私が逮捕される可能性はどの位あるんでしょうか、という相談(盗撮、刑事弁護)
2021年06月25日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、盗撮行為(万引き、大麻、横領等々)をしてしまいました。逮捕されることだけは避けたいと思っているのですが、自首する勇気もありません。このままにしていた場合、逮捕される可能性はどの位あるのでしょうか。
A、事案によります。刑事事件の統計としての身柄率というものはありますが、個別判断です。時代によっても変わってくると思います。
【解説】
私は弁護士ドットコムで良く法律相談の回答をしているのですが、良くある質問で「逮捕の可能性はどのくらいあるんでしょうか」というものがあります。特に犯行が発覚しているかどうかわからないけど、いきなり警察が逮捕状を持ってこないか、ということを心配されるようです。これについては、「わからない」というのが一般的な回答です。正確にいえば、「詳しく事案を聞けば、知識と経験のある弁護士であればある程度可能性の高低を推測することは可能。だが、究極的にはわからない。」というものです。もっとも、あまり考えず「わかりません」と回答する弁護士も多いと思います。
何故「わからない」という回答になるかといいますと、以下の3つの理由があります。
1 そもそも犯罪が成立するかわからない
2 犯行が発覚しているかわからない
3 逮捕状が発付される要件が固定的な基準ではなく令状裁判官の裁量による部分がある
1については、罪になるかどうか刑事罰についての正確な理解が必要になります。特に、「判例」と「警察実務」においてどう判断しているかが大事です。
2については、捜査の端緒があるかどうか、そこから特定されうるかどうか、立件価値があるかといった判断をすることになります。
これらは具体的事情を踏まえての判断になります。予測は難しいところですが、弁護士の知識と経験が重要になります。
3については、通常逮捕については「逮捕の理由」、すなわち刑事訴訟法199条1項にある、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由に加えて、「逮捕の必要性」も要件とされています。「逮捕の必要性」とは,被疑者につき逃亡するおそれ又は罪証を隠滅するおそれのいずれかの事由があり,かつ逮捕を不要とする特段の事情が存在しないことをいうと解されています。これらは裁判官が、個別具体的に、どういう犯罪か、どういう証拠を警察が収集しているかといったことを確認した上で判断します。そのため、弁護士としてはそこを推測した上で逮捕状請求が認められるか検討します。
※刑事訴訟法
第百九十九条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131#Mp-Pa_1-Ch_9
ただし、刑事訴訟規則143条の3は次のとおり定めており、裁判官が逮捕の必要性がないとして逮捕状請求を却下するのは例外的であることに注意が必要です。
※刑事訴訟規則
第143条の3 (明らかに逮捕の必要がない場合)
逮捕状の請求を受けた裁判官は,逮捕の理由があると認める場合においても,被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし,被疑者が逃亡する虞がなく,かつ,罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは,逮捕状の請求を却下しなければならない。
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2023/keijisosyoukisoku.20240215.pdf
逮捕状が発付されるかどうかについては、相場感と呼べるものがあります。この程度では認められない可能性が高い、などと推測します。例えば、初犯の軽微な道路交通法違反(速度違反)で、1回出頭しなかっただけで逮捕状請求が認められることはないだろう、などと判断します。この判断にあたっては裁判官向けの本などを確認します。もっとも、すべてについて文献があるわけではないです。検察統計調査の身柄率も参考になります。
そして、そもそも捜査官が逮捕状発付を裁判所に請求しなければ逮捕状は発付されないのですから、捜査官が逮捕状を請求するかどうかも考えないといけません。捜査官が逮捕状を請求するかどうかについては、まず捜査官が捜査の端緒を得る可能性があるか、事件として立件する可能性があるか、どういった証拠を捜査官が収集できるのか、といったことを検討します。さらに、捜査官は、逮捕状を請求すれば認められる場面でもあえて任意捜査を先行させることもあります。早く逮捕し過ぎてしまうと、再逮捕が原則として認められないことから、結局証拠不十分で不起訴になり犯人に逃げられてしまうからです。これらも考慮しないといけません。また、私の経験則ですが、警察が逮捕状を請求する場合は、その後の勾留請求でも勾留が認められるだけの証拠(犯罪の嫌疑や証拠隠滅、逃亡のおそれなど)を集めた上で請求することが多いです。こういった請求するかしないかの判断については、捜査官向けの本を参考にします。
弁護士としては、捜査官の気持ちに立って、具体的な事案で逮捕状請求がされるかを検討し、裁判官の立場にたってその請求が認められるか検討します。ただ、どこまでいっても推測は推測なので、保証はできないのです。
【参考リンク】
令和5年版 犯罪白書 第2編/第2章/第3節 被疑者の逮捕と勾留
https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/70/nfm/n70_2_2_2_3_0.html#h2-2-3-2
3節 被疑者の逮捕と勾留
検察庁既済事件(過失運転致死傷等及び道交違反を除く。以下この節において同じ。)について、全被疑者(法人を除く。)に占める身柄事件の被疑者人員の比率(身柄率)、勾留請求率(身柄事件の被疑者人員に占める検察官が勾留請求した人員の比率)及び勾留請求却下率(検察官が勾留請求した被疑者人員に占める裁判官が勾留請求を却下した人員の比率)の推移(最近20年間)は、2-2-3-1図のとおりである。
勾留請求率は、平成15年以降、90%台前半で推移している。勾留請求却下率は、18年以降、毎年上昇していたが、令和2年から低下に転じ、4年は3.8%(前年比0.3pt低下)であった。
令和4年における検察庁既済事件について、被疑者の逮捕・勾留人員を罪名別に見ると、2-2-3-2表のとおりである。
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