は、公安委員会は、同条1項各号(4号を除く。)のいずれかに該当することを理由として免許を取り消したときは、政令で定める基準に従い、1年以上5年を超えない範囲内で当該処分を受けた者が免許を受けることができない期間を指定するものとする旨を定める。
(5) 道交法104条の3第1項は、同法103条1項の規定による免許の取消しは、内閣府令で定めるところにより、当該取消しに係る者に対し当該取消しの内容及び理由を記載した書面を交付して行うものとする旨を定め、道路交通法施行規則30条の4は、上記書面の交付は、免許の取消しに係る者に対し、当該処分の内容を口頭で告知した上、同規則別記様式第19の3の3の処分書を交付することにより行うものとする旨を定める。
3 前提事実
(1) 原告は、平成28年11月3日当時、中型自動車免許及び普通自動二輪車免許を有し、前歴は1回であった(乙1)。
(2) 原告は、平成28年11月3日午後4時30分頃、東京都(住所省略)所在のC店において、500mlペットボトルに25度の焼酎と水を約1:2の割合で入れた焼酎を飲み始め、そこから(住所省略)付近道路までの約1.6kmを普通自動二輪車で走行する間に、同ペットボトルの約3分の2の焼酎を飲んだ(乙5、9、10、弁論の全趣旨)。
(3) 原告は、平成28年11月3日午後4時35分頃、東京都(住所省略)付近道路において普通自動二輪車を運転していたところ、警察官から停止を求められ、(住所省略)先歩道上に停止した(争いがない。)。
(4) 原告は、平成28年11月3日午後5時02分から06分にかけて、水でうがいをした後、風船に呼気を吹き込み、北川式呼気中アルコール測定器DPA-11型に同風船を取り付けて呼気中のアルコール濃度を測定したところ、同日午後5時06分、呼気1lにつき0.16mgのアルコールが検出された(争いがない。)。
原告は、同日午後5時18分、測定結果を確認し、酒酔い・酒気帯び鑑識カードに署名指印した(乙5)。
(5) 東京地方検察庁立川支部検察官は、平成29年1月17日、原告の酒気帯び運転及び一時停止違反に係る道交法違反被疑事件を不起訴とする処分をした(弁論の全趣旨)。
(6) 東京都公安委員会は、平成29年6月9日、本件取消処分に係る意見聴取期日を開催したが、原告は、事前に欠席する旨を通知し、意見聴取期日に出頭しなかった(乙12、弁論の全趣旨)。
(7) 東京都公安委員会は、平成29年6月9日、原告が「酒気帯び運転(0.25未満)」を行ったものとして13点を付加し、これにより、原告の免許を取り消し、免許を受けることができない期間を1年間と指定する処分(本件各処分)をすることを内部的に決定し、本件各処分の処分書を交付するため、同日以降、原告に対し、複数回にわたって出頭通知書を郵送し又は電話を掛け、出頭を求めた。
原告は、平成29年12月22日、府中運転免許試験場に出頭したが、身分確認ができる運転免許証等を所持していなかったため、本件各処分の処分書を交付することができず、東京都公安委員会職員は、運転免許証を持参して再度出頭するよう依頼した。
東京都公安委員会は、平成30年5月23日、原告に出頭通知書を郵送して出頭を求めたが、原告は出頭しなかった。
東京都公安委員会職員は、平成30年6月10日、原告宅を訪問したが、原告は不在であり、本件各処分の処分書を交付することができなかった。
東京都公安委員会職員は、平成30年11月9日、原告の携帯電話に電話を掛けたが、原告は応答しなかった。
(甲1、乙1、13)
(8) 東京都公安委員会は、平成31年4月14日、府中運転免許試験場を訪れた原告に対し、本件各処分に係る同日付け運転免許取消処分書(甲1)を交付し、本件各処分をした(乙1)。
(9) 原告は、令和元年6月7日、本件訴えを提起した(裁判所に顕著な事実)。
4 当事者の主張
(原告の主張)
以下の理由により、本件各処分は違法である。
(1) 平成28年11月3日午後5時06分に呼気1lにつき0.16mgのアルコールが検出されたことは争わないが、呼気検査の時刻は、本来であれば運転を終え自宅で休んでいたはずの時刻であり、同日午後4時35分の運転中のアルコールの程度は立証されていない。運転時点では、呼気中アルコール濃度はそこまで高くなかった可能性がある。
(2) 「酒気帯び運転(0.25未満)」の成立要件である「身体に施行令44条の3に定める程度以上のアルコールを保有する状態」とは、運転時に身体に保有されるアルコールが呼気検査をすれば呼気1lにつき0.15mg以上が検出される状態であることをいう(以下「A説」という。)と解される。
(3) 違反行為があったとされる年月日から本件各処分まで2年5か月余りを要しており、少なくとも意見聴取期日の翌日には本件各処分を行うことが可能であったにもかかわらず、そこからさらに1年10か月余りを要しており、東京都公安委員会の事務処理遅延には合理的理由がない。
