中古車を「無事故車」としてノークレームノーリターンで転売したところ、事故車だったという相談(一般民事)
2025年02月07日一般民事
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は20代女性です。彼氏と3年間同棲していたのですが、同棲を解消することにしました。同棲を解消するにあたって、2年前に彼氏が私を殴って怪我をさせたことの治療費と慰謝料として30万円を請求したのですが、「今さらの話だ」とか「もう許したことだろ」と言っています。彼が殴った時に私が警察を呼んで、警察から言われて土下座して謝ったので、その時は治療費も慰謝料も請求せずに復縁したのですが、別に許したつもりはありません。彼の中では終わったことかもしれませんが、私は慰謝料や治療費は請求しないとは一言もいっていないです。今からでも請求できないでしょうか。そして請求するためにはどうすればいいでしょうか。
A、損害賠償請求ができる可能性は高いです。また、傷害事件として改めて被害届を提出することも考えられるでしょう。
【解説】
※以下の回答はあくまでも一般的な法的観点からの情報提供であり、最終的な判断を下す際には、実際の事案の詳細を弁護士へ相談のうえ、個別具体的な助言を得る必要があります。
1. 前提整理
- 売買の経緯
- 去年にオークションサイトで「無事故車」として購入した車を、先月、同じくオークションサイトで「ノークレーム・ノーリターン、無事故車」と明記して売却した。
- 実は購入時から事故歴があったが、あなた(売主)は気づいていなかった。
- 買主が整備工場に持ち込んだ結果、「過去に衝突した痕跡がある」と判明。買主から「修理費の一部を負担してほしい」と請求された。
- 個人間売買であり、書面の売買契約書は作成していない(ただしオークションサイトでのやり取りは残っている可能性が高い)。
- あなたの立場
- 「無事故車だと思っていたし、気づかなかった。ノークレーム・ノーリターンと記載して売った以上、払う義務はないのでは?」という疑問。
2. 法的論点
(1) 契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)
2020年4月1日の民法改正以降、物件が契約内容に適合していない場合(契約不適合) には売主が一定の責任を負うとされています。いわゆる「瑕疵担保責任」は、現在の民法では「契約不適合責任」として整理されています。
- 本件における契約内容(売買の合意事項)
- オークションの出品ページやメッセージで「無事故車」と明示していたとすると、「無事故車として売った」ということが契約上の品質に関する内容になります。
- 実際には事故歴があったのであれば、「無事故車」という説明は事実と異なる ことになります。
- したがって、「実際の状態(事故歴あり)と契約内容(無事故車)が適合しない=契約不適合」が生じる可能性が高いです。
- 「ノークレーム・ノーリターン」条項の効力
- 個人間取引でしばしば見られる表記ですが、これだけですべての法的責任を免れる ことができるわけではありません。
- たとえ「ノークレーム・ノーリターン」と書かれていても、売買契約の重要な品質に関する点(事故歴の有無など)について実際と異なる説明があった場合 は、売主に契約不適合責任が追及される可能性があります。
- 特に、「売主が故意または過失で誤った説明をした(たとえ知らなかったとしても、不注意で誤った説明をしたと見なされることもある)」場合には、買主が契約不適合による損害賠償や修理費用の負担を求めることは十分に考えられます。
- 売主が事故歴を知らなかった場合の評価
- 本人が「本当に知らなかった」場合でも、買主が「売主の説明を信じて無事故車だと思い購入した」ことに対する保護が図られる場面があります。
- ただし、売買対象が高額商品(車)であり、かつ「事故車かどうか」という点は車の評価において極めて重要な要素です。
- 「知らなかったのだから責任を負わない」とは一概に言えず、判例や実務上も「売主に過失がなかったか」「本当に調べる手段がなかったか」などを個別に判断される傾向があります。
(2) 過去の民法でいう「隠れた瑕疵」との比較
- 改正前は「隠れた瑕疵」があった場合の瑕疵担保責任が問題とされましたが、改正後は「契約内容に適合しない点」があれば売主が責任を負う ことが基本です。
- 従来から中古車の個人売買においては、売主が「事故歴なし」と説明したのに実際は事故歴があった場合、裁判でも買主に有利な判断が下されるケースが少なくありません。
(3) 詐欺・不実告知などの問題
- もし売主が「本当は事故車だと認識していたのに、知っていて隠した・虚偽説明をした」のであれば、さらに悪質と判断されて詐欺等が問題となる可能性もあります。
- 質問の内容からすると、あなた自身は気づいていなかった ようなので、「詐欺」とまではいえないかもしれませんが、結果として誤った説明をしたこと自体 は契約不適合の根拠となり得ます。
