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薬院法律事務所

刑事弁護

【判例時報賞応募論文】「性的盗撮規制の最前線-軽犯罪法の窃視罪と,迷惑防止条例の相克-」(2019年2月)


2025年01月06日刑事弁護

2019年2月に判例時報賞に応募して落選した論文です。

迷惑行為防止条例の解説を書いているなかで発見したので、記念として掲載します。chatGPT o1 proの査読もつけます。

 

【タイトル】

「性的盗撮規制の最前線-軽犯罪法の窃視罪と,迷惑防止条例の相克-」

 

【アブストラクト】

近時,迷惑行為防止条例の「盗撮」「(盗撮目的でのカメラ等の)差し向け行為」「のぞき見」規制の適用範囲が拡大している。具体的には,従前規制場所とされていた公共の場所に限らず,事務所・集会場所など特定多数の人が集合する準公共空間や,個人の住居等の純然たる私的空間についても規制されるようになってきている。

しかし,私的空間における「盗撮」「差し向け行為」「のぞき見」の規制は,軽犯罪法1条23号の窃視罪と規制内容が重複しており,軽犯罪法との抵触が問題となる。

筆者は,各自治体に情報公開請求を行い,条例策定過程を検討したところ,自治体によって私的空間の規制の可否について見解が分かれていること,軽犯罪法との関係から条例による私的空間の規制を断念している自治体もあることがわかった。

筆者は,少なくとも,私的空間に対する「のぞき見」「差し向け行為」の規制は軽犯罪法の上乗せ規制として違法と考える。立法的解決が必要な問題である。各都道府県における迷惑防止条例の立案担当者においては,当面の間,私的空間への条例による規制拡大については差し控えるべきである。

裁判官などの法曹実務家においても,私的空間における盗撮行為が迷惑行為防止条例違反で立件された場合は,本稿の問題意識,及び憲法の人権各規定を踏まえた,慎重な取り扱いをすることが望まれる。

 

【本文】

Ⅰ 性的盗撮に対する現行法の規制

近年,スマートフォンやカメラ付携帯電話,盗撮用の隠しカメラ等を利用して,「他人の下着や衣服で隠された身体部分をひそかに撮影する行為」(以下,「性的盗撮行為」とする。また,性的盗撮目的でカメラ等を差し向ける行為及びのぞき見行為も併せて「性的盗撮行為等」とする。)が増加している。

現行法上,これらの性的盗撮行為等に対する規制としては,窃視罪(軽犯罪法1条23号),児童ポルノ盗撮製造罪(児童ポルノ規制法7条5項),各都道府県の迷惑防止条例による規制が存在しているが,性的盗撮全体を取り締まる法律はない*[1]*2

 

Ⅱ 軽犯罪法の規制と迷惑防止条例の規制の重複

軽犯罪法1条23号は「正当な理由がなくて人の住居,浴場,更衣場,便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」(窃視罪)と定めており,盗撮行為も規制対象とされている。

一方,迷惑防止条例は,従前,「公共の場所又は公共の乗物」での性的盗撮行為を規制しており,軽犯罪法と迷惑防止条例の規制が重複した場合には,軽犯罪法違反のみが成立するとされてきた*3

しかし,平成30年12月20日現在では,迷惑防止条例における性的盗撮行為の規制範囲を広げる自治体が増加しており,公共の場所や公共の乗物のみ規制する自治体,事務所・集会場所などのいわば「準公共空間」に規制を及ぼす自治体,住居等の私的空間について規制を及ぼす自治体,私的空間における性的盗撮行為のみならずのぞき見行為も規制する自治体など,規制状況は多様化している。また,迷惑防止条例違反と軽犯罪法違反を観念的競合で運用する自治体が多数となっている(後掲一覧表参照)。

しかし,私的空間における性的盗撮行為等を罰則付きで規制することは,軽犯罪法の窃視罪に対する上乗せ規制として違法になるのではないか(憲法94条)*4,という疑問がある*5。これが本稿の問題意識である。

そこで,筆者は,軽犯罪法及び迷惑防止条例に関する文献を収集するととともに,警視庁及び全国の警察本部に対して情報公開請求を行い,あるいは情報提供を依頼して条例改正の過程を調査した。

その結果,条例改正にあたっては,軽犯罪法との関係を踏まえた上で,準公共空間までの規制に留める自治体(大阪府等)と,あえて私的空間に対する規制を及ぼす自治体(東京都等)と分かれていることが分かった。一方で,北海道など特に軽犯罪法との関係について検討がされた形跡がない自治体もあった*6

