【えん罪】警察の任意取調べの内容を録音したいが、拒絶されているという相談(刑事弁護)
2024年12月09日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、東京都豊島区巣鴨で飲食店を経営している者です。先日、お客様が帰宅途中に飲酒運転での事故を起こされたということで、店長の私も警察に呼び出されました。警察からは、「車で来ていたことはわかっていただろう」と責められ、私も犯罪者扱いされています。取調べの態度があまりに高圧的なので、取調べを録音して、youtubeに公開したいのですが、問題はないでしょうか。
A、警察は「録音」に対して非常に警戒しています。理論上は隠し録音をしている場合には、「建造物侵入罪」が成立する可能性もあり、対応は難しいところです。弁護士に面談相談を受けて、その弁護士の方針に従って対応すべきだと思います。取調べを拒否するという方針や、メモを取ることを求めるといった方針も考えられるでしょう。
【解説】
難しい問題です。警察は「録音をする」といえば拒否してきます。取調自体を行わないということが多いでしょう。それでもう終わるのであれば良いのですが、現状では取調べ拒否に準じて逮捕状が発付される可能性もあります。調べた限り前例はないです。秘密録音の場合は、「正当な理由」があると私は考えていますが、裁判所が同様に考えてくれるかは保証できません。盗撮目的での銀行への侵入につき建造物侵入罪の成立を認めた最高裁判例があります。
最高裁平成19年7月2日決定
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=34887
判示事項
1 現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的でした営業中の銀行支店出張所への立入りと建造物侵入罪の成否
2 現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮するためのビデオカメラを設置した現金自動預払機の隣にある現金自動預払機を,一般の利用客を装い相当時間にわたって占拠し続けた行為が,偽計業務妨害罪に当たるとされた事例
裁判要旨
1 現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で現金自動預払機が設置された銀行支店出張所に営業中に立ち入った場合,その立入りの外観が一般の現金自動預払機利用客と異なるものでなくても,建造物侵入罪が成立する。
2 現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮するためのビデオカメラを設置した現金自動預払機の隣にある現金自動預払機を,あたかも入出金や振込等を行う一般の利用客のように装い,適当な操作を繰り返しながら,1時間30分間以上にわたって占拠し続けた行為は,偽計業務妨害罪に当たる。
【参考文献】
警視庁刑事部刑事総務課編「第20章 被疑者等の取調べ 第6 諸問題 3 被疑者による取調べ状況の録音の適否」『実務(42) 刑事手続』(警視庁刑事部,2023年2月)297頁
森直也「Q9 依頼者から「捜査機関から呼出しを受けた」と相談された場合に留意すべきことは何か。」後藤貞人編著『否認事件の弁護-その技術を磨く(上)』(現代人文社,2023年4月)83-89頁
88-89頁
【(6) 取調べを自ら録音すること(自己可視化)について
任意の取調べに際して、出頭する被疑者にIC レコーダー等の録音機器を持たせ、それにより取調べの状況を自ら録音するようアドバイスすることも、防御権行使の観点から有用なアドバイスとなる。
この点捜査機関は、捜査側の施設管理権や関係者のプライバシー等を理由に、被聴取者による録音を拒絶する。しかし、任意で取調べに応じてその状況を自ら録音することは、被疑者に認められる防御権の観点から、何ら問題はないと考えられる。
もっとも、施設管理権に基づく所持品検査を拒むことは困難であるし、拒絶態様を間違えれば、場合によっては、公務執行妨害とされるといったリスクもある。捜査官から、所持品検査によって録音機器の使用を禁止された場合には、自己可視化の権利性を主張して、使用を認めるように申し入れることになろう。】
http://www.genjin.jp/book/b619897.html
東京地方検察庁交通部実務研究会「問41 被疑者の取調べの際に,録音機を使用させて欲しい旨の申し出があった場合にはどのように対応すべきか」『改訂版交通事故事件捜査110講』(警察時報社,2009年9月)146-147頁
147頁
【以上のとおりで,被疑者に録音機を使用する権利ないし権限が認められているわけではないから,被疑者が,録音機を使用させて欲しいと要求してきた場合には,これを拒否して差支えない。】
http://www.k-jiho.com/templates/shows/traffic/hundred.html
川崎拓也・黒田学「特集 取調べへの弁護人立会い 弁護実践としての到達点」自由と正義2024年5月号27-32頁
29頁
【<古田国賠(名古屋高判令和4年1月19日)>勾留請求却下後の捜査機関からの取調べ要望の連絡を受けて、現に捜査機関に出頭し、弁護人立会いでの取調べを求め、これを拒絶されたためにやむなく帰宅するという弁護方針を採っていた事案において、名古屋高判は、弁護人が立ち会えないことを理由として取調べに応じなかった行為を「正当な理由のない不出頭を繰り返した場合に準じ、逃亡ないし罪証隠滅のおそれがあるとして逮捕の必要性があると評価することに合理的根拠がないとはいえ(ない)」などと判示した。
極めて不当な判決であるが、弁護実践においては、この判決内容も意識した判断、活動が必要である。逮捕リスクを徹底してなくすのであれば、取調べの「場」の設定(呼出しに応じて出頭し、取調べに応じる)まで必要になるであろう。】
https://www.nichibenren.or.jp/document/booklet/year/2024/2024_5.html
警察実務研究会編『警察公論2022年12月号付録 令和4年度版警察実務重要裁判例』107頁
【3 近時、身柄事件のみならず、在宅事件についても、捜査段階における弁護活動がより活発になってきており、本件のように、被疑者が弁護人を伴って出頭し、弁護人の立会いがなければ取調べに応じない旨主張する事案も増えていくという見方もあり得るところ、こうした事案においては、被疑者や弁護人に対し、取調べへの弁護人の立会いに関する法解釈・運用を説明して取調べに応じるよう促すことが重要であることはもちろんであるが、仮に、被疑者側の理解が得られなかった場合には、本判決のような裁判例を踏まえつつ、必要に応じて担当検察官と相談するなどし、どのような対応をとるのが最善であるのかを事案ごとに十分に検討していく必要があるように思われる。】
https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3814
刑事訴訟法 No.157 (文献番号 z18817009-00-081572275) 2023/1/13掲載 本文
在宅被疑者が弁護人立会いなしの取調べを拒否したところ、逮捕された事例(名古屋高等裁判所令和4年1月19日判決<LEX/DB25593187>)
宇都宮大学准教授 黒川亨子
https://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-081722495_tkc.pdf
【参考記事】