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薬院法律事務所

犯罪被害者

スリ被害、国選弁護人からの示談金の提示額が納得できないという相談(犯罪被害者)


2024年11月26日窃盗(犯罪被害者)

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、東京都中央区兜町にある証券会社に勤務している30代の男性です。先日、混雑している東京駅でスリ被害に遭いました。その日はとても大事な商談があり、背広が型崩れしないように財布やスマートフォンをバッグの中に入れていたのですが、気がついたらバッグの口が開いていて、財布やスマートフォンがなくなっていました。慌てて警察に届けたり、クレジットカードを止めたりしています。財布からは現金だけ抜き出されて、スマートフォンと一緒に近くの路上に捨てられていました。3週間後に犯人が捕まったということで警察から連絡があり、その1週間後くらいに、警察を通じて国選弁護人から示談交渉したいという連絡がありました。国選弁護人からはなくなった現金の被害弁償で示談をしてくれといわれているのですが、盗まれて散々迷惑をかけられたのに現金だけで示談するというのは納得できません。

A、おっしゃる通り、納得できないのは当然だと思います。犯罪被害としては、現金だけではなく、クレジットカード等の悪用を避けるための停止や、身分証明書の再発行などがあり、財布の窃盗被害は現金だけに留まるものではありません。もっとも、国選弁護人が就いているということは、お金がない可能性が高いです。そこも考慮した上で交渉する必要があります。被害内容に応じて、3~20万円程度の迷惑料を請求するということは考えられます。

 

【解説】

 

一般的に、スリ事犯については職業的にスリを繰り返しているものが多いです。昔は現行犯でなければ捕まえられないことが多かったのですが、防犯カメラが整備されたことにより後日に犯人を検挙できるということもしばしば見られるようになりました。スリ事犯については、犯人が無職でお金がないということも多く、そもそも被害弁償ができないということもあるのですが、家族などが示談金を用意することもあります。そういった場合、国選弁護人の立場では、なるべく低い金額から提示せざるを得ないことも多く(高い金額を提示すると、示談が成立しても、後日被疑者や被疑者の親族からクレームがでることもある)、なくなった現金だけを被害弁償額として提示することがあります。

その場合は、被害者の側から具体的な金額を理由を明示して提示するといいでしょう。その上で金額をすり合わせていくことが大事だと思います。例えば、現場ですぐに逮捕された場合は、悪用の可能性がないので迷惑料は3万円程度と考えられますが、財布が発見されるまで時間がかかって身分証などの再発行が多数必要になったとか、有給休暇をとって捜査に何度も協力させられたとか、特別な事情があるのであれば20万円といった金額を提示することもあり得ると思います。以前国選弁護人をしていた者としていえば、国選弁護人も「悪意」があって低い金額を提示しているわけではなく、「そうせざるを得ない」ということがありますので、そこは理解してもらえるとありがたいと思います。私は現在は受任する事件を制限しているので、国選弁護人はしておりません。

 

刑法

https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045/20200401_430AC0000000072#Mp-Pa_2-Ch_36

(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

 

【参考記事】

東京都内のスリ被害、前年比2割増 経済活動回復で人出増 1~5月(毎日新聞)

https://mainichi.jp/articles/20240603/k00/00m/040/146000c

 

 

【参考文献】

林大悟「常習累犯窃盗の常習性が争点となった事例 」[本庄武]コメント「窃盗症と常習性」」季刊刑事弁護105号(2021年春号)82-87頁

87頁[本庄武]

【もともと窃盗の習癖が形成される典型と考えられていたのは、職業的にスリや空き巣狙いを繰り返す者であろう。こうした職業的犯罪者は、誘惑に負けて犯罪に至ってしまったというよりも、犯罪により生計を立てるという強い意思に基づいて罪を犯している。自らのやっていることが盗みであることは強く自覚しているものの、規範を遵守するよりも、犯罪により利得をすることが重要であるという価値観が形成されているために、規範意識は容易に凌駕されるに至る。行動制御能力は段損されておらず、むしろ犯罪に向けて合理的に行動が制御された結果として、規範意識は克服されてしまう。こうした犯罪者は規範を軽視していると言わざるをえず、そのことをもって規範意識が稀薄化していると評価しても誤りではないと思われる。これは、意思傾向としての習癖が形成されている場合であるが、その背景には人格的ないし性格的な傾向が存在しているものと思われる。】

http://www.genjin.jp/book/b556089.html