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薬院法律事務所

刑事弁護

交通事故を起こしたが、交通事故証明書を発行してもらえないという相談(警視庁の場合)


2026年01月13日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

Q、私は、東京都に住む男性です。先日、自転車を路側帯上で運転していたところ、私が、路側帯にいた歩行者を避けようと車道にはみ出してしまったため、後方で運転していた車が私を避けようとしてハンドルを切り、衝突事故を起こしてしまいました。警察からは重過失致傷罪として捜査を受けているのですが、車の運転者から賠償請求がきたので、弁護士事務所に予約をしたところ、相談時に「交通事故証明書」を取ってきてくれといわれました。そこで自動車安全運転センターに行ったのですが、事故当時者でないので発行できないと断られました。どうすれば良いのでしょうか。

A、事故の「誘因者」についても交通事故証明書が発行できる場合があります。捜査を担当する警察署に問い合わせをするといいでしょう。

 

【解説】

交通事故の損害賠償請求などにあたって必須となるものとして「交通事故証明書」があります。これは、実は法令の定めがあり、担当した警察官が交通事故発生報告書を作成し、それに基づいて自動車安全運転センターが発行することになっています。通常は事故の当事者でないと発行されませんが、誘因者については「書