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薬院法律事務所

刑事弁護

中学生の息子が、部室で窃盗被害に遭い、スマホで監視したら、盗撮とされたという相談(盗撮、少年事件)


2024年09月28日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私の息子は福岡市内の私立中学校に通う、中学3年生です。サッカー部に所属しているのですが、練習の時に部室にカバンを置いていると勝手に荷物が漁られて盗まれるという被害に遭いました。そこで、犯人を特定するためにスマホのカメラを起動して部室の中に設置していました。ところが、それが見つかって「盗撮だ」と言われています。確かにみんな部室で着替えていますが、男同士のことですし、みんな普段からチームメイトの裸は見ているわけです。息子も裸が見たかったというわけではないです。被害者の息子が加害者にされてしまいショックです。なんとかならないでしょうか。

A、部室が、部員が着替える場所になっていたのであれば、性的姿態等撮影罪は成立する可能性があります(児童ポルノ盗撮製造罪が成立することもあります)。ただ、同級生同士のことですので、刑事事件までに発展せずに教育的指導のみで解決することも考えられます。撮影された生徒の両親への謝罪を行い、必要に応じて弁護士をつけて学校と処分について交渉すべきでしょう。警察に通報された場合には少年事件になりますので、そうなった場合にも備えて対応する必要があります。

 

【解説】

 

令和5年に制定された性的姿態等撮影罪については、「正当な理由がなく」、「ひそかに」、「対象性的姿態等」を撮影した場合に成立します。ご相談の事例では、「ひそかに」の要件は満たされ、「対象性的姿態等」の要件は満たされるか、「正当な理由」があるかという問題になります。性的姿態等のうち、「人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出」している場合は対象外ですが、「部員が着替えることが常態となっていた部室」がこれにあたるかは一つの論点です。ここは両方の結論がありえます。

そして、「正当な理由」があるかも問題になります。私見ですが、窃盗被害が実際にあっていたとしても、例えばカバンの中でカメラを起動して、開けた人を撮影するような方法もとれた以上、「正当な理由」が認められない可能性は高いと考えます。

 

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律

https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000067

(性的姿態等撮影)
第二条次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
イ人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分

 

法務省 性犯罪関係の法改正等 Q&A

https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html

 

トップ > 裁判手続案内 > 裁判所が扱う事件 > 少年事件

https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_syonen/index.html

 

【参考文献】

 

浅沼雄介ほか「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律について(1)」法曹時報76巻2号(2024年2月号)23-122頁

52-53頁

【(イ) 「人が通常衣服を着けている場所」とは、人が衣服を着けているのが通常である場所を意味し、例えば、公道、公園、デパートの売場、電車の車両内などがこれに該当し得る。】

54-55頁

【(イ) 本号の「正当な理由」の有無については、
〇撮影行為者と撮影対象者の関係
〇撮影行為に至る経緯、撮影の目的
〇対象性的姿態等の内容
〇撮影方法などの態様
等を総合して判断することとなり、例えば、
〇親が、子供の成長の記録として、寝ている子供の上半身裸の姿を撮影する場合
〇医師が、救急搬送された意識不明の患者の上半身裸の姿を医療準則にのっとって撮影する場合
(注12)(注13)
等については、「正当な理由」があると考えられる。】

66-67頁

【(注13) 本号又は本項第4号の「正当な理由」があるといえるのは、
①撮影行為者と撮影対象者の関係が、撮影行為をめぐって利害が相反するようなものでなく、かつ、

② 社会通念上、撮影行為の動機・目的が正当なものであり
③ ①・②を前提に、撮影対象や方法などの態様も相当な範囲にとどまるからであると考えられる。
これに対し、例えば、性交後に相手方から「性交に同意していなかった」などと主張されてトラブルになった場合に備えて、ひそかに、性交をしている間における相手方の対象性的姿態等を動画撮影する行為については、
〇撮影行為者にとっては、自らの利益のために証拠保全をするものである一方、撮影対象者にとっては、全く利益がなく、むしろ保護法益を侵害するだけのものであって、その関係は、撮影行為をめぐって利害が相反するものである上、
〇性的な行為をするかどうかの性的自由・性的自己決定権と、性的な姿態を他の機会に他人に見られないという性的自由・性的自己決定権は別のものであり、仮に、性交の相手方との間で前者の侵害をめぐって事後にトラプルになるおそれがあるとしても、後者を侵害する撮影行為をして証拠を保全するような方法が許容されるものではなく、そもそも、撮影行為の動機• 目的が社会通念上正当なものとはいえないこと
から、「正当な理由」があるとはいえないと考えられる。】

 

性的姿態等撮影罪制定前の文献ですが、中学3年生の生徒がスマートフォンで更衣中の女子生徒を盗撮し、友達に動画を拡散したという架空の事例について、警察への通報については謙抑的に考えるべきという論考があります。学校側との折衝にあたっては参考になるでしょう。

 

三坂彰彦「教育問題法律相談No.504 校内での生徒の盗撮行為と対応の留意点」(週間教育資料2019年6月10日号)

【以上のように学校内での盗撮行為は犯罪に該当するものですが、生徒がこうした盗撮行為を行ったことが判明した場合に、学校が、直ちに犯罪として警察に相談したり、通報したりすることについては慎重な検討が必要で、むしろ、まずは、当該生徒に対する学校としての教育上の指導をし、生徒の反省状況を確認する段階を先行させることが求められます】