文献紹介 江里口紀子「実例捜査セミナー 内妻の実子に対する強姦事件の捜査公判について」(犯罪被害者)
2018年07月20日犯罪被害者
捜査研究2017年2月号に実子を強姦した父親の事件が掲載されていました。犯罪被害者代理人の立場からも参考になる記事と思いましたので、かいつまんで紹介いたします。
江里口紀子「実例捜査セミナー 内妻の実子に対する強姦事件の捜査公判について」
「加害者Aが内妻の実子V(10歳)を姦淫し、妊娠・堕胎させた事件。Vの母親がAをかばって告訴せず、引き続きVとAの同居を強く望んだ事件。最終的にはV母の告訴を得て、実刑8年となった。
V母は、Vが「Aに強姦されて妊娠したこと」を伝えても、人違いではないかとVを詰問したり、そのままAと住みたいと述べた。警察官や児童相談所の介入にも強く反発した。児童相談所はVとVの姉を一時保護した。
司法面接を実施。全過程を録音録画し、発問の順序や仕方について厳格なルールが定められている。途中で泣き出してしまい、予定より早く終結した。
当時は親告罪であったが、Vはまだ幼く告訴能力に疑問があったこと、告訴意思に関する供述を得られなかったことで、Vの母からの告訴が必要であった。しかし、頑なに告訴を拒否された。強姦致傷での立件も考えたが、妊娠を傷害とはいえない、堕胎も因果関係が欠けるで出来なかった。児童福祉法違反の「淫行をさせる行為」のみでの立件もありえたが、実態にそぐわない。
児童相談所の一時保護期間の満了日が迫ったことから、親権停止の家事審判申立をした。その上で、児童相談所長に法定代理人として告訴してもらい、逮捕するという方針を立てた。なお、家裁との事前協議で消極的意見もあったこと等から、保全処分も考えたが、本案のみとした。
すると、Vの母は代理人弁護士を選任して争い、Aを告訴すると述べて告訴したものの、「事実ではない可能性があると思っている」「Aは私と間違えてVと性交したと思っている」「告訴意思は当初あったが、警察官が受理しなかった」などと述べたことから、申立は公判請求がされるまで取り下げなかった。
Aは、姦淫の事実を否認したり、Vの母と間違えたかもしれない等否認した上、途中からはVに誘われたのだと主張した。しかし、V母が告訴を脅されてしたなどと言い出す可能性も考慮して、V母の告訴意思が堅いとの供述調書も作成した。その上で児童淫行罪も併せて起訴した。VがAに好意を示すようなメールを送っていることから「淫行させた」の立証も可能と考えたが、Vの心身を考えて、最終的には強姦罪のみとして追加立証はせず。
判決後にチャイルドファーストジャパンの研修に参加して、子どもの性虐待順応症候群について学んだ。①秘密(脅し等により被害申告が出来ない)②無力感(保護者から被害を受けたことで申告できない)③罠にはまり、順応する(せめて避妊をして欲しいと頼む等)④開示の遅れ、説得力にかける開示(これらの状況から被害申告が遅れたりする)、⑤撤回(被害申告は虚偽だという)といった状態がある。Vが好意を示すメールはまさしく③の段階で、これを児童淫行とするのは的外れだった。」
率直な感想として、懲役8年というのは軽すぎると思いました。私は、児童を強姦した事件の刑事弁護は受任しておりません。
http://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/sousakenkyu/201702/
※参考記事