(被告の主張)
以下の理由により、本件各処分は適法である。
(1) 原告は、平成28年11月3日午後4時35分頃、呼気1lにつき0.15mg以上のアルコールを身体に保有し、酒気を帯び、東京都(住所省略)付近道路において普通自動二輪車を運転し、もって、道交法65条1項の規定に違反した。
(2) 呼気検査結果は飲酒開始から約35分後のものであり、運転中の呼気中アルコール濃度を示したものではないが、本件における原告の飲酒内容と同種の飲酒をした場合、飲酒開始5分後において呼気1lにつき0.15mg以上かつ飲酒開始約35分後よりも多量のアルコールが検知されること、さらに、原告の飲酒内容に基づいてその信用性が確立されているウィドマーク式算定法によって運転時の呼気中アルコール濃度を算出すると0.152~0.255mg/lとなることからすれば、原告が自動二輪車を運転していた午後4時35分頃、身体に呼気1lにつき0.15mg以上のアルコールを身体に保有する状態であったことは優に認められる。
(3) 「酒気帯び運転(0.25未満)」の成立要件である「身体に施行令44条の3に定める程度以上のアルコールを保有する状態」とは、運転時に体内に呼気1lにつき0.15mg以上に相当する量のアルコールを保有する状態であることをいう(以下「B説」という。)と解される。
(4) 本件各処分の時期の遅延は、原告が再三の出頭要請に応じなかったことや、出頭しても身分証などを所持していなかったことなど、原告自身に原因があるのであって、東京都公安委員会による事務処理の遅延はない。さらにいえば、関係法令上、処分時期に関する規定はないのであるから、処分の時期が遅延したとしても処分手続の瑕疵となるものではない。
1 前記「2 関係法令の定め」のとおり、施行令別表第2の1の表にいう「酒気帯び運転(0.25未満)」とは、身体に施行令44条の3に定める程度以上のアルコールを保有する状態(身体に血液1mlにつき0.5mg以上又は呼気1lにつき0.25mg以上のアルコールを保有する状態を除く。)で車両等を運転することをいい、施行令44条の3は、道交法117の2の2第3号の政令で定める身体に保有するアルコールの程度として、血液1mlにつき0.3mg又は呼気1lにつき0.15mgと定める。
ここで、「身体に施行令44条の3に定める程度以上のアルコールを保有する状態」の解釈につき、原告は、運転時に呼気検査をすれば呼気1lにつき0.15mg以上(以下、血中アルコール濃度についての言及は省略する。)のアルコールが検出される状態である(A説)と主張するのに対し、被告は、運転時に体内にそれだけの量のアルコールを保有する状態であればよい(B説)と主張する。
A説によっても、運転時に呼気検査を行うことは現実的でないから、運転後の呼気検査の結果から運転時における呼気中アルコール濃度を推認することとなるが、A説は、それにより推認される運転時の呼気中アルコール濃度が呼気1lにつき0.15mg以上でなければ「酒気帯び運転(0.25未満)」は成立しないとするのに対し、B説は、運転後の呼気検査により呼気1lにつき0.15mg以上のアルコールが検出されれば、運転後に追加して飲酒していない限り、運転時には、検査結果に対応するだけのアルコール量又はそれ以上のアルコール量が(消化器官に吸収され血液や呼気に反映される前であっても)体内に保有されていたのであるから、「酒気帯び運転(0.25未満)」が成立するとするものである。
しかし、施行令44条の3は、直接には道交法117条の2の2第3号の委任を受けて、犯罪構成要件の一部である運転時の身体におけるアルコールの保有状態として、呼気1lにつき0.15mg(以上)と定めているのであるから、運転時において呼気中アルコール濃度が上記の程度に達していることが酒気帯び運転罪の犯罪構成要件であり、また、道交法103条1項の委任を受けた政令で定める処分基準の内容となっているのであって、運転時に呼気中アルコール濃度が施行令44条の3で定める程度に達したとは認められないのに、運転後の呼気検査結果が上記の程度を超え、運転時において呼気又は血液以外の器官において同程度のアルコールを身体に保有していたことになるというだけで「酒気帯び運転(0.25未満)」が成立すると解釈する(B説)ことは、法令の文言を離れた不当な拡張解釈というべきであり、酒気帯び運転罪を構成し、処分基準にいう「酒気帯び運転(0.25未満)」を構成する「身体に施行令44条の3に定める程度以上のアルコールを保有する状態」とは、運転時に呼気検査をすれば呼気1lにつき0.15mg以上のアルコールが検出される状態であることをいう(A説)と解するのが相当である。
