【解決事例】不当な労災損害賠償請求につき、低額で和解(労働事件)
2024年08月15日労働事件(企業法務)
【相談前】
会社内での転落事故につき、転落した労働者により負傷したということで損害賠償請求がなされました。会社に対しては安全配慮義務違反が問われ、転落した労働者に対しても不法行為責任が問われていました。一審で敗訴したとのことで、会社側の弁護士からの紹介で労働者の依頼がきました。
労災で後遺障害認定はなされていたものの、長期間の療養をしなければならない事件だったのか疑問があるということでした。
【相談後】
一審では、カルテが提出されていたものの十分な検討がなされていないようでした。
そこで、医療訴訟で使われる診療経過一覧表を使ってカルテの内容を抜粋しながら転記するとともに、診療経過からして傷病が不自然であることを綿密に反論しました。また、併せて現場に行って写真を撮影したり、再現実験を行った上で、労働者の転落自体を過失といえないことも主張しました。さらに、労災保険の後遺障害認定が、自動車賠償責任保険での後遺障害認定よりはるかに緩い審査であることの主張・立証もしました。
その結果、高裁の第一回期日で相手方に対して労働者に対する訴訟の取り下げ勧告がなされました。相手方は取り下げませんでしたが、その後相手方を治療した医師の書面尋問も実施され、極めて低額の和解で解決しました。会社側も、労災保険で認定された後遺障害の程度より低い水準で和解したとのことです。
【弁護士からのコメント】
労災保険では自賠責保険の後遺障害認定より高い等級が出されたり、労災での12級認定が自賠責保険では非該当になったりすることは、交通事故損害賠償実務に携わる弁護士や裁判官には広く知られている事実です。
その理由として、(財)自賠責保険・共済紛争処理機構紛争処理委員の弁護士は「労災の方では、労災用の後遺障害診断書があるのですけれども、その診断書の記載内容をそのまま前提にして判断しているようなのです。自賠責保険の損保料率機構では、後遺症の診断書のほかに、毎月の診断書であるとか、診療報酬明細書、あるいは事故態様、治療経過、そういうところから総合的に判断しています。一般的に言いますと、労災で高い等級が認定されていても、自賠責保険では低い等級になる場合があります。」と説明しています(東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会[編]『民事交通事故訴訟の実務Ⅱ』(ぎょうせい,2014年12月)「後遺障害等級認定をめぐる諸問題」174頁)。
従って、労災で後遺障害認定が出ている=その通りの後遺障害がある、とはいえないのです。この事例でも、カルテを丹念に分析していけば、相手方の主張する症状が労災事故により発生したというのはおかしいということが見えてきました。
それを踏まえて主治医に書面尋問をしたところ「医学的に説明可能な労災事故後の解剖学的変化、MRIなど検査所見、神経学的な所見の変化など全くないというしかない。医学よりはなれ事実の積み重ねからみると事故のせいとしか考えようがない」との回答が来ました。これが決定的だったと思います。
この事件でも、綿密なリサーチが効を奏しました。訴えられた労働者だけではなく、会社も大変喜んでいました。
※本件については、後日依頼者の同意を得て、雑誌にエッセイとして寄稿いたしました。興味のある方はご覧頂ければ幸いです。
弁護士CASE FILE(27)奇妙な労災事故 : 従業員が従業員を訴えた