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薬院法律事務所

刑事弁護

酔っぱらいの喧嘩は罪にならない?


2019年09月13日読書メモ

もちろんそんなことはありません。酔っ払って記憶がないからといって免責されるわけではないです。捜査機関向けの本に端的に説明されていたので紹介します。前もご紹介しましたが、良い本です。
捜査機関向けの本って、弁護士向けの本と着眼点が違うので、持っておくと参考になります。

高嶋智光編集代表『新時代における刑事実務』(立花書房,2017年1月)79頁

「責任能力と精神鑑定」高嶋智光

【ク 飲酒酩酊
飲酒酩酊の上で暴行等に及んだ被疑者が「犯行当時の記憶がない」と供述するケースは多数あるが, このような場合, 「記憶がない」と述べている一事をもって「責任能力に問題があり,鑑定の必要がある」と考えるのは早計である。「記憶がない」との言い分が虚言であることはしばしばあり, まずはその点の留意が必要なのであるが, ここでは議論の整理のため虚言ではないとしよう。そうだとしても,記憶喪失は犯行当時酩酊していたことをうかがわせる一事情にすぎない。酔っていても,犯行前後に他者とまともに会話を交わし,犯行後も,帰宅のために乗ったタクシー運転手に正しく行き先を指示し,現に自宅に帰り着いたといった事情があるとき,すなわち,認知能力やコミュニケーションに特段の異常が生じていないような場合は,睡眠により当時の記憶を失ってしまったにすぎず,責任能力は問題とならないことが多い。鑑定が必要となるのは,更にプラスアルファの事情が認められる場合である。
その事情とは何か。飲酒酩酊により責任能力が問題となる多くのケースでは,前述(62頁)の①認知→②判断→③行動のプロセスのうち①の認知に問題が生じている場合が多いようである。もうろう,せん妄等の意識障害が生じ,例えば, トイレではないのにトイレと思って用を足そうとする,他者が介抱しようとしているのに攻撃をしかけていると誤認するなどである。認知に異常があれば, その後の判断や行動が異常なものになっても責任を問い難い場合が生ずる。このように認知能力に問題が生じている場合には,鑑定を必要とすることが多いと思われる。
なお,認知に異常がないのに②の判断に異常が生ずる場合もあり得るが,それは平素の人格・性格(短気である,凶暴であるなど)に原因することが少なくない44)。平素の性格との連続性が認められれば,鑑定を実施しても飲酒酩酊との因果関係は否定する方向に作用することとなろう。】