被害者の証言以外の証拠がないのに、不同意性交等罪で起訴されたという相談(性犯罪、刑事弁護)
2024年01月30日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市に住む40代の自営業者です。先日、従業員に対する不同意性交等罪で起訴されました。逮捕された時に頼んだ弁護士さんからは、相手の証言しかないので証拠不十分で不起訴になるだろうと言われていたのですが、起訴されたので弁護士を替えようと思っています。どういう弁護士を選べばいいでしょうか。
A、経験豊富な弁護士に依頼して、積極的に相手の供述が信用できない事情を示すことで、無罪判決を得ることが考えられます。ただ、この判断は証拠を見ないとわからないので、証拠を見た結果として、争えない事案で示談交渉を積極的に進めることになる場合もあり得ます。
【解説】
不同意わいせつ事件、不同意性交事件においては、密室の出来事で、「証拠が被害者供述しか存在しない」ということがままあります。そういった場合、完全黙秘をしている被疑者等が起訴されないこともあったようですが、近時は、被害者証言の信用性が担保されていると判断されれば起訴されているようです。井上拓弥「客観的事実から被害者証言の信用性を高めて有罪判決を得た強制わいせつ事件」捜査研究2023年1月号(867号)57頁で紹介されているのが、がそういった事案でした。
本件については、被害状況についての供述に変遷がある、警察に相談するまでに2ヶ月間が空いており、その理由についても捜査初期は不明という状況でしたが、裏付け捜査をした上で起訴し、有罪判決となっています。筆者は家庭内DV事件にも応用可能ではないかと述べており、被害者側で受任する弁護士、家事事件を受任する弁護士にとっても参考になる内容だと感じました。
本件は特殊性があり、美容師が複数の顧客に対して不同意わいせつ(当時の強制わいせつ)を行って起訴されていたものの、本件の被害者以外にはその事実を認めて示談金を支払っていたというものです。そうなると、弁護人側としては「この事件だけ否認しているということは、その否認は真実ではないか」と考えがちなところですが、結論としてその弁解は信用できないと裁判所に判断されています。何故裁判所がそのように判断をしたのか、という点が参考になり、弁護人側としては被告人の弁解の信用性を積極的に担保する証拠を集めなければいけないと感じました。
【参考文献】
井上拓弥「客観的事実から被害者証言の信用性を高めて有罪判決を得た強制わいせつ事件」捜査研究2023年1月号(867号)
63頁
【上記のような立証を行った結果、判決では、被害者証言の内容は、詳細で供述態度等においても迫真性があることに加え、「被害者は、公判廷においても被告人の技術を尊敬していたと供述しており、現に、本件以前の被害者と被告人のLINEの内容も、特に不和を感じさせるようなものはなく、通常の美容師と客の関係以上のものはないことからすれば、殊更に被告人を陥れる動機は見当たらない。」「被害を受けてから警察署に被害届を提出するまでの事情も被害に遭った者の行動と見て合理的であり、その供述内容も一貫している」としてその信用性が認められた。
また、弁護人が指摘した供述の変遷については、「弁護人は、被害状況に関する供述内容が不自然に変遷したというが、着衣の中に手を人れられ、胸、臀部を触られたという供述の核心部分は一貰しており、信用性は揺るがない。」として、弁護人の主張は排斥された。そして、信用できる被害者証言をもとに、被害者に対する強制わいせつ事件についても有罪判決が言い渡された。】
捜査研究2023年1月号