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薬院法律事務所

刑事弁護

バーでお酒を出したところ、お客さんが飲酒運転で事故を起こしたという相談(道路交通法違反)


2024年11月25日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、東京都千代田区霞が関にあるバーでバーテンダーをしている30代の男性です。先日、Instagramで見たということで、50代くらいのお客様が初めてお店に来られました。雑談するなかで「車で来ている」といわれて少し気になっていたのですが、注文を受けてカクテルを出していました。その翌日、警察から電話がきて、そのお客様が酒酔い運転で事故を起こしたと聞きました。警察からは事情を訊きたいといわれているのですが、私も何か処罰を受けることがあるのでしょうか。

A、バーテンダーが、酒気を帯びて車両等を運転することとなるおそれがある者に対して、酒類を提供することは、道路交通法65条3項の「酒類提供罪」にあたる可能性はあります。もっとも、上記のような事情では該当しないものと考えられますが、事前に弁護士に面談相談をして、お店の方針として、飲酒運転をする方にはお酒を出さないことを徹底していることをちゃんと説明する必要があるでしょう。

 

【解説】

 

道交法65 条3項は酒気帯び運転をすることになるおそれがある者に対して「酒類を提供」することを罰則付で禁止しています。店員であっても、客の注文を受けて自らの判断で酒類を出すことができる場合には提供者となり得ます。もっとも、本件の場合は常連客といったわけでもないですし、「酒気を帯びて車両等を運転することとなるおそれがある者」には該当しないものと考えられます。ご質問のような事情であれば、警察も酒類提供罪で立件することはないと思いますが、しっかりとその点を説明しておくことが大事です。理屈上は、「未必の故意」があれば足りると考えられ、「未必の故意」は裁判上は容易に認められるからです。

 

※道路交通法

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

八 車両 自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバスをいう。

十一 軽車両次に掲げるものであつて、移動用小型車、身体障害者用の車及び歩行補助車等以外のもの(遠隔操作(車から離れた場所から当該車に電気通信技術を用いて指令を与えることにより当該車の操作をすること(当該操作をする車に備えられた衝突を防止するために自動的に当該車の通行を制御する装置を使用する場合を含む。)をいう。以下同じ。)により通行させることができるものを除く。)をいう。

十七 運転道路において、車両又は路面電車(以下「車両等」という。)をその本来の用い方に従つて用いること(原動機に加えてペダルその他の人の力により走行させることができる装置を備えている自動車又は原動機付自転車にあつては当該装置を用いて走行させる場合を含み、特定自動運行を行う場合を除く。)をいう。

(酒気帯び運転等の禁止)
第六十五条 何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
2 何人も、酒気を帯びている者で、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない。
3 何人も、第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。
4 何人も、車両(トロリーバス及び旅客自動車運送事業の用に供する自動車で当該業務に従事中のものその他の政令で定める自動車を除く。以下この項、第百十七条の二の二第一項第六号及び第百十七条の三の二第三号において同じ。)の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第一項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。
(罰則 第一項については第百十七条の二第一項第一号、第百十七条の二の二第一項第三号 第二項については第百十七条の二第一項第二号、第百十七条の二の二第一項第四号 第三項については第百十七条の二の二第一項第五号、第百十七条の三の二第二号 第四項については第百十七条の二の二第一項第六号、第百十七条の三の二第三号)

第百十七条の二の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

五 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第三項の規定に違反して酒類を提供した者(当該違反により当該酒類の提供を受けた者が酒に酔つた状態で車両等を運転した場合に限る。)

第百十七条の三の二 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

二 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第三項の規定に違反して酒類を提供した者(当該違反により当該酒類の提供を受けた者が身体に第百十七条の二の二第一項第三号の政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態で車両等(自転車以外の軽車両を除く。)を運転した場合に限るものとし、同項第五号に該当する場合を除く。)

https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000105#Mp-Ch_4-Se_1

 

よくわかる裁判員制度の基本用語
未必の故意

https://imidas.jp/judge/detail/G-00-0093-09.html

 

【参考文献】

 

法務総合研究所『研修教材 五訂 道路交通法』(法務総合研究所,2013年3月)329-330頁

【車両等を提供する相手方が「酒気を帯びて運転するおそれがあること」を認識するとは,少なくとも,相手方が酒気帯び運転行為に及ぶことの未必的な認識を有していることである。】

 

城祐一郎『Q&A 実例交通事件捜査における現場の疑問〔第2版〕』(立花書房,2017年10月)153頁

【本罪の構成要件として,まず,当該提供者の主観的要件としては,運転者が酒気を帯びているとの認識及び当該運転者が同車両を運転することとなるおそれがあるという認識が必要である。
したがって,主観的要件に関しては,当該運転者が確実にその車両を運転するとまで思っていなくても,未必的にでも,運転するかもしれないが,それでも構わないと思っていたという場合であっても,「運転することとなるおそれがある」ことを認識していたことになる。】

 

道路交通研究会「交通警察の基礎知識242 飲酒運転周辺者三罪等について」月刊交通2023年1月号(662号)68-80頁

73頁
【また、飲食店の経営者等ではない店員であったとしても、客の注文を受けて自らの判断で酒類を提供することが可能である場合は提供者となり得る…(中略)…

具体的にどのような行為が酒類提供罪となるかというと、例えば、
〇飲食店の店主において、車で来店した常連客がこれまでにも飲酒運転をして帰宅していることを知りながら、その注文に応じて当該常連客に酒類を提供した。】

 

道路交通執務研究会編著『執務資料道路交通法解説(19訂版)』(東京法令出版,2024年1月)

661頁

【「車両等を運転することとなるおそれがあるもの」とは、車両等を提供すれば、酒気を帯びて車両等を運転することとなる蓋然性があることをいう…(中略)…車両等の提供を受ける者が、飲酒運転をすることとなるおそれがあることの認識は、車両等提供者と提供を受けた者の人間関係、提供を受ける者の飲酒運転に関する言動、飲酒運転が行われることを当然推認されるべき事情その他個々具体的な状況に応じて判断されることとなる。】※第2項の車両等提供罪の解説部分。3項も同旨(662頁)。