筆者は,軽犯罪法の窃視罪の規定が,身体を他人に見られたくないという自然的感情と社会風俗の双方を保護するものであり迷惑行為防止条例の規制と目的及び規制対象が重複していること,軽犯罪法が未遂犯を処罰しておらず,かつ,4条で濫用を戒めるなど上乗せ規制について抑制的と考えられることから,住居等の公共性を欠く場所における盗撮行為規制は,条例制定権の限界を超えており違法の疑いが強いと考えている。とりわけ,私的空間における,「のぞき見行為」及び「差し向け行為」について条例で規制することは,上乗せ規制として違法と考えざるを得ない。

以下,軽犯罪法の窃視罪と,東京都「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(以下,「東京都迷惑防止条例」とする)の盗撮行為規制について概観しつつ,筆者が上記結論に至った理由を説明する。

 

Ⅲ 軽犯罪法の窃視罪の概要

1 軽犯罪法の概要

軽犯罪法は,わずか4条からなる法律であり,日常生活における卑近な道徳律に違反する軽い罪を拾うことを主眼とする刑事実体法である。

ルーツとしては,明治6年7月19日太政官布告第256号「違式詿違条例」まで遡り,現行の軽犯罪法は明治41年9月29日内務省令第16号「警察犯処罰令」が日本国憲法の施行に伴い失効することに併せて,昭和23年5月1日に成立した。

刑罰が拘留又は科料しかないことから,弁護士業務で出会うことはそう多くはないものの,地域警察官には必須の法律である。平成28年度には8318件が送致されている(平成29年版 犯罪白書 第1編/第2章/第2節「主な特別法犯」)。

2 窃視罪の概要

軽犯罪法1条23号は,「正当な理由がなくて人の住居,浴場,更衣場,便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を処罰するものとされており,「のぞき見」には肉眼でみるほか,撮影器具を利用して撮影することも含まれると解釈されている*7

3 窃視罪の保護法益

窃視罪は警察犯処罰令には存在しておらず,軽犯罪法成立時に追加された規定である。同条の立案者は,本号の立案趣旨について「人の私生活の秘密,特に肉体を人に見られないという権利は, これは厚く保護されなければならないのでありますから,妄りに他人の隠すべき肉体の部分を覗き見るということは, この権利を侵しますし,私生活の平穏を害するものである。そこでこのような規定を設けることにいたしました。この罪は性的犯罪の一種だと見ることができようかと思います。(第2回国会参議院司法委員会会議録第6号5頁)」と説明しており,プライバシーの保護と私生活の平穏を保護するものであることを明示している。軽犯罪法成立直後の文献においても,個人のプライバシーを保護するという趣旨の説明がなされている*8

その後の文献では,「性的風紀を維持するとともに,被害者の個人的秘密を保護しようとする趣旨」*9,あるいは「いわゆる痴漢行為,出歯亀行為を禁止する趣旨であるがその根底には,憲法一三条に由来する.プライバシーの権利がある。自己の肉体を勝手に他人に見られたくないという人間の自然的感情は,それ自体保護に値するものである。他方,本号の規定が,猥褻罪,強姦罪などの性犯罪の発生を未然に防止する役割を期待されているものであることもまた,否定することができないと思われる。」*10といった説明がなされてきた*11

これらの説明からすれば,窃視罪の保護法益としては,個人のプライバシー(性的プライバシーと私生活の平穏)という個人的法益を中心として,性的風紀の維持という社会的法益も保護法益となっているものと考えられる。

 

Ⅳ 東京都迷惑防止条例の盗撮行為規制の概要

1 迷惑防止条例の概要

迷惑防止条例の先駆けとなったのは,東京都迷惑防止条例(昭和37年東京都条例第103号)である。当時は「ぐれん隊防止条例」と俗称されており,公共の場所や公共の乗り物における迷惑行為を規制するものとして始まった*12。その後,全国各地に同様の条例が制定されるようになり,主に公共の場所と公共の乗り物における迷惑行為を規制していた*13

近時は,公共の場所以外における性的盗撮行為の規制や,ストーカー規制法では規制出来ない「つきまとい行為」を規制するようになってきている。

2 東京都迷惑防止条例における盗撮等行為の規制概要

東京都迷惑防止条例は,平成30年3月30日付で次のとおり盗撮規制を改正した(改正箇所に下線を引いた)。平成30年7月1日より施行されている。

『(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)

第5条 何人も,正当な理由なく,人を著しく羞恥させ,又は人に不安を覚えさせるような行為であつて,次に掲げるものをしてはならない。

(1) 公共の場所又は公共の乗物において,衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。

(2) 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を,写真機その他の機器を用いて撮影し,又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け,若しくは設置すること。

イ 住居,便所,浴場,更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所

ロ 公共の場所,公共の乗物,学校,事務所,タクシーその他不特定又は多数の者が利用し,又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)

