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薬院法律事務所

一般民事

酒類提供行為と飲酒運転事故の民事責任


2021年08月25日読書メモ

道路交通法により、飲食店は飲酒運転をするおそれのある者に酒類を提供することは禁止されています。

道路交通法

(酒気帯び運転等の禁止)
第六十五条 何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
2 何人も、酒気を帯びている者で、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない。
3 何人も、第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。

 

では、この規定に反して酒類を提供し、飲酒した客が交通事故を起こした場合、酒類提供者も賠償責任を負うでしょうか。結論としては、負う可能性がある、となります。以下は文献引用です。

 

飲酒運転事故と酒類提供者の民事責任の話。

大島眞一『交通事故事件の実務-裁判官の視点-』(新日本法規出版,2020年2月)

【イ非同乗型の飲酒運転関与者
非同乗型の飲酒運転関与者が責任を問われる場合としては、①配偶者や会社の上司のように、家族的・社会的な身分関係から飲酒運転の制止が期待される者の責任、②会社の同僚のように、共同飲酒をするなど事故原因となった飲酒運転に具体的・実質的に関与した者の責任がある。
まず、飲酒運転関与者と飲酒運転者との間に家族的・社会的な身分関係が認められ、当該関係から、監督義務を認めることができる場合には、監督義務違反を根拠に、監督義務違反と因果関係がある飲酒運転者による交通事故の責任を肯定することができる。
次に、飲酒運転に具体的・実質的に関与した者については、不法行為の幇助者責任(民719@)が認められることがある。この類型の常助者責任は、事故発生の危険がある他人の飲酒運転行為を放任したことに帰責の根拠を求めるものである。他人に不法行為(事故発生の危険のある飲酒運転)をさせないようにすべき注意義務を設定できる場合としては、規範的・具体的に考えて、運転者に対して飲酒運転の制止を求めることができる者に限られることになろう。この観点から、監督義務はなくとも、酒類を提供する飲食店の経営者等は、酒類提供行為が禁止されており (道交117の3の2二・65③)。飲酒運転を制止すべき義務があると考えられる。これに対し、共同飲酒したとしても、単なる友人や知人の関係にすぎない場合には、 自立した個人の事柄であり、一般的には、損害賠償責任を負担させる飲酒運転制止義務を肯定することは困難であろう。】

日弁連交通事故センター編『交通賠償論の新次元』(判例タイムズ社,2007年9月)93頁
【4共同飲酒・非同乗者の責任
(1)共同飲酒・非同乗者については,飲酒運転それ自体について共同ないし加功がないため,その責任の所在には問題があり,そのため, これまで,飲酒運転による交通事故について,共同飲酒・非同乗者の責任を追及するという事例はほとんど見当らなかったが,東京高判平16.2.26(交民37巻1号1頁)では,酒類を提供したバーテンダーの責任が問題とされた。
この事案は,勤務終了後職場で同僚らと飲酒した者が,その後自動車を運転して酒場に行き, ビール, ウイスキー,白ワインなどを飲んだ後,酒場を出て自動車を運転し,約20キロメートル走行した際に居眠り運転の状態となって歩行者に衝突し死亡させたというケースであるが,酒場のバーテンダーは,その者はこれまでも自動車で来て酒場で飲酒し,帰りも自動車を運転することを知りながら,注文に応じて, ビール, ウイスキーなどを提供したため,飲酒運転事故について責任を問われることになったものである。
1審水戸地判平15.9.22(交民37巻1号8頁)は,バーテンダーが,酒類を提供した時点で,加害者が無謀運転を行って事故を起こすことまで予見することは困難であると考えられるので,バーテンダーの酒類提供行為は,不法行為又はその常助に該当するとは認められないとして,バーテンダーの責任を否定し,上記東京高判平16.2.26も,バーテンダーは,加害者について,飲酒運転による事故発生の一般的危険性を予見できたとはいい得るけれども,事故発生自体を具体的に予見することができたとはいい難く,バーテンダーが加害者に酒類を提供したことと事故の発生との間に因果関係があるとはいえないから,事故発生について,バーテンダーに不法行為責任を認めることは困難であるとして,バーテンダーの責任を否定した。
しかし,交通事故発生自体を具体的に予見することまでも必要とするものではなく, ある程度の概括的な予見でも足りると考えられるし, この事案では,バーテンダーは,道路交通法違反(酒気帯び運転)の幇助罪により罰金25000円の刑事処分に処せられていることからすれば,バーテンダーの民事責任を認める余地がないではなく,議論のあるところであろう。
(2) ところで,東京地判平18.7.28(保険毎日新聞15416号3頁)は,共同飲酒・非同乗者についても,民法719条2項の請助者の責任を肯認した。この事案は,会社の従業員らが,終業後取引先の社長らと共に,午前2時頃まで,居酒屋やキャバクラで飲食した後,従業員の1人が会社保有の自動車を運転して帰宅途中に人身事故を起こしたというケースであるが,判決は,右運転者と長時間にわたって飲食を共にした従業員について,右運転者を駐車場に残したまま,一緒に飲酒した他の従業員の運転する車に同乗して帰宅したものであるとしても,(一)飲酒をすすめた者は,その者が飲酒後に運転することを制止する義務を負うと解するのが相当である,(二)長時間にわたって飲酒を共にした行為は飲酒をすすめたことと同視することができる,(三)タクシーや代行運転を呼ぶことなく,駐車場に残したまま帰宅したことは,飲酒運転を幇助したことに当たるとし,民法719条2項の責任を認めたものである。】