【解決事例】自宅を売却したら、建物の解体が遅れたという理由で契約解除されたという相談
2024年08月15日一般民事
※解決事例は実際の取扱事例をモデルにしていますが、特定を避けるため、複数の事例を組み合わせる等した上で、大幅に内容を変更しています。
【相談】
Q、私は、一戸建てに住んでいましたが、歳をとったので夫婦でマンションに引っ越しをすることにしました。そこで、仲介業者を通じて自宅を売却したのですが、その条件として建物を解体して引き渡すことになっていました。ところが、建物の解体日が職人の都合で1月ほど遅れることになり、買主から突然「引渡日までに引渡がなされなかったので契約を解除する。違約金を支払え」と求められました。どうすれば良いのかわかりません。
A、既に退去しているのですから、引渡については済んでいて、後は建物の解体という付随的債務の履行が遅れているだけと考えることができます。契約解除はできないと反論できる事案だろうと考えますが、弁護士をつけて履行が遅れたことについての損害賠償請求についても対応する必要があるでしょう。
【解説】
私が以前取り扱った事例をモデルにしています。モデルケースでは、文献を調査して、建物の撤去はあくまで自宅の売買契約に伴う付随的義務に過ぎないという立論をしました。その上で、仲介業者、買主の弁護士と交渉し、三者協議をしました。最終的には仲介業者が買い取る形で早期解決しました。最初の段階で、付随的義務であり解除できないという立論が立てられたことが大きかったです。十分な勝算を持ち、いざとなれば訴訟で徹底的に戦うという気持ちを持ちつつ、解決に向けて三者協議を持ちました。裁判手続や勝ち負けに拘れば、このような形での解決は出来なかったと思います。
民法
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089/
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
(損害賠償の範囲)
第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
(損害賠償の方法)
第四百十七条 損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。
(解除権の行使)
第五百四十条 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
2 前項の意思表示は、撤回することができない。
(催告による解除)
第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
【参考文献】
私は問題解決にあたり、大量の文献を調査して依頼者にとって有利な裁判例や記述がないかを検討しています。例えば、本論点に関しては、次のような文献が存在します。これらは全て、私が自分自身で法律書を裁断し、スキャンして、データベースにしたものから検索して抜き出したものです。
内田力蔵「大判昭13・9・30民集17巻1775頁」民事法判例研究会『判例民事法(18)昭和13年度』(有斐閣,1929年12月)427-432頁枡田文郎「最高裁判例解説最判昭和36.11.21」最高裁判所判例解説民事篇(昭和36年度)400-402頁
小野剛「付随的義務の不履行と契約解除」山本矩夫・山口和男編『民事判例実務研究 第4巻』(判例タイムズ社,1985年10月)171-222頁
森田宏樹「27 いわゆる付随的義務の不履行と契約の解除 最判昭和36.11.21」安永正昭ほか編『不動産取引判例百選[第3版]』(有斐閣,2008年7月)56-57頁
鎌田薫・白石大「付随的義務の不履行と契約解除」塩崎勤ほか編『【専門訴訟講座⑤】不動産関係訴訟』(民事法研究会,2010年7月)196-214頁
渡辺達徳「46 付随的債務の不履行と解除 最判昭和36.11.21」中田裕康・窪田充見編『民法判例百選Ⅱ債権(第7版)』(有斐閣,2015年1月)94-95頁
渡辺達徳「42 付随的債務の不履行と解除 最判昭和36.11.21」潮見佳男・道垣内弘人編『民法判例百選Ⅱ債権[第8版]』(有斐閣,2018年3月)86-87頁
松井和彦「付随的な義務の不履行と契約解除」法律時報2018年6月号(1126号)102-106頁
※複合契約の一部債務不履行の議論も参考になります。
近藤崇晴「最高裁判例解説最判平成8.11.12」『最高裁判所判例解説民事篇(平成8年度(下))』950-968頁
濱田稔「付随的債務の不履行と解除」契約法大系刊行委員会編『契約法大系Ⅰ(契約総論)』(有斐閣,1962年9月)307-322頁
道垣内弘人「一部の追認・一部の無効」中川良延ほか編『星野英一先生古稀記念 日本民法学の形成と課題 上』(有斐閣,1996年6月)293-327頁
大村敦志「同一当事者間での二個の契約のうち一の契約の債務不履行が他の契約の解除の理由となる場合 最判平成8.11.12」『平成8年度重要判例解説』68-70頁
原啓一郎「同一当事者間で締結された二個以上の契約のうち一の契約における債務の不履行を理由に他の契約を解除することができるとされた事例 最判平成8.11.12」平成9年度主要民事判例解説(判例タイムズ978号)70-71頁
本田純一「スポーツクラブ会員権上の債務不履行を理由とするリゾートマンション売買契約の解除 最判平成8.11.12」『私法判例リマークスno.16(1998年〈上〉)』35-38頁
北村寛「複数契約上の債務不履行と契約解除」星野英一ほか編『民法判例百選Ⅱ 債権[第五版新法対応補正版]』(有斐閣,2005年4月)100-101頁
山下末人「民法541条」谷口知平・五十嵐清編『新版注釈民法(13)債権(4)契約総則§§521条~548条〔補訂版〕』(有斐閣,2006年12月)803-835頁
窪田充見「同一の当事者間での一の契約の債務不履行と他の契約の解除 最判平成8.11.12」安永正昭ほか編『不動産取引判例百選[第3版]』(有斐閣,2008年7月)62-63頁
小野秀誠「目的不到達の復権 最判平8.11.12民集50巻10号2673頁」一橋法学8巻1号(2009年3月)1-36頁
久保宏之「複数契約上の債務不履行と契約解除」中田裕康ほか編『民法判例百選Ⅱ債権[第6版]』(有斐閣,2009年4月)92-93頁
奈良輝久「企業間取引における複合契約の解除(上)」判例タイムズ1339号(2011年3月15日号)34-44頁
奈良輝久「企業間取引における複合契約の解除(下)」判例タイムズ1342号(2011年5月1日号)35-48頁
山田到史子「契約解除との関係における複合契約の構造分析覚書」法と政治〔関西学院大学〕(2015年8月)66巻2号201-226頁
國宗知子「複合契約と筏津契約理論―「契約の目的」概念をてがかりとして―」法学新報〔中央大学〕122巻1・2号(2015年8月)263-318頁
中舎寛樹「多角契約における契約解除 最判平成8.11.12」河上正二・沖野眞巳編『消費者法判例百選[第2版]』(有斐閣,2020年9月号)70-71頁
北村ゆり「11 解除」加藤新太郎・松田典浩編『裁判官が説く民事裁判実務の重要論点 契約編〈債権法改正対応版〉』(第一法規,2022年3月)150-164頁
鹿野菜穂子「複合的契約における債務不履行と解除」潮見佳男・道垣内弘人編『民法判例百選Ⅱ債権[第9版]』(有斐閣,2023年2月)80-81頁
山田到史子「複数契約の一部不履行による契約の解除」松本恒雄ほか編『判例プラクティス民法Ⅱ 債権 第2版』(信山社,2023年9月)148頁