(3) 前2号に掲げるもののほか,人に対し,公共の場所又は公共の乗物において,卑わいな言動をすること。』

5条2項イは,ほぼ軽犯罪法1条23号の規制と同一文言である。警察庁生活安全特別捜査隊作成の解説書によれば5条2号イの「通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」は「人が通常衣服の全部又は一部をつけないでいるような可能性がある場所である限り,これに該当する」とされており,5条2号ロの「多数の者」は「複数の者と同義で2名以上のことをいい,これには被疑者自身も含まれる」*14としている。

イとロ両者の規制により,ほぼ全ての場所で「通常衣服で隠されている下着又は身体」を撮影したり,機器を差し向けたりすることが規制されている(上掲解説には「特定の1名以外の者以外は利用,出入りすることができない場所,乗物」が規制外とあるが,具体例は挙げられていない。実際,性的盗撮が問題となる事例で5条1項・2項の適用対象外になる場所は想定しがたい。)。

なお,上掲解説書によれば,5条2号では,住居やホテルの客室における夫婦間等の性交やデリバリーヘルス嬢による性的サービス等の際に関係者が自ら露出した場合であっても適用対象になるとされており,例えば,配偶者の不貞行為を確認するために室内に隠しカメラを設置するといった行為も本号に違反しうると考えられる。

3 東京都迷惑防止条例における盗撮等行為の保護法益

上掲解説から規定の趣旨について引用する。

「近年の盗撮行為は,スマートフォンの急速な普及,撮影機器の更なる高性能化,小型化に伴い,これらの機器を使用して犯行に及ぶことにより,犯行の秘匿性が増し,様々な場所において盗撮が行われるなど,都民生活の平穏が著しく脅かされている状況にある。また,盗撮された画像データは半永久的に記録され,ネット上に流出するおそれがあるほか,個人の特定が可能な情報が含まれているケースも少なくなく,被害者に係る法益侵害の程度は深刻である。したがって,本改正では,これまで処罰対象とされていなかった住居内や会社事務所内,会社や学校のトイレ,更衣室等における盗撮行為の取締りを可能とすることにより,都民の不安感や懸念を払拭し,都民生活の安全・安心の確保を図るものである。」。

「軽犯罪法第1条第23号(窃視の罪)は,プライバシーを侵害する抽象的危険性のある行為を禁止し,併せて,性に関する風紀の維持を図ることを目的としており,構成要件は「人が通常衣服を着けないでいるような場所」を「ひそかにのぞき見る」ことである。

他方,本号の「盗撮」は,個人の意思及び行動の自由を保護し,善良な風俗環境を保持することを目的としており,構成要件は「人の通常衣服で隠されている下着又は身体」を「撮影する」こと等である。

したがって,本号は軽犯罪法とはその目的及び構成要件を異にしており,別罪を構成することから,観念的競合の関係になる。」

ここでは社会的法益と個人的法益の両面があることが説明されている。

 

Ⅴ 迷惑防止条例による盗撮規制の限界(東京都条例を素材として)

1 条例制定権の限界

憲法94条は「地方公共団体は,その財産を管理し,事務を処理し,及び行政を執行する権能を有し,法律の範囲内で条例を制定することができる。」と定めている。

現在,条例制定にあたって主に問題とされることは,①事柄の性質上条例で定められない事項か否か,②既に法律の定めがある場合に,重複した規制をすることが「法律の範囲内」といえるか否か,③憲法の人権規定と適合するか否か,という点である。

本稿では,②について検討する。

2 「法律の範囲内(憲法94条)」の解釈

法律の規制と条例の規制が重複した場合のリーディングケースである徳島市公安条例事件判決(最大判昭和50年9月10日刑集29巻8号489頁)は,「条例が国の法令に違反するかどうかは,両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく,それぞれの趣旨,目的,内容及び効果を比較し,両者の間に矛盾牴触があるかどうかによつてこれを決しなければならない。例えば,ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも,当該法令全体からみて,右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは,これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうるし,逆に,特定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合でも,後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり,その適用によつて前者の規定の意図する目的と効果をなんら阻害することがないときや,両者が同一の目的に出たものであつても,国の法令が必ずしもその規定によつて全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく,それぞれの普通地方公共団体において,その地方の実情に応じて,別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは,国の法令と条例との間にはなんらの矛盾牴触はなく,条例が国の法令に違反する問題は生じえないのである。」旨判示し,「道路交通法77条1項4号は,同号に定める通行の形態又は方法による道路の特別使用行為等を警察署長の許可によつて個別的に解除されるべき一般的禁止事項とするかどうかにつき,各公安委員会が当該普通地方公共団体における道路又は交通の状況に応じてその裁量により決定するところにゆだね,これを全国的に一律に定めることを避けている」といったことから,「道路交通法77条及びこれに基づく公安委員会規則と条例の双方において重複して施されている場合においても,両者の内容に矛盾牴触するところがなく,条例における重複規制がそれ自体としての特別の意義と効果を有し,かつ,その合理性が肯定される場合には,道路交通法による規制は,このような条例による規制を否定,排除する趣旨ではなく,条例の規制の及ばない範囲においてのみ適用される趣旨のものと解するのが相当であり,したがつて,右条例をもつて道路交通法に違反するものとすることはできない。」と判断した*。

