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薬院法律事務所

一般民事

セクハラをする上司の解雇を、会社に求められないかという相談(犯罪被害者、労働問題)


2024年11月29日労働事件(一般民事)

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は福岡市に住む30代女性です。先日転職して、あるクリニックに事務員として入ったのですが、私が席に座っていると、しばしば50代の既婚者の男性事務長が「指導」するといっては身体を近くに寄せてきました。距離が近すぎるとは思っていたのですが、新人なので何もいえずに我慢していたところ、先日は肩に手をおいてきました。私は嫌だったのですが嫌といえずにいたところ、数日後に、私を食事に誘ってきました。嫌だなとは思っていたのですが、断れずについていったところ、レストランに連れて行かれました。逃げたかったのですが断るのが怖くて、食事をした後にお礼を言って帰ろうとしたところ、いきなり背後から「君のことが好きなんだ」といって抱きついてきました。咄嗟に突き飛ばして逃げ出し、LINEで院長にセクハラにあったことを伝えました。院長からはセクハラということで謝罪があったのですが、このような事務長と一緒の職場では働けないので、事務長は解雇して欲しいと思っています。ですが、院長は解雇しないといっています。どうにかできないでしょうか。

A、セクシャル・ハラスメント行為に対しては、安全配慮義務の一環として、職場に対して職場環境を改善するように求めることができます。もっとも、セクハラ加害者を解雇することまで求められるかというと、現状ではそこまでの義務は認められていないようです。とはいえ、ハラスメント行為に対する社会の視線は年々厳しくなっていますので、今後は会社に対して「解雇」が義務付けられる事案もでてくると思います。

 

 

【解説】

 

職場においてセクシャル・ハラスメント行為が発生した場合、事業主は加害者の配置転換や懲戒等の適切な措置を講じないといけないとされています。しかしながら、小規模の企業においては現実的に配置転換を行うことができず、結局、加害者が退職しないという場合には被害者が退職せざるを得ないということが起こりえます。職場環境配慮義務の内容として、企業に加害者の解雇を義務づける裁判例は見当たりませんでしたが、今後、そういった事例も出てくると思います。ハラスメント行為については、その一回の出来事だけが問題だと考えている人もいます。「謝罪」させれば良いと考えている事業主もいますが、被害者にとっては、加害者と同じ空間にいないといけないことが苦痛なのです。

 

職場におけるセクシュアルハラスメント対策や妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!!(パンフレット)(平成30年10月)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137178.html

23頁

【7 行為者に対する適正な措置の実施
職場におけるハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに行為者に対する措置を適正に行うこと。
取組例
■ 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における職場におけるハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。併せて事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換(セクシュアルハラスメントの被害者への対応を行う場合)、行為者の謝罪等の措置を講ずること。
■ 男女雇用機会均等法第 18 条又は育児 ・ 介護休業法第 52 条の5に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対して講ずること。

●ハラスメントの事実が確認されても、往々にして問題を軽く考え、あるいは企業の体裁を考えて内密に処理しようとしたり、個人間の問題として当事者の解決に委ねようとする事例がみられます。しかし、こうした対応は、問題をこじらせ解決を困難にすることになりかねません。
●真の解決のためには、相談の段階から、事業主が真摯に取り組むこと、行為者への制裁は、公正なルールに基づいて行うことが重要です。
●行為者に対して懲戒規定に沿った処分を行うだけでなく、行為者の言動がなぜハラスメントに該当し、どのような問題があるのかを真に理解させることが大切です。】

 

【参考文献】

 

中井智子「44 使用者の職場環境配慮義務の内容」中井智子編著『ハラスメント対応の法律相談』(青林書院,2023年1月)218-223頁

218頁

【当社は,社員12名の中小企業てす。本社のみて,他に支店はあリません。1階に商品を保管する倉庫があリ, 2階には営業部,総務部があリます。当社は,営業部の女性社員Aよリ,倉庫て在庫管理をしている社員Bから,プレゼントをされたリ,食事の誘いがあるという相談を受けました。総務部長Cがこれに対応し, Bに対して事実を確認したところ, Bは,プレゼントをしたことや,食事に誘ったことがあると認め,送ったメールも見せて,事実関係について認めました。CはBに対し,今後はこのようなことをしないようにと注意をし, Bもそれに従いました。以後,BからAに対してメールを送ったリしたことはありません。また,在庫の確認て営業部のAがBに確認をすることもあリますが,直接話をしなくてよいように,書面をもって確認をする方法に変更しました。Bが事実を認め,「今後はこのようなことはしない」と約束をしたのて,注意にとどめ懲戒処分は実施しませんてした。
そうしたところ, Aから, Bに懲戒処分を実施しないのはおかしい, Bを解雇するべきだという要求を受けました。当社は,これに対応する必要はあるてしょうか。】

https://www.seirin.co.jp/book/01849.html