万引き事件、発覚していない余罪を自白するべきかという相談(万引き、刑事弁護)
2024年11月07日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡市に住む30代の専業主婦です。自分自身でもなんでなのかわからないのですが、万引きをしてしまうようになりました。そんな高いものではないのですが、万引きをして店舗を出ると凄くドキドキして、ほっとした気持ちになります。ネットで調べて自分は「クレプトマニア」ではないかと思うのですが、怖くて病院にはいけません。とうとう、お店の人に見つかって警察に連れて行かれました。警察では「他にもしているのではないか」といわれているのですが、余罪を話すと罪が重くなってしまうので怖いです。弁護士さんに依頼しているのですが、弁護士さんは話しにくい感じの人で、本当のことがいえません。
A、これは凄く難しい問題で、インターネットで回答することはできません。弁護士さんとの相性が合わないのであれば、セカンドオピニオンを求めることも重要だと私は思います。残念ながら、クレプトマニアについての問題意識が薄く、「たかが万引き」と捉えている弁護士も少なくありません。弁護士はいつでも解任できますので、相性のあう弁護士を探すことが大事だと思います。
【解説】
良くある質問です。これは一概に判断できない問題なのですが、私は原則として自白することをお勧めしています。その理由については、「後日に発覚して問題になるかもしれない」という恐怖心を抱えることが本人のストレスになるという考えからです。とはいえ、いわないこともありますので、これは具体的な事案を踏まえて依頼者と良く協議をしないといけないことです。今の弁護士があわないといった場合には、セカンド・オピニオンを受けられることも一つの選択肢です。
【参考文献】
中田雅久「この弁護士に聞く25 林大悟」季刊刑事弁護94号(2018年夏号)4-7頁
5頁
【中田 クレプトマニアの方は、余罪のある場合が多いと思います。捜査段階で担当するときに、取調べ対応について、どのようなアドバイスをされますか。
林 まず余罪については、率直に全部話しなさいと言いますね。黙秘権の説明をして言いたくないことは言わなくていいとか、余罪については言う必要はないんだと言って、隠そうとする弁護士の方がいます。それは余罪があると、起訴される可能性が高まるとか、裁判で不利になるという計算だと思います。でも、クレプトマニアで治療の必要があるというストーリーの場合に、余罪がないというのはむしろ病気の軽さを意味するわけです。私は、言いたくないことは言わなくていいと説明したうえで、正直に余罪について話すことを推奨しています。どういうストーリーで弁護をするかによって、余罪の存在は、有利にも不利にもなるわけです。
あともう一つ、捜査段階で注意しないといけないのは、本当は財産を持っているにもかかわらず、過少申告している方が多いということです。「たくさんお金を持っているのに万引きするのはけしからんと思われる」と考えていらっしゃるのでしょうね。「お金を持っているのに、買えるのに、執行猶予中にリスクを冒して数百円、数千円のものを盗るというほうが、僕は異常だと思うよ」という話をして、正直に話しなさいということを言っています。】
http://www.genjin.jp/book/b358335.html
大辻寛人「第2章 窃盗・強盗事件」荒木和男ほか編『はじめての刑事弁護Q&A』(青林書院,2013年5月)126-138頁
131頁
【Q2 I盗癖がある場合(1) 一一余罪がある場合
万引き犯の起訴前弁護をしています。被疑者から立件されていない複数の同種余罪があることを捜査機関に自白すべきか否か相談されました。この場合.どのようにアドバイスをすべきでしょうか。
[A] 告白すること及び告白しないことによる利益・不利益について説明し,最終的には被疑者の自主的判断に委ねるべきです。】
https://www.seirin.co.jp/book/01597.html
高木小太郎・服部啓一郎「Ⅰ窃盗・強盗事案」服部啓一郎ほか編『先を見通す捜査弁護術 犯罪類型別編』(第一法規,2020年3月)23-84頁
33頁(1万引き)
【依頼人から、捜査機関に発覚していない余罪があるのだけど、捜査機関に打ち明けた方がよいかということを問われた場合ですが、被疑事実についてすら供述することが許容されるケースが限定的であるのに、勾留の基礎とされていない事件について、これを積極的に打ち明けるだけの合理的な理由が存在するケースというのは相当限定的になると思います。供述の結果、余罪捜査が進めば、再逮捕・再勾留の可能性も高まりますし、余罪が多ければ初犯でも公判請求になる可能性も高まります。
反省というのは、公判における有利な情状ではありますが、余罪が増えることによって、処分が童くなることとの兼ね合いで考えると、供述するメリットはありません。そもそも、積極的な供述は反省の一内容にしかすぎず、公判において反省を示す場合に、取調べ段階において余罪について積極的な供述をしていないことが反省をしているという主張の妨げになるものではありません。
自首に相当するようなケースであればともかく、そうでないケースでは供述のメリットはあまりありません。自首に相当するケースでは、供述をしなければ犯行が発党しないことになりますので、やはりメリットが小さいケースが多いでしょう。】
43頁(2万引き(クレプトマニア等))
【捜査機関に申告していない余罪があるとき、黙秘させるかどうかが問題となりますが、供述させてよいと考えます。万引きは後から立件される可能性もありますが(事例I-1 -1参照)、前科があり、鑑定請求も視野に入る事案では供述させて被疑者の窃盗症を資料化すべきと考えられます。
難しいのは犯行動機で、「盗ったのはその物が欲しかったから」「生活費を節約したかった」といった供述を押しつけられそうなら、黙秘を考えます。加えて取調べ可視化を申し人れてください。】
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/103835.html