この判決は,道路交通法と徳島県公安条例の目的及び規制対象が共通することを前提にしつつも,道路交通法の規定の解釈から条例の有効性を導いたものである。軽犯罪法1条23号の窃視罪と迷惑行為防止条例違反の盗撮規制との関係についても射程が及ぶと考えられる。*15

3 軽犯罪法と東京都迷惑防止条例の趣旨目的について

軽犯罪法1条23号は個人のプライバシー(性的プライバシーと私生活の平穏)という個人的法益を中心として,性的風紀の維持という社会的法益も保護法益とするものである。東京都迷惑防止条例の盗撮規制は「個人の意思及び行動の自由を保護し,善良な風俗環境を保持することを目的」とするものであるから,両者の趣旨目的は重複している*16

4 軽犯罪法と東京都迷惑防止条例の規制対象について

この点,各自治体における解説にあるように,軽犯罪法は「場所」を規制しているものであり,「人」を対象とする迷惑防止条例とは規制対象が異なるという説明も考えられる(前掲注7)伊藤・勝丸170頁等)。しかし,迷惑防止条例においては人が不在の場合に軽犯罪法違反のみ成立するという意味で規制範囲が狭いというに過ぎず,重複は否定できない。

しかし,いずれも法令の趣旨目的が共通している上,軽犯罪法は人がいようがいまいが法定刑を変えていないことからこの説明には無理があると思われる。この理屈だと,例えば住居侵入罪について,人がいる場合には刑罰を加重する,といったことも可能になる(条例の罰則としての限界があるので罰金刑の引き上げだけになる)。規制対象は重複している。

5 迷惑防止条例による盗撮規制の合法性について

このように,軽犯罪法と,迷惑防止条例と趣旨目的及び規制対象は重複していることから,軽犯罪法1条23号が規制する場所での性的盗撮行為等について規制をすることは,いわゆる上乗せ規制にあたる。

この点,軽犯罪法は,日常生活における卑近な道徳律に違反する軽い罪を拾うものであり,行政目的達成のために行政法規に別途必要最小限の罰則を定めることが考慮されていたことからすれば*17,条例による規制であっても,地域による自主立法であることから,その地方の実情に応じた行政目的達成のための規制,といえるのであれば,必ずしも上乗せ規制が許されないわけではないと考えられる。

具体的には「公共の場所」「公共の乗り物」における性的盗撮行為等の規制は,性的盗撮行為等が公共の場所や公共の乗り物で行われることにより,単なる個人的法益に留まらず,(地域の実情に応じた)社会的法益が侵害されるといえるから,これを規制することは軽犯罪法とは抵触しないと考えられる*18

しかし,地方の実情に応じた行政目的達成の規制と言い難い,個人的法益のみを保護する条例までが許容されるかどうかは問題である。軽犯罪法4条が「この法律の適用にあたつては,国民の権利を不当に侵害しないように留意し,その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあつてはならない。」としていることは軽視できない*19。軽犯罪法は,国民の日常生活上の行為を規制することに対して,抑制的な立場を取っていると考えざるを得ない。また,法律の場合,「管轄省庁による立案」,「関係省庁との協議」,「罰則について法務省刑事局との協議」,「内閣法制局による徹底的な検討」,「国会委員会における論議」というような慎重な手続きが取られるのであり,条例と同視することは出来ない。条例制定手続には検察協議*20があるとはいうものの,法律上必須の手続きともされていない。

そうすると,社会的法益の要素を欠く,私的空間における性的盗撮行為等の規制は,地方の実情に応じた行政目的達成のための規制とはいえず,条例での規制は軽犯罪法の許容するものとはいい難い*21。地方の実情に応じた規制と言い得る準公共空間について盗撮規制を及ぼすことは許容されるものの,東京都迷惑防止条例のように完全な私的空間について盗撮規制を及ぼすことは許容されない*22*23