実質的に考えても、道交法65条1項に違反する酒気を帯びた運転のうち、刑事罰や行政処分の対象となる酒気帯び運転を血液中又は呼気中のアルコール濃度が一定濃度以上のものに限定しているのは、交通事故発生の危険性を高める運転能力や判断力の低下は、胃や小腸から吸収されたアルコールが血管を通じて脳に作用する結果生じるものであることから、血液中のアルコール濃度を規制の基準とするのが合理的であり、さらに、その血液が肺に運んだアルコールが肺胞上皮に溶け込んで呼気となって排出されることから、呼気中アルコール濃度も酩酊の度合いを示すものといえるので、呼気中のアルコール濃度をも併せて規制の基準にしているものと考えられ、そうであれば、それらの規制値は、運転時に血中あるいは呼気中に存在し、現に運転能力の低下をもたらしているアルコール濃度を意味するものと解するのが相当であり、消化器官内にとどまりその後に血液内に入るアルコールをも評価の対象としているとは考え難い(このような道交法の趣旨からすれば、口腔中に残存する液体アルコールの影響により呼気検査で0.15mg/l以上の数値が検出されたとしても、それは血中アルコール濃度を反映した数値ではないから、施行令44条の3が想定する「呼気1lにつき0.15mg以上のアルコールを身体に保有する状態」とはいえない。捜査実務が呼気検査前に水でうがいをさせているのは、このような趣旨を踏まえたものである。)。
被告の主張のうち、上記説示に反する部分は採用できない。
2(1) 以上を前提に、本件における呼気検査結果から運転時の呼気中アルコール濃度が呼気1lにつき0.15mg以上であったことを推認できるかについて検討する。
一般に、飲酒後間もない時点までは、血中アルコール濃度は速やかに上昇し、最高濃度に達した後、上昇時に比して緩やかに下降し、このときの下降率はほぼ一定し、血中アルコールの消失曲線はほぼ直線となり、呼気中アルコール濃度もそれとほぼ比例することから、飲酒量から、一定時間経過したときの血中アルコール濃度や呼気中アルコール濃度をウィドマーク式算定法と呼ばれる計算式を用いて求められるなどとされている(乙20の1)。
(2) 公益社団法人アルコール健康医学協会のウェブサイトには、「アルコールは、胃や小腸から吸収され、血液に入り、循環されて脳に到達します。それまでに数十分かかります。」などと記載され(甲6)、厚生労働省のウェブサイトには、「体内に摂取されたアルコールは、胃および小腸上部で吸収されます。吸収は全般的に早く、消化管内のアルコールは飲酒後1~2時間でほぼ吸収されます。」、「飲酒後血中濃度のピークは30分から2時間後に現れ、その後濃度はほぼ直線的に下がります。」などと記載されており(甲7)、血中アルコール濃度及びこれに比例する呼気中アルコール濃度は、約30分から2時間後に最高濃度に達し、その後にほぼ直線的に下降する下降期に入るというのが一般的な医学的知見であると認められる。
本件において、原告の飲酒開始時刻は平成28年11月3日午後4時30分頃であることに争いがなく、本件全証拠によっても、当日、それ以前に原告がアルコールを身体に摂取したという証拠はない。
そうすると、その約32~36分後である同日午後5時02分から午後5時06分の間に呼気を風船に吹き込んだ時点では、原告の呼気中アルコール濃度は上昇期にあった可能性があり、運転時である同日午後4時35分頃の呼気中アルコール濃度は、呼気検査時よりも低かった可能性を否定できない。
したがって、下降期において呼気中アルコール濃度が経過時間に比例して低下するといった一般論に基づいて、本件における飲酒開始約35分後の呼気検査結果から、飲酒開始約5分後の運転時の呼気中アルコール濃度が同程度あるいはそれ以上であったと推認することはできない。
(3) ウィドマーク式算定法は、下降期の下降率がほぼ一定することから、飲酒直後の血中アルコール濃度が最大であるとして減少率に飲酒後の経過時間を乗じて一定時間経過後の血中アルコール濃度を推定する計算式であるから(乙20の1)、上昇期に適用することはできないものであり、上昇期であった可能性がある原告の運転時の呼気中アルコール濃度を推認するために用いることはできない。
(4) 被告指定代理人3名(体重約63~96kg)が、原告(体重約69kg。乙21)が当日飲酒したのと同種同量のアルコールを会議室で摂取し、水でうがいをした後に風船に呼気を吹き込み、北川式呼気中アルコール測定器DPA-11型に同風船を取り付けて呼気中のアルコール濃度を測定する実験を行ったところ、飲酒開始約5分後の数値は0.19~0.27mg/l、約35分後の数値は0.09~0.19mg/lであった(乙17)。
