クレプトマニアであることを否定しつつ、再度の執行猶予を認めた裁判例
2021年08月23日刑事弁護
こういった事例がありました。
判例タイムズ1430号(2017年1月号)247頁
軽度の知的障害,摂食障害の診断を受けている被告人が窃盗罪の執行猶予期間中に犯した食料品の万引きの窃盗事件について,前記精神疾患による責任非難の低減等を考慮して再度の執行猶予を付した
事例
対象事件|
平成27年5月12日判決
東京地方裁判所刑事第3部
平成27年刑(わ)第561号
窃盗被告事件
【量刑理由においては, まずは犯行の動機,態様,結果等のいわゆる犯情面を中心に量刑事情が検討されている。本件事案では,被害点数が多く,被害額も万引きの事案の中では高額の部類に属する点は,行為の違法性を高める要素ではあるものの,他方で,窃取態様からうかがえるように,被告人の合理性に疑問が残る行動の表れともいえる。本判決は,被告人の軽度の知的障害,摂食障害の影響等により,本件当時は窃盗の衝動を制御することが難しい状態にあったと認定し,その結果,被告人に対する責任非難の程度が低下する点を犯情面で重視して再度の執行猶予を付している。一般情状では,被告人が再犯予防に向けた治療等を受けている点が特徴的である(被告人は,起訴後早期の段階で保釈されていた。)。
なお, クレプトマニアという診断については,本件の犯行動機は,料理の材料を手に入れることにあり, 「個人用に用いるためでもなく, またはその金銭的価値のためでもなく,物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される」(DSM-5,窃盗症の診断基準A) という診断基準(ICD-10のF63.2の病的窃盗〔窃盗癖〕の基準も同様)には該当しないとしている点に留意を要する。
最近は,弁護人から摂食障害やクレプトマニアの主張がされる事件も散見される。そのような事件では, まず,そもそもそのような精神障害(あるいは,そこまで至らなくても精神障害に類似する精神上の問題)が認められるかが問題となる。
クレプトマニアについては,本件のように, その診断基準への該当性も問題となる。そして,仮にそのような精神障害等が認められたとしても, その程度や当該事件の犯行動機の形成等に与えた影響の有無,程度は事案によって異なり得る。そこで,問題とされる精神障害等の存在のみならず,それがどのように犯行に影響しているのかという機序,更にその結果,当該事件の量刑判断においてどのような点を考慮する必要があるのかといった点について,裁判所は,当事者の主張を踏まえつつ,証拠に基づいて判断していくことになろう。】
【改めて犯行態様をみると,料理の材料を得るためという動機自体は了解できるものの,被告人は,一箱で三 四人前用のチンジヤオロースの素10箱,酢豚の素7箱 2キログラムを超える鶏肉, 1キログラムを超える牛肉その他複数袋のお菓子などの多量の食料品を盗むという合理性に疑問が残る行動に出ている(窃取した食料品の量は,被告人の家族構成や一度に大量に作るという被告人の供述(乙4)を踏まえても了解が困難といえる。なお,被告人が財布のないことに気付いた時点以降に限っても,被告人は,上記大量の肉類を商品カゴに入れる行動に出ている。)。】
https://www.hanta.co.jp/books/6666/