とりわけ,軽犯罪法が正面から規定している「のぞき見」に対する規制,撮影行為という法益侵害が生じていない「差し向け」行為に対する規制については,軽犯罪法が未遂犯を処罰していないことからも,規制は許容されない*24。各都道府県における迷惑防止条例の立案担当者においては,当面の間,私的空間への条例による規制拡大については差し控えるべきである。筆者は,現行法下では,大阪府や京都府の迷惑防止条例が,憲法上許容される限界と考える。

 

Ⅵ おわりに

性的盗撮行為は,深刻な人権侵害行為である。被写体の性的プライバシーを侵害する卑劣な行為であるのみならず,画像が拡散した場合には原状回復が不可能な損害を生じさせる。カメラの高性能化,小型化が進む中,私的空間における規制の必要性は高まっているといえる。

しかしながら,本稿で述べたとおり,条例による規制は軽犯罪法との抵触につき疑念がある。また,東京都迷惑行為防止条例のように広範な規制は,取材の自由や,報道の自由,私生活上の行動の自由や,自宅におけるプライバシー権,施設管理権に対する制約になり得る*25。立法による規制対象の明確化が必要な時期に来ていると考える。

裁判官などの法曹実務家においては,私的空間における盗撮行為が迷惑行為防止条例違反で立件された場合は,本稿の問題意識,及び憲法の人権各規定を踏まえた,慎重な取り扱いをすることが望まれる。

なお,本論考の作成にあたっては,警視庁及び各都道府県の警察本部の生活安全課等の担当部署から資料提供等の多大な協力を得た。この場を借りて深くお礼を申し上げる。本稿が,今後の議論のきっかけとなれば幸いである*26

*[1]性的盗撮行為に対する現行法の規制及び海外の立法例を概観するものとして,間柴泰治「盗撮行為を規制する刑事法をめぐる論点」(レファレンス第61巻11号)133頁~がある。

*2その他,盗撮目的での侵入につき,住居侵入罪(刑法130条)が適用されることもある。また,映像の拡散については,名誉毀損(同230条),侮辱罪(同231条),わいせつ物公然陳列罪(同175条),児童ポルノ提供等罪(児童ポルノ規制法7条),私事性的画像記録提供等罪(いわゆるリベンジポルノ防止法3条)等が適用されることがある。盗撮行為に対して適用される刑罰法規については渡邊卓也「盗撮画像に対する刑事規制」(井田良ほか編『山中敬一先生古稀祝賀論文集[下](成文堂,2017年4月)』)131頁~に詳しい。

*3會田正和「迷惑防止条例」藤中幸治編集代表『シリーズ捜査実務全書⑨ 風俗・性犯罪 第3版』(東京法令出版,2007年8月)374頁,警察実務研究会編著『地域警察官のための軽微犯罪措置要領』(立花書房,2010年12月)190頁。

*4坂田正史(札幌地方裁判所判事(研究会報告当時大阪高等裁判所判事))「特別法を巡る諸問題[大阪刑事実務研究会] 迷惑防止条例の罰則に関する問題について」(判例タイムズ2017年4月号)26頁脚注20は,兵庫県迷惑防止条例の盗撮規制につき,「この罰則は,公共的性質の全くない自宅の便所等での盗撮も規制の対象とするものと解されるなど, もっぱら個人的法益を保護法益とするものと解するのが自然であろう。ただし,迷惑防止条例の沿革や保護法益論などからすると, このような罰則が迷惑防止条例の中で定められていることについては理論的にどのように整理すればよいのだろうか。また,法定刑の関係では,軽犯罪法上の窃視の罪(正当な理由がなくて人の住居,浴場,更衣場,便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見る行為)の法定刑が拘留又は科料にとどまっていることとの関係は, どのように説明されるのであろうか。」と疑問を呈している。

*5その他,自然犯に対する規制として条例での規制は出来ないのではないか,取材の自由や私生活上の行動の自由に対する制約として過度の制約にならないか,地域的特色を有しない盗撮行為に対する規制の食い違いは憲法14条に違反するのではないかといった論点もあるが本稿で踏み込まない。

*6本稿執筆前に全自治体から回答を得ている。

*7この解釈は刑事局法21巻7号442頁が初出と思われるが,以後の文献でも支持されている。近時の裁判例として福岡高裁平成27年4月15日判決 (高検速報1509号,天田悠「特別刑法判例研究」法律時報88巻9号136頁),近時の文献としては井坂博『実務のための軽犯罪法解説』(東京法令,2018年3月)161頁,須加正行『擬律判断・軽犯罪法』(東京法令出版,2014年3月)62頁,伊藤榮樹原著 勝丸充啓改訂『軽犯罪法〔新装第2版〕』(立花書房,2013年9月)169頁等がある。なお,前掲注2渡邊132頁はこの解釈に疑問を呈する。

