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薬院法律事務所

刑事弁護

【解決事例】傷害事件で自白調書が作成されたものの、納得がいかないという相談


2024年08月15日刑事弁護

※解決事例は実際の取扱事例をモデルにしていますが、特定を避けるため、複数の事例を組み合わせる等した上で、大幅に内容を変更しています。

 

【相談】

 

Q、私は友達と居酒屋で飲んでいました。友達が落ち込んでいたので、励ますつもりで背中を叩いたのですが、後日になって「あれでむち打ち症になった」と言われて警察に被害届を出されました。警察からは「微罪処分」にするといわれて、「私が悪かったです」という調書を作成したのですが、家に帰ってからやっぱり納得いかないという気持ちになっています。どうにかならないでしょうか。

A、弁護人が意見書を出すことで、傷害罪が成立しないことを示すことができる可能性があります。

 

【解説】

 

以前私が取り扱った事例をモデルにしています。モデルケースでは、具体的な事実関係を聴き取り、相談者の行為が、人に対する不法な有形力の行使(暴行)にあたらないこと、相手方の「傷害」の事実について疑義があることを意見書で示しました。結局、検察官が嫌疑不十分として不起訴処分にしました。警察は、医師からの診断書があり、物理的接触が認められればそれだけで「傷害罪」と判断することがあります。

しかし、物理的接触があるからといって「暴行」といえるとは限りません。例えば、酔っ払った人が他人に絡もうとしているところを肩を掴んで止めても、「不法」な有形力の行使とはいえません。また、「傷害」の事実についても、「診断書」があるからといってそれだけで傷害の事実が立証できるわけではないのです。きちんと事実関係を把握し、証拠の裏付け、法解釈を十分理解して対応することが依頼者が不当に刑事処罰を受けることを防ぐことになります。私は、大量の法律書(年間200~500万円)を購入して、知見を深めています。

 

刑法

https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045

(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

 

【参考文献】

 

前田雅英ほか編『条解刑法〔第4版補訂版〕』(弘文堂,2023年3月)625頁

【(ウ) 違法性(不法な有形力) 本注嗣のとおり”軽微な有形力の行使”例えば抱きつくなどの行為も,状況によって暴行と評価され得るが,社会生活上通常行われることとして是認すべき場合がある。このような社会生活上許容される適法な行為と認められる有形力の行使と暴行罪における暴行とを区別するため,暴行罪における暴行は, 「不法な」有形力の行使と定義される。
この「不法性」は,行為の目的,行為当時の状況,行為の態様被害者に与えられた苦痛の有無・程度等を総合して判断されることになる(東京高判昭45・1・27判タ248-216参照)。】

https://www.koubundou.co.jp/book/b618733.html

岸洋介「正当防衛に関する近時の判例の動向及び捜査実務上の留意点」捜査研究2015年7月号(773号)2頁~(13頁)
【傷害の診断書は, 受診者の愁訴のみに基づいて作成されていることがあるので,注意が必要です。この場合,診断書の記載を鵜呑みにして傷害の事実や内容を認定してしまうと,後に公判で争われたときに立証に窮することになってしまいます。そのため,比較的軽微な暴行事件で被害者から後日診断書が提出された場合には,それだけで傷害事件として立件するのではなく,捜査官自身が受傷部位を見て受傷の有無を確認し,その時点で受傷の事実を目視確認できなかった場合には,診断書を作成した医師に対し,診察時に発赤,腫脹などの他覚的所見が認められたか否かを確認することが必要です。頸椎捻挫(いわゆるむち打ち症)のように他覚的所見が認め難い傷害もあるので一概には言えませんが,診断書には打撲傷と記載されているのに,診察時にも診断書提出時にも発赤内出血腫脹といった他覚的所見が認められないのであれば, 当該診断書は受診者の愁訴のみに基づいて作成された可能性が高いので,傷害罪として立件するのは差し控えるべきと考えます。
他方で,事件当時は発赤や腫脹などの他党的所見が認められたのに,起訴時には傷が癒えてなくなっていることも少なくありません。比較的軽微な暴行・傷害事件は在宅送致されることも多く, この場合は,送致された時点では傷が完治していることがほとんどです。そのため,事件直後に被害者に発赤や腫脹などの他覚的所見が認められた場合には, これを鮮明に写真撮影し,証拠化しておくことが重要です。また,打撲傷の場合,受傷直後よりも,数日経過した後の方が,受傷部位付近に内出血が広がり,痛々しい状態になっていることがあります。そのため,被害者の受傷状態をより正確に証拠化するためには,受傷当初の状態を写真撮影するだけではなく,その後も,事情聴取などで被害者と接した際に傷の状態を確認し悪化している様子が見受けられた場合には.その状態も写真撮影して証拠化しておくことが必要です。】