たき火をしていたら、警察から廃棄物処理法違反といわれたという相談(刑事弁護)
2021年11月07日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、先日、自宅の庭で廃材をたき火で燃やしていたところ、誰かが通報したのか警察が来ました。警察から「廃棄物処理法違反」と言われているのですが、たき火をしていてそのようなことを言われたことは初めてです。納得ができないのですが、私は処罰されるのでしょうか。
A、基本的には廃棄物処理法違反になると考えられます。もっとも、弁護活動次第で、立件や起訴を免れる可能性はあるでしょう。
【解説】
廃棄物処理法では次の通りの定めがあります。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律
(焼却禁止) 第十六条の二 何人も、次に掲げる方法による場合を除き、廃棄物を焼却してはならない。
一 一般廃棄物処理基準、特別管理一般廃棄物処理基準、産業廃棄物処理基準又は特別管理産業廃棄物処理基準に従つて行う廃棄物の焼却
二 他の法令又はこれに基づく処分により行う廃棄物の焼却
三 公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として政令で定めるもの
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000137
施行令では次のとおり定めています。
(焼却禁止の例外となる廃棄物の焼却) 第十四条 法第十六条の二第三号の政令で定める廃棄物の焼却は、次のとおりとする。
一 国又は地方公共団体がその施設の管理を行うために必要な廃棄物の焼却
二 震災、風水害、火災、凍霜害その他の災害の予防、応急対策又は復旧のために必要な廃棄物の焼却
三 風俗慣習上又は宗教上の行事を行うために必要な廃棄物の焼却
四 農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却
五 たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であつて軽微なもの
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=346CO0000000300_20200401_501CO0000000039
「たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であつて軽微なもの」といえるかが問題になるのですが、これは容易に判断できることではありません。廃棄物処理法に詳しい弁護士に相談すべきです。
【参考文献】
刑事実務研究会編『執務資料 擬律判断 第一線捜査官のための刑法・特別法の手引』(東京法令出版,2020年3月)294頁
【(1) 「焼却」については、特に、比較的少量の焼却の場合には、たき火等に当たり、廃掃法施行令14条5号の例外事由に当たるとの弁解が出ることが考えられる。
この点は、前記1(1)④イ (293頁参照)記載のとおり、生活環境に有害な影響を与えるがい然性から判断すべきと考えられ、そうすると、生活環境に対する影響との観点から、煙がどれくらいまで立ち上がって、 どれくらい広がったか、焦げた臭いはどの程度離れた地点でも感じられたか等の生活環境に対する有害な影響を基礎付ける具体的事実の証拠化をしておくことが必要である。】
生活経済事犯研究会編著『事例付生活経済事犯捜査ハンドブック〔第6版〕』(立花書房,2021年4月)229頁
【○風俗慣習上又は宗教上の行事を行うために必要な廃棄物の焼却
例~「どんど焼き」等の地域の行事における不要となった門松, しめ縄等の木くず,紙くず等の焼却
○農業,林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却
例~農業者が行う稲わら*等の焼却
○たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であって軽微なもの
例~たき火, キャンプファイヤー等を行う際の木くず,廃材等の焼却
* 地域によっては,罰則はないものの,稲わら等の焼却を禁止する条例を制定している自治体もある。】
島本元気「最新判例解説第50回 廃棄物の処理及び清掃に関する法律における廃棄物の焼却禁止の除外事由の解釈を示すなどした事例 東京高裁令和2年8月20日判決(上告棄却・確定)」捜査研究2021年1月号(843号)
12頁
【本判決は,施行令14条5号該当性について, 周辺環境に及ぼす影響の程度及び焼却の規模に関する具体的事実関係を踏まえて判断しているところ,その当てはめの内容を踏まえると, 同号該当性判断に当たっては,①犯行現場周辺の状況,②焼却の態様,③焼却に係る廃棄物の量,④煙の発生状況等が事実認定上の着目点になるものと思われ,参考になる。
そして,本判決の内容を踏まえると,本件のような除外事由が主張され得る事案に接した捜査官としては,実況見分等を通じて,犯行場所周辺の状況や焼却の態様・規模などの基本的な事実関係を明らかにするとともに,通報者, 目撃者又は現場に臨場した警察官の供述等により煙の排出状況やにおいの発生状況を証拠化することが有益であることを念頭に置く必要があろう。】
今井康介「28廃棄物処理法16条の2にいう「焼却」の意義 仙台高判平成22年6月1日高刑速(平22)号267頁」高橋則夫・松原芳博編『判例特別刑法[第2集]』(日本評論社,2015年7月)283頁
【廃棄物処理法16条の2第3号は、焼却禁止の例外事由として「公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として政令が定めるもの」をあげ、それを受けて廃棄物処理法施行令14条5号では、「たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であって軽微なもの」を定めている。
この例外規定の点について、本判決は、形式的に、「たき火その他日常生活を営む上で行われる廃棄物の焼却」にあたらないとするのではなく、実質にまで踏み込んだ認定をしている。具体的な認定としては、本件焼却が、約1.1キログラムと少量であるものの、たき火その他日常生活を営む上で行われる廃棄物の焼却ではないとした上で、白煙が立ち上った点、本件現場付近に臭いが漂った点を認定している。つまり、廃棄物の燃焼状況、及び、焼却した後の状況、現場周辺の状況を認定している。このような認定が、極めて重要な理由は、以下のような、不法焼却罪の背景にある。
廃棄物処理法は、2000年改正により、野外焼却を直罰として禁止した(12)。それ以前から屋外焼却は大きな問題とされていたが、野焼きには、その実行者、目的、規模等において様々な態様があり、一律に刑罰を科すことについては実態上困難であると考えられていたため、行政命令前置主義が貫かれていた。しかし、増加する野外焼却を止めることはできなかったため(13)、直罰として立法されたのである(14)。
しかし、直罰とされても、警察実務においては、どのような証拠を収集すべきか、先例が少ないことも相まって、必ずしも明らかでなかった。また、本件のように燃やした廃材が、約1.1キログラムと、さほど多くない場合でも、焼却禁止の例外規定が適用されず、起訴が可能なのか、明らかでなかった。そのような状況の中で下された本判決は、警察実務の収集すべき証拠を明らかにするという意味で、大きな意義が認められよう(15)】
吉田誠治『新版補訂5版 記載例中心 事件送致の手引』(東京法令出版,2019年6月)462頁
【本件のような不法投棄事案では, これが廃棄物による生活環境の清潔さを破壊するという観点から,投棄した廃棄物の種類(環境破壊のおそれの強い廃棄物であるかなど) ・量,付近環境への具体的影響の有無不法投棄の動機・理由,投棄した場所(自己の所有地や河川内ではないかなど),投棄の方法(原状回復の容易性など),検挙後の原状回復の有無同種前科・前歴の有無等が情状として重要となる。】