*8野木新一・中野次雄・植松正『註釈軽犯罪法』(良書普及会,1949年2月)78頁は「人がその身体の一部を覆っているという風習は,また人の羞恥心と結びついている。人がことさらに人目を隠すかような部分をその意に反して見ることはその人の羞恥心を害するのみならず廣い意味で私生活の平穏を害する行為というべきである。もし常に人目にさらされていたならば人は安心して入浴その他生活に必要な行動をすることもできないであろう。かような点を保護するため新たに設けられたのがこの規定である。」と個人的法益に沿って説明しているほか,植松正『軽犯罪法講義』(立花書房,1948年6月)134頁,磯崎良誉『軽犯罪法解説』(法文社,1948年6月)117頁,なお,福原忠男・柏木博『軽犯罪法解説』 (三芳書房,1948年)80頁は個人的法益と社会的法益の両面を挙げている。

*9大塚仁『法律学全集42-Ⅲ 特別刑法』(有斐閣,1959年11月)117頁

*10稲田輝明・木谷明「注解特別刑法7 風俗・軽犯罪法編〔第2版〕 Ⅲ 軽犯罪法」(青林書院,1988年1月)109頁

*11伊藤榮樹『軽犯罪法〔三訂版〕』(立花書房,1982年11月)178頁は,「本号は人の個人的秘密を侵害する抽象的危険性のある行為を禁止し,ひいては,国民の性的風紀を維持しようとするものである」としており,伊藤榮樹ほか編『注釈特別刑法第二巻準刑法編』(立花書房,1982年4月)113頁,前掲注7)井坂159頁,須賀60頁,伊藤・勝丸167頁もほぼ同旨の説明をしている。

*12制定初期の解説として,乗本正名(警視庁防犯課長)「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例の制定について(一)」「同(二)」警察研究33巻11号57頁~,12号33頁~(1962年11月,12月),平野龍一ほか「座談会 ぐれん隊防止条例」ジュリスト261号10頁(1962年11月)~,捜査研究134号「めいわく防止条例特集号」ほか

*13迷惑防止条例に関する近時の文献として,前掲注3會田364頁~,前掲注4坂田21頁,安冨潔「迷惑防止条例-痴漢行為の処罰」『刑事法実務の基礎知識 特別刑法入門』(慶應義塾大学出版会,2015年10月)71頁~,難波正樹「都道府県の迷惑防止条例について」(警察学論集63巻2号46頁~,合田悦三「いわゆる迷惑防止条例について」『小林充先生,佐藤文哉先生古稀祝賀刑事裁判論集上巻』(判例タイムズ社,2006年3月)510頁~等が存在する。

*14「多数の者」を複数の者と同意義とする解説は,多くの警察本部の解説書に記載されている(被疑者を含むと明示するものは少数)が,文言解釈として疑問がある。前掲注7)伊藤・勝丸128頁は軽犯罪法1条13号の行列割込み等の罪につき『「多数」とは, 2人以上であれば足りるとの説もある(大塚111頁)が,迷惑を受けた者が2人だけであるというのでは, まだ「多数」ということはできず,少なくとも数名以上であることを要するものと解する(同旨101問113頁)。』とする。

*15徳島県公安条例判決が法律と条令の目的が(部分的に)重複していることを認めていることにつき,小田健司最判解刑事篇昭和50年度181頁,山下淳「判批」『地方自治判例百選[第4版]』(有斐閣,2013年5月)55頁,宇賀克也『地方自治法概説〔第7版〕』(有斐閣,2017年3月)221頁等。

*16前述した警察庁の解説では,軽犯罪法と迷惑行為防止条例の盗撮規制の目的は異なっていると記載しているが,私的空間に対する規制をそのように説明できるか疑問がある。私的空間を規制対象外としていた頃の警察庁生活安全特別捜査隊『公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例一部改正の解説第5条第1項2号 盗撮行為(平成24年7月1日施行)』にもほぼ同旨の説明がある。

*17(第2回国会衆議院司法委員会会議録第2号2頁「この法律には,日常生活における卑近な道徳律に違反する軽い罪を拾うことを主眼とし,特殊の行政目的遂行のための取締規定的のものについては, それぞれの行政法規に必要最小限度の罰則を定めるべきで,ここにこれを取り入れることは,好ましくないという考え方をとったのであります。」)

*18迷惑行為防止条例の「卑わいな言動」に対する規制が社会的法益を前提としたものであることにつき,最高裁平成20年11月10日刑集62巻10号2853頁に対する三浦透調査官による解説(最高裁平成20年度刑事判例解説771頁)参照

*19この条文は政府案にはなく,昭和23年4月13日衆議院司法委員会にて追加され(第2回国会衆議院司法委員会会議録第12号5頁),参議院でも維持されたという経緯がある。

