【解決事例】服役前科ありの窃盗癖(クレプトマニア)の再犯で、不起訴にできないかという相談
2024年08月15日刑事弁護
※解決事例は実際の取扱事例をモデルにしていますが、特定を避けるため、複数の事例を組み合わせる等した上で、大幅に内容を変更しています。
【相談】
Q、私は、これまで万引き事件で刑務所に収監されたこともあります。もうしないと心に決めていたのですが、スリルを求めて雑貨店の裏口から侵入して、事務室の冷蔵庫の中にあったペットボトルのお茶を飲んでしまいました。お金はありますが、なんとかできないでしょうか。
A、基本的には正式裁判となり実刑になることが考えられますが、被害者からの赦しを得て、再犯防止活動を行えば、不起訴となる可能性はゼロではないです。
【解説】
以前私が取り扱った事例をモデルにしています。警察は、金品を盗む目的だったのだろうと厳しく追及していました。そこで、弁護人から検察官に取り調べにつき配慮するように申し入れを行いました。その上で、本人とご家族から事情を聞き取り、被害者に対して示談を申し入れました。本人の事情を詳しく話した上で、ご理解頂き、無事に示談が出来ました。その上で、釈放された場合には病院に行くように手配をしました。その後、検察官としては起訴したいという気持ちがあったようですが、結局窃盗未遂については起訴されず、建造物侵入の罰金のみで終了しました。
難しい事件でした。窃盗未遂が不起訴になったのは奇跡的でした。実は、示談成立後に勾留取り消し請求もしましたが、却下されています。クレプトマニアは盗撮癖と同じような問題があると感じています。本人も、ご家族も悩まれています。再犯も多く、悩ましい問題です。ただ、それでも刑務所が有効な手法とは思えません。最終的には本人自身が自覚して、自分の力だけでは止められないことに気がついて、万引きをしないような生活習慣を身につけるしかないと思います。
近時は、捜査実務においてもクレプトマニアに対する理解が広まりつつありますので、そのような状況を踏まえて検察官と処分について交渉していくことが大事です。
法務省 研究部報告57 窃盗事犯者に関する研究(2017年3月)
https://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00090.html
290頁
【3 心身に問題を抱えている者
今回の特別調査においては,男女共に,心身に何らかの問題を抱えている者が少なからず存在していることが認められた(2-3-2-5図・2-4-1-3図②・2-5-1-3図②・2-6-1-6図・2-6-1-12図参照)。
特に,女性の万引き事犯者は,精神疾患のある者の割合が男性よりも高く(第2編第6章第1節2項(5)・同節3項(4)参照),犯行の背景事情として,いずれの年齢層においても「体調不良」が上位にあったほか,30歳代では「摂食障害」も上位にあり(2-6-1-14図参照),39歳以下の女性では,「ストレス発散」や「摂食障害」といった要素の存在が窃盗再犯に影響を及ぼす要因として示された(2-6-3-22表参照)。
他方,男性の万引き事犯者においては,犯行の背景事情として,「習慣飲酒・アルコール依存」が上位にあり(2-6-1-14図参照),これに該当した者の窃盗再犯率も高かった(2-6-3-7図③・2-6-3-21表参照)。また,男性が圧倒的多数を占める侵入窃盗事犯者や車両関連盗事犯者においても,一部の年齢層で「習慣飲酒・アルコール依存」が上位にあった(2-4-1-10図②・2-5-1-6図②参照)。
このように,窃盗事犯者の中には,男女共に,心身に問題を抱えている者が少なからず存在しており,鬱病等の気分障害を含め,精神疾患等の疑われる窃盗事犯者に対しては,刑事処分とは別に,適切な医療措置や福祉的措置が必要となる可能性がある。そのためには,地方公共団体や医療機関等も含めた関係諸機関の間で,事案に応じて適切な連携を図ることが求められる。
また,女性の万引き事犯者に多い摂食障害を有する者については,摂食障害が刑事責任能力に影響を及ぼすか否かの問題は別にして,摂食障害の治療の困難さを理解した上で,摂食障害を専門的に治療する医師や医療機関との連携が重要となる。この点,一部の刑事施設において行われている,重篤な摂食障害を抱える受刑者に対する治療について,以下,紹介する(*4)】
※参考記事