【解決事例】覚せい剤取締法違反(使用)で違法捜査の認定を獲得
2025年08月24日刑事弁護
私は、覚せい剤取締法違反事件で令状発付が違法であるという認定を得たことがあります(福岡地判令和2年12月21日)。国選弁護事件で、前例のない論点での違法収集証拠を主張し、強制採尿令状発付の違法が認定されました。一審は有罪判決でしたが、高裁では別の弁護人が就任して無罪判決となっています。最高裁では逆転有罪となっていますが、全ての審級で令状の発付が違法と認定されています。
福岡地判令和2年12月21日(Westlaw japan)
【イ 令状発付における代替手段の不存在等
強制採尿は,被疑事件の重大性,嫌疑の存在,当該証拠の重要性とその取得の必要性,適当な代替手段の不存在等の事情に照らし,犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合には,最終的手段として,適切な法律上の手続きを経てこれを行うことが許されるとされている(昭和55年10月23日最高裁第一小法廷決定・刑集34巻5号300頁)ところ,特に本件では,適当な代替手段等が問題となり得る。
被告人については,前記(2)アのとおり参考人の供述内容や同種前科から覚醒剤使用の嫌疑がありその程度はそれなりに高度であったといえるのに加え,平成20年以降で4回の任意採尿の説得を受ける機会があったがいずれも拒否して強制採尿手続に移行していたこと,さらにそのうち平成27年の際は任意採尿の説得を打ち切り令状請求を準備している間に知人の自動車で移動して所在不明となり,執行ができなかったことが認められる。これらの事実からすると,本件においても被告人が任意採尿を拒否する可能性もそれなりに高いことが見込まれたといえる。一方で,強制採尿が被疑者の身体に対する侵入行為であるとともに屈辱感等の精神的打撃を与える行為であることからすれば,任意採尿が可能ならばまずはそれによるのが望ましいことは明らかである。検察官は,被告人が過去の取扱いにおいて多数回にわたりいずれも任意採尿を拒んで強制採尿されていた上,逃走して強制採尿令状が執行できなくなったこともあったことから,本件採尿時にも任意採尿の説得に応じる見込みは乏しく,逃走して尿を採取できなくなるおそれすらあったから,「犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合」に当たると主張するが(なお,検察官は,本件令状について「任意採尿の説得を行い,やむを得ない場合に限り強制採尿令状を執行する」旨の条件があったとも主張するが,本件令状にそのような条件は記載されておらず法的効力を伴っているものではないし,仮にこのような条件を付けた場合はやむを得ないか否かの重要な判断を捜査官に一任してしまうという問題点がある。),所在不明になるか否かはその現場の状況次第ともいえるのであり,実際に,所在不明となった平成27年の後である平成31年の採尿時には被告人が所在不明となることなく執行ができている。そうすると,弁護人が主張するようにおよそ事前の発付が許容され得ないかどうかはともかく,本件においては,まず任意採尿の説得を行い,それに対する被告人の反応を踏まえて,行動確認を行いながら令状請求手続に入るという代替の手段も想定でき,かつ,被告人方の捜索差押の着手に先立ってそのための準備等(令状請求のための下準備や行動確認のための人的手配を含む。)を整えておく時間的な余裕もあった。そうすると,強制採尿令状の請求・発付手続にある程度の時間を要することや被告人が暴力団組員であることなどを踏まえても,本件強制採尿令状請求時において,上記のような適当な代替手段を取ることが困難であったとはいえないというべきである。そして,その他の事情と併せて考慮しても,犯罪の捜査上真にやむを得ない場合にあたり最終手段として本件強制採尿令状を発付することが相当であったとは評価できず,本件強制採尿令状の発付はその要件を満たさない違法なものであったと評価すべきである。
このように,本件令状は,令状請求の時点において,発付の要件を満たしていなかったものと考えられるが,一方で,本件強制採尿令状請求書及びその疎明資料によれば,A警部は,令状請求の疎明資料に前記(2)アのとおり事実経過を正確に記載した上で,本件では事前の令状発付を求めている点も意識して記載しており,その記載内容自体に誤りはなく,殊更に裁判官を欺くような意図はうかがえない(この点,弁護人は,被告人が平成10年頃に採尿を求められた際は任意で尿を提出していたから,一度も提出したことがないとするA警部の記載には虚偽がある旨主張するが,A警部の当該記載は,平成20年以降の被告人の任意採尿に関する事実概要を記載した上でその評価として記載していることがその書面上明らかであるから,弁護人の主張は採用できない。)。すなわち,A警部としては,強制採尿令状発付の要件があるものと考えて,事実経過をありのままに記載して令状担当裁判官にその判断を委ねたものと認められるのであって,令状の発付要件の解釈において当裁判所と判断を異にする点があったにせよ,その令状請求手続の上で令状裁判官の判断を誤らせるような意図があったとは認められない。そうすると,捜査機関の行為に令状主義を潜脱する意図があったとはいえない上に,令状主義の精神を没却するような重大な違法があったともいえず,尿の鑑定書等につき違法収集証拠として証拠排除すべきとはいえない。】
(上告審)最判令和4年4月28日
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91131
- 判示事項
- 強制採尿令状の発付に違法があっても尿の鑑定書等の証拠能力は肯定できるとされた事例
- 裁判要旨
- 被疑者に対して強制採尿を実施することが「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合とは認められないのにされた強制採尿令状の発付は違法であり、警察官らが同令状に基づいて強制採尿を実施した行為も違法であるが、警察官らはありのままを記載した疎明資料を提出して同令状を請求し、裁判官の審査を経て発付された適式の同令状に基づき強制採尿を実施したもので、その執行手続自体に違法な点はなく、「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合であることについて、疎明資料において、合理的根拠が欠如していることが客観的に明らかであったというものではなく、また、警察官らは直ちに強制採尿を実施することなく被疑者に対して尿を任意に提出するよう繰り返し促すなどしていたなど判示の事情(判文参照)の下では、強制採尿手続の違法の程度はいまだ重大とはいえず、同手続により得られた尿の鑑定書等の証拠能力を肯定することができる。