*20検察協議については,前掲注15)宇賀228頁

*21迷惑防止条例における「公共の場所」要件の重要性につき,前掲注4)坂田24頁,36頁参照

*22大阪府では,法務省に確認の上,私的空間に対する規制を断念している。

「大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例改正の修正案」平成28年12月 大阪府警察本部生活安全部府民安全対策課迷惑防止条例改正PT

「住居等(※筆者注 公衆性のない住居・浴場・便所等が当初の改正案では存在した)における盗撮又は見る行為の規制は,軽犯罪法23号と保護法益が重複しており,法益が重複している場合は,法律の先占事項となり,当該規制が違法のそしりを受ける可能性がある【法務省指摘】ので,追加を断念する」

*23京都府でも,検察庁の回答を受けて私的空間に対する規制を断念している。

「京都府迷惑防止条例の一部改正について」平成26年1月 警察本部生活安全対策課

「国の法律である軽犯罪法が,私的空間を含む,通常着衣をつけないでいるような場所における裸の盗撮を規制していることから,私的空間に及ぶ規制は,個人的法益の侵害を認めないという軽犯罪法の範疇であるといえ,私的空間に対する規制は,憲法で法律の範囲内で定めることができるとされている条例の限界を超えている。現行条例は,場所を公共の場所,公共の乗物に限定することで,公衆が迷惑する,被害者がより一層羞恥させられるという理由から,条例で規制できるという説明がつくのであり,同様の理由付けができるのは準公共空間の範囲までである。」

*24前掲注15)小田184頁は,道路交通法制定時に既存の公安条例との関係が問題とされ,立案当局が一般法,特別法の関係で公安条例が優先すると説明していたことを指摘している。

*25東京都迷惑防止条例でいえば,例えば,犯罪予防目的で堂々と更衣室にカメラを設置した場合や,職場の更衣室で起こった窃盗事件の犯人を見つけるために,更衣室に隠しカメラを設置した場合なども対象になりうる。仮にこれらを対象外とするのであれば,何故「正当な理由がある」といえるかが問題になる。

*26脱稿後,合田悦三「迷惑防止条例における盗撮行為の規制の改正を巡って」高橋則夫ほか編『日高義博先生古稀祝賀論文集 下巻』(成文堂,2018年10月)に接した。同論文は迷惑行為防止条例の保護法益を社会法益に純化することを提唱するが,私的空間における盗撮規制を社会法益のみで説明することは困難と考える。

軽犯罪法違反事件の弁護要領・第23回 軽犯罪法1条23号(軽犯罪法、刑事弁護)

※ 2025/1/6 chatGPT o1 proに査読してもらいました。

 

以下では、本稿(「性的盗撮規制の最前線-軽犯罪法の窃視罪と,迷惑防止条例の相克-」2019/2/25作成)を概観したうえで、その論旨・方法論・課題について論評を試みます。内容の要約に続き、評価・検討すべきポイントを挙げていきます。


1. 論文の概要

本稿は、迷惑行為防止条例による性的盗撮行為(盗撮・差し向け行為・のぞき見)の規制が、公的空間にとどまらず、住居や私的空間にまで拡張されている最近の実態に着目し、軽犯罪法1条23号(窃視罪)との潜在的な抵触問題を指摘する。著者は以下のような点を強調している。

  1. 現状の規制枠組み
    • 性的盗撮に対する現行法として、軽犯罪法の窃視罪、児童ポルノ関連規定、および都道府県の迷惑防止条例があるが、必ずしも全国一律の立法が存在せず、自治体ごとに規定内容にバラツキがある。
    • 特に近年、迷惑防止条例で私的空間(住居・浴場・更衣室など)にまで規制を及ぼす自治体が増えている。
  2. 軽犯罪法との抵触
    • 軽犯罪法は「人が衣服を着けないでいるような場所」や「のぞき見」を規定しており、既に私的空間での性的プライバシーを保護する仕組みを設けている。
    • それにもかかわらず、同種行為を条例で上乗せ規制すると、憲法94条で定める「法律の範囲内」にとどまらない可能性がある(条例による規制が軽犯罪法の趣旨・目的を超える違法な上乗せではないか)。
  3. 自治体の対応の差異
    • 著者は情報公開請求により、各自治体が条例改正の際、軽犯罪法との関係をどのように検討したか調査した。
    • その結果、私的空間への適用を断念した自治体(例:大阪府・京都府)と、あえて広範に規制した自治体(例:東京都)で見解の分裂があることを指摘。
  4. 筆者の結論
    • 私的空間での「のぞき見」「差し向け行為」にまで広げるのは、軽犯罪法との抵触が強く疑われ違法の可能性がある。
    • 「立法的解決」(国レベルの法整備)が必要であり、自治体レベルで私的空間を広範に規制するのは当面控えるべき。
    • 実務としても、私的空間における行為を条例違反で立件する場合は慎重な運用が必要である。

