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薬院法律事務所

刑事弁護

交差点における直進車と、右折車との右直事故で、右折車の過失運転致死罪を不起訴にできないかという相談


2025年10月07日刑事弁護

 

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、福岡市に住む50代の職業運転手です。先日、軽トラックを運転して、信号機のある交差点(右折専用信号はなし)で、青信号で交差点内に進入して、交差点内で右折のために待機し、信号の変化を待っていました。対面信号が赤色に変化したので、右折をしたところ、対向車線から時速100kmの速度(法定速度は40km)でバイクが交差点内に進入してきて、私の軽トラックと衝突しました。バイクの運転者は亡くなられてお気の毒だと思いますが、警察官から私を過失運転致死罪として取り調べするといわれています。もらい事故だと思うのですが、処罰されるのでしょうか。

 

A、前方不注意や、安全運転義務違反といったことで処罰される場合があります。もっとも、事故内容を子細に分析して、検察官に対して意見書を提出する等の活動をすることで処罰を回避できる場合があります。弁護士の面談相談を受けられて下さい。

 

【解説】

一般論として、交差点での右直事故の場合は、右折車が加害者とされることが多いです。特に直進車の運転者が亡くなられた事件などでは、右折車運転者が処罰されることがしばしばあります。もっとも、弁護人の活動次第では、右折車の運転者が起訴されない場合もあります。

そもそも、過失運転致死傷罪が成立するためには、
①過失の存在(=道路交通法違反ではない)
②過失と致死傷との因果関係
が必要になります。

右直事故の場合、①についてがまず問題になり、前方注視義務違反がないかが問題になりますが、バイクが交差点に進入した時点では既に信号が赤色に変化していた場合、交差点に新たに進入する車両があることを想定するのは難しかったと思われます。交差点では、直進車優先という原則(道路交通法37条)がありますが、大幅な速度超過の直進車は想定する義務はないと解釈されています。たとえば、40kmの法定速度で、建物の並び立つ都市部で、80km以上の速度で、赤信号にもかかわらず交差点に進入する車は予想しがたい、その存在まで予想して、結果を回避すべき義務は課せないのではないかと思います。

さらに、②の因果関係が問題になります。右直事故が、例えば交差点を横断する歩行者を跳ねた、といった事故であれば、黄信号看過の過失と相当因果関係がある(あるいは信号看過の危険が現実化した)と思われますが、バイクが赤信号にも関わらず、高速度で交差点に進入したことにより発生したといった場合は、特殊な故意行為の介在として相当因果関係が否定される、あるいは危険が現実化したとはいえないのではないか、ということもあります。

このような事情を弁護士が意見書で主張することにより、嫌疑不十分での不起訴となることがあります。

 

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律

https://laws.e-gov.go.jp/law/425AC0000000086

(過失運転致死傷)
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

 

【参考文献】

宮成正典「第1節 信号無視・看過による事故をもとに考える」宮成正典『交通事故捜査の手法 第2版』(立花書房、2014年2月)140頁~182頁
交通事故・事件捜査実務研究会編「第3章 交差点における右折車両と対向直進車両の事故」交通事故・事件捜査実務研究会編『交通事故・事件捜査実務必携~過失認定と実況見分,交通捜査の王道~』(立花書房,2017年7月)68~92頁
五十嵐義治「第2節 右折車・転回車と速度超過直進車との衝突事故」五十嵐義治『シリーズ捜査実務全書14 交通犯罪』(東京法令出版,2008年4月89~103頁
瓦敦史「第4講 直進車と右折車の衝突事故」瓦敦史『二訂版 基礎から分かる交通事故捜査と過失の認定』(東京法令出版,2021年4月第3刷)101~121頁