被告は、この実験結果から、原告についても、飲酒開始約5分後には、呼気1lにつき0.15mg以上、かつ、約35分後の時点よりも多量のアルコールが検知されることが認定できると主張する。
上記実験結果において、代理人〈1〉の呼気中アルコール濃度は、約5分後に最大値である0.19mg/lを示し、約10分後には0.14mg/lまで急激に下降し、約25分後の0.10mg/lまで緩やかに下降した後、約30分後には0.11mg/lとわずかに上昇し、約35分後には0.09mg/l、約40分後には0.08mg/lと緩やかに下降しており(乙17・33頁)、約35分後の状態はおおむね下降期にあるとみることができるものの、約30分後までの状態は、下降期にあるとは断定し難いものとなっている。
代理人〈2〉の呼気中アルコール濃度は、約5分後に最大値である0.24mg/lを示し、約10分後には0.14mg/lまで急激に下降し、約15分後には0.13mg/lまで下降した後、約20分後には0.14mg/l、約25分後には0.16mg/l、約30分後には0.18mg/l、約35分後及び約40分後には0.19mg/lと再び上昇に転じており(乙17・33頁)、約40分後までの状態は下降期にあるとは断定し難いものとなっている。
代理人〈3〉の呼気中アルコール濃度は、約5分後に最大値である0.27mg/lを示した後、約10分後には0.13mg/l、約15分後及び約20分後には0.08mg/lと急激に下降し、約25分後には0.09mg/l、約30分後には0.13mg/lと再び上昇に転じ、その後約40分後の0.10mg/lまで緩やかに下降しており(乙17・33頁)、約35分後の状態はおおむね下降期にあるとみることができるものの、約30分後までの状態は、下降期にあるとは断定し難いものとなっている。
これらの実験結果からみても、飲酒開始約5分後から約40分後までの状態には個人差があり、この間の状態が常に呼気中アルコール濃度の下降期にあるとは断定し難いというべきであり、このような僅か3名の実験結果から、飲酒開始約35分後の呼気中アルコール濃度と約5分後の呼気中アルコール濃度の関係に関する一般論(それも、一般的な医学的知見よりも被処分者に不利なもの)を導き出すことは困難というべきである。
3 以上によれば、本件における飲酒開始約35分後の呼気検査結果から、飲酒開始約5分後の運転時における呼気中アルコール濃度が呼気1lにつき0.15mg以上であったことを推認することはできず、他にこのことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、原告が運転時に身体に呼気1lにつき0.15mg以上のアルコールを保有する状態で「酒気帯び運転(0.25未満)」をしたと認定して13点を付加し、これを前提に本件取消処分をしたことは、その余の点につき判断するまでもなく、処分基準の要件を満たさないものとして違法であるから、本件取消処分は取消しを免れない。
4 本件取消処分が取消しを免れない以上、これを前提とする本件指定処分もまた違法であるから、取消しを免れない。
5 よって、原告の請求はいずれも理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。
民事第3部
(裁判長裁判官 古田孝夫 裁判官 西村康夫 裁判官 永田大貴) 】
警察公論2021年11月号付録令和3年度版警察実務重要裁判例
【本判決は,上記のとおり述べた上, ウィドマーク式算定法は,下降期の下降率がほぼ一定することから,飲酒直後の血中アルコール濃度が最大であるとして減少率に飲酒後の経過時間を乗じて一定時間経過後の血中アルコール濃度を推定する計算式であるから,上昇期に適用することはできないものであり,上昇期であった可能性がある原告の運転時の呼気中アルコール濃度を推認するために用いることはできないとして,本件における飲酒開始約35分後の呼気検査結果から,飲酒開始約5分後の運転時における呼気中アルコール濃度が呼気1リットルにつき0.15mg以上であったことを推認することはできないとして,本件各処分を取り消した。
本件のように「飲み終えたばかり」との弁解がなされたり,そのような弁解がなされる可能性があったりする場合には,警察官としてはその弁解の真実性について十分に裏付けのための捜査をすることが止められることは言うまでもない。
また,本件のような事案でウィドマーク式算定法の使用が否定されたのは,飲酒検知時に呼気中アルコール濃度が上昇期にあったのか下降期にあったのかの特定ができないことによる。このことを念頭に置くと,取締り警察官としては,①できるだけ早期に飲酒検知を行うこと,②20~30分の間隔を置いて再度飲酒検知を行うことにより,被告人の呼気中アルコール濃度が下降期にあったか否かを判断するという手法をとることが考慮されてよかろう。】