【解決事例】協調性がない従業員について、退職勧奨を行い円満解決(労働事件、企業法務)
2024年08月15日労働事件(企業法務)
【相談前】
中小企業からの相談です。他の従業員と協調する姿勢がなく、問題行動が多い従業員に対して、解雇をしたいと考えられていました。しかし、解雇については裁判上無効になりやすいと知っていました。また、退職勧奨についても、退職勧奨に応じなかった場合に、従業員との関係が悪化することも恐れており、どのように行動するのか悩まれていました。
【相談後】
まず、解雇が可能かどうかを検討しました。
併せて、仮に退職勧奨しない場合に、最大限その人が活躍できる方法がないかしっかり検討してもらいました。
その結果、配置転換を打診した上で、それに応じないのであれば退職勧奨する、退職勧奨にあたっては雇用保険を会社都合として退職してもらうという方針が固まりました。
結局、従業員は退職勧奨を受け容れて、円満に退職しました。
【弁護士からのコメント】
法律論としては、退職勧奨はいつでもできますし、執拗で強制的なものでなければ違法にもなりません。また、退職勧奨に応じて退職した場合は、後に退職が無効として争うことが法的に困難です。そのため、解雇に代えて退職勧奨を勧める弁護士は多いです。
しかし、いったん退職勧奨をした場合、従業員と信頼関係は崩れざるを得ません。もちろん、会社にとっては退職勧奨をする時点で信頼関係が崩れているのですが、従業員にとってはそうではないこともあります。優しい経営者が、従業員に対する不満をじっと耐え続けて爆発してしまう、ということもあります。こういった場合、従業員には経営者にストレスを与え続けているという自覚がないこともほとんどです。
なので、弁護士の仕事としてはまずきちんと状況を整理すること、経営者に覚悟を決めてもらうこと、その上で、誠心誠意退職勧奨をすることです。それでも上手くいかないことはありますが、誠実に検討した上での退職勧奨であれば、心が通じるということがあります。解雇紛争は労使双方にとって多大なストレスです。紛争になった以上は徹底的に争わなければならないこともありますが、そうならないのであればそれが一番です。違法な退職勧奨による退職は、後日無効となるだけでなく、慰謝料請求がなされることもありますので、事前に弁護士に相談をしておくことは重要だと考えています。
労働契約法
https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」
【1 解雇
使用者からの申し出による一方的な労働契約の終了を解雇といいますが、解雇は、使用者がいつでも自由に行えるというものではなく、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、労働者をやめさせることはできません(労働契約法第16条)。解雇するには、社会の常識に照らして納得できる理由が必要です。】
【4 退職勧奨について
解雇と間違えやすいものに退職勧奨があります。退職勧奨とは、使用者が労働者に対し「辞めてほしい」「辞めてくれないか」などと言って、退職を勧めることをいいます。これは、労働者の意思とは関係なく使用者が一方的に契約の解除を通告する解雇予告とは異なります。
労働者が自由意思により、退職勧奨に応じる場合は問題となりませんが、使用者による労働者の自由な意思決定を妨げる退職勧奨は、違法な権利侵害に当たるとされる場合があります。
なお、退職勧奨に応じて退職した場合には、自己都合による退職とはなりません。】
7-3 「退職勧奨」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/taisyoku/kansyou.html
【(1) 退職勧奨は、使用者が雇用関係のある者に自発的に退職する意思を形成させるための行為であり、勧奨される者は理由の如何を問わず、自由な意思で勧奨による退職を拒否できます。
(2) 勧奨される者の任意の意思形成を妨げ、あるいは名誉感情を害するような言動による勧奨行為は、不法行為を構成する場合があります。】
【参考文献】
※以下は、退職勧奨について参考になる書籍です。
西川暢春『問題社員トラブル円満解決の実践的手法 訴訟発展リスクを9割減らせる退職勧奨の進め方』
https://www.horei.co.jp/iec/products/view?pc=2472849
村田浩一 編著『退職勧奨・希望退職募集・PIPの話法と書式』
https://www.seirin.co.jp/book/01837.html
139-141頁
【落とし穴
協調性が問題になる労働者は自らの仕事や能力に自信があるため,自分の考えに固執して,上司の指示に反抗することがある。また,注意指導をしても怒り出す,弁解・反論に終始する上司を責める・批判する,注意指導がパワハラだと申告する,指導書等の書類の受取りを拒否するなど,攻撃的な態度をとる場合もある。
このような反抗的で攻撃的な労働者の言動に委縮してしまい,労働者の協調性不足を明確に告知できず注意指導することに失敗すると当該労働者の協調性不足の問題はいつまでたっても改善せす,職場環境にも悪影響を及ぼすことになる。
労働者が高圧的・攻撃的な場合,注意指導や面談を行う上司.人事担当者には大きな負荷がかかることになるため,複数人でチームを組み.外部の弁護士にてきぎ相談するなどして.毅然とした態度で対応できる体制を整えておく必要があるだろう。】