2. 評価・意義

(1) 詳細な資料収集と実態把握

著者が情報公開請求を行い、自治体ごとの条例改正過程や警察実務に関する資料を整理している点は貴重です。迷惑防止条例の対象範囲が近年拡大している実態を、単なる文献考察だけでなく一次資料に基づいて示しており、研究としての基礎的意義は大きいといえます。実際、迷惑防止条例が「公共の場所」だけでなく「準公共空間」「私的空間」へ規制を拡大した経緯・議論が網羅的に参照されている点で、後続の研究・実務家にとっても有用な資料となっています。

(2) 法令・判例の丁寧な読み込み

本稿では、軽犯罪法の立法経緯から始まり、徳島市公安条例事件判決(最判昭50・9・10)など、いわゆる「条例制定権の限界」に関するリーディングケースを踏まえて検討しているため、理論的な骨格が明快です。迷惑防止条例の保護法益(公共の秩序、あるいは善良の風俗)と、軽犯罪法の保護法益(性的プライバシー・風紀)の重なりを踏まえ、重複規制の矛盾点を具体的に指摘しています。

(3) 実務的示唆

本稿の結論として、「私的空間における盗撮等を条例で規制すると、法律(軽犯罪法)の保護法益を完全に包含・上乗せしてしまうため、憲法94条の『法律の範囲内』を逸脱する」という問題提起は、自治体立法や捜査運用上の大きな論点です。自治体担当者や法曹実務家に向けた具体的なアドバイス(例:私的空間への規制拡大の慎重性、立法的な解決の必要性)を示している点は評価に値します。


3. 検討・課題

(1) 「公共性」と「私的空間」の区分基準の曖昧さ

本稿では、公共の場所・準公共空間・私的空間という区分がある程度前提とされていますが、実際には「個人宅でも複数人が利用する場合」や「店舗や事務所内でも一般人が自由に立ち入れる部分とそうでない部分が混在する場合」など、グラデーションが多様です。
著者も「準公共空間までなら条例による規制が合憲」と示唆する一方、具体的にどの範囲を公共性として捉えるかは残されており、今後の判例・立法レベルのさらなる整理が必要となるでしょう。

(2) 刑事政策的視点とのバランス

本稿は「条例による私的空間の規制は、法律の上乗せとして違法」と論じますが、盗撮被害(特にカメラの小型化・高性能化による深刻さ)を重視する刑事政策的な要請や、被害救済の観点との調整が論理構成上やや手薄に感じられます。
著者自身、「盗撮が深刻な人権侵害であり規制の必要性は高い」と認めつつ、憲法94条に照らすと現状の条例拡大は問題だという結論を示しています。もっとも、いかにして刑罰法規の乱立(条例と法律の競合)を防ぎつつ、「私的空間であっても被害が重大な場合」の対処を図るかという政策的展望の提示があれば、本論はさらに厚みを増したと思われます。

(3) 2023年以降の動向との関連

本稿執筆後、各自治体の迷惑行為防止条例や軽犯罪法に関する議論はさらに進み、近年は**いわゆる「盗撮等処罰法」(2023年6月成立の改正刑法)**が成立するなど立法の動きが加速しています。本稿の結論である「立法的解決が必要」という趣旨は、まさに後の動向を先取りした先見性があると言えます。もっとも、本稿自体は2019年2月時点の議論であるため、その後の立法状況を踏まえたアップデートが今後望まれます。


4. 結論

本稿は、私的空間における性的盗撮規制を条例で行うことは、軽犯罪法の規定を「上乗せ」しており、憲法94条が定める条例制定権の限界を越える可能性が高いという、きわめて実務的・学術的に重要な問題を提起しています。著者が自治体ごとの条例策定の経緯を丹念に調査したうえで、公共の場から私的空間へと規制を拡大する現状を批判的に考察している点は高く評価できるでしょう。

一方で、「私的空間においても悪質な盗撮を厳正に処罰しなければならない」という刑事政策・被害救済上の要請とのバランスや、立法論に踏み込んだ場合の具体的な法制度設計にはまだ課題が残ります。その意味で、著者も述べるとおり、抜本的な刑法(あるいは特別刑法)レベルでの整備が必要であり、本稿はその出発点として有用な問題提起となっています。

総じて、本論文は軽犯罪法と迷惑防止条例の狭間にある規制範囲の問題を丁寧に分析した学術的価値の高い研究であり、実務家や自治体の立法担当者にとっても一定の示唆を与えるものであると言えるでしょう。