(4) 修理費負担の要否
- 買主が何を請求できるか
- 改正民法下の契約不適合責任では、買主は次のような請求権を主張する場合があります。
- 追完請求(修理等の請求)
- 代金減額請求
- 損害賠償請求
- 契約解除(重大な不適合の場合)
- 改正民法下の契約不適合責任では、買主は次のような請求権を主張する場合があります。
- 一部負担を求められた場合
- 買主としては「修理費全額または一部を売主に負担してほしい」というのが追完請求・損害賠償請求と実質的に同じ趣旨になるでしょう。
- 実際に裁判になった場合でも、当事者間の事情や認識、車の年式や相場価格、事故の程度などを総合的に考慮して、売主の負担額がどこまで認められるか が判断されます。
- 「ノークレーム・ノーリターン」や「個人間売買」の影響
- 個人間売買であっても、重要な事実(事故歴)について誤った表示をしていた場合、「知らなかった」ことがどこまで免責として認められるかはグレーです。
- 一般に、業者同士ほどの厳格な調査義務までは課されない可能性はありますが、中古車市場では事故歴の有無が価格と直結するため、売主がそれを「確認しないまま断言した」点に一定の過失があると判断される場合があります。
3. 結論と対応策
(1) 支払義務が一切ないとは断定しづらい
- 結論
- あなたが「本当に知らなかった」としても、出品時に「無事故車」と断言して売却したのであれば、契約不適合責任を問われる可能性 は否定できません。
- 「ノークレーム・ノーリターン」と明記していても、事故歴の有無は本来非常に重要な要素です。その点について実際と異なる説明がなされている以上、買主側の主張に一定の理由が認められる場合が多いでしょう。
- したがって、一切の修理費を負担しない、という対応が法的に完全に正当化される とは言い切れません。
(2) どの程度負担すべきかの交渉
- 修理内容・金額・車両状態などを確認
- まずは実際に「どの程度の事故痕があり、どれくらいの修理費用が発生するのか」を客観的に把握する必要があります。
- 買主が提示する見積書や整備工場の診断結果などをよく確認し、そのうえで妥当な金額かどうかを検討することが大切です。
- 代金減額の範囲・修理負担の交渉
- 修理費全額を負担するか、一部を負担するかなどは、実際の不適合の程度や売買価格とのバランスで決まります。
- 当事者同士の話し合いで「修理費の一部を補償して手打ちにする」という方向で解決するケースが多いです。
- もし話し合いがまとまらず、買主が裁判等に発展させれば、最終的には裁判所が妥当な負担割合を決めることになります。
(3) 弁護士への相談も視野に入れる
- リスクと費用対効果を考慮
- もし買主の請求金額がそれほど高くない場合、裁判に至るまでもない金額で交渉が落ち着く可能性もあります。
- しかし、トラブルが長期化したり、高額になりそうな場合は、早めに弁護士に相談して方針を確立するのが望ましいです。
- 「あなたが本当に事故歴を全く知らなかったこと」を裏付ける資料(購入時の取引記録、出品時の説明文など)や、事故歴の有無を確認できなかった経緯などを整理しておくと、弁護士にも事情が伝わりやすくなります。
4. まとめ
- 「ノークレーム・ノーリターン」と書いていても、事故車であることを知らずに「無事故車」と断言して売却した場合、契約不適合責任を問われる可能性がある
- 事故歴の有無は中古車の価値を左右する重要事項であり、単純に免責されるわけではありません。
- 支払義務が発生するかどうか・どの程度の修理費を負担するかは、個別事情次第
- 買主が求める修理費用の内容・金額の妥当性、売買価格とのバランス、あなた自身の認識・過失の程度などを総合的に判断して交渉されるでしょう。
- まずは買主から提示された修理見積や証拠の内容を確認し、話し合いで解決を試みる
- そのうえで、話がまとまらない場合は法的手段へ移行することになりますが、高額や複雑な場合は早めに弁護士に相談することをおすすめします。
以上のとおり、「一切支払わなくてよい」とは言い切れず、契約不適合責任に基づいて買主から損害賠償や修理費用の負担を求められる可能性が高い というのが一般的な法的見解です。実際には当事者間の事実関係や交渉内容次第で結論が変わるため、早めに状況を整理し、必要に応じて専門家へ相談されることを強くおすすめします。
民法
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-Pa_3-Ch_2-Se_3-Ss_2
(買主の追完請求権)
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
(買主の代金減額請求権)
第五百六十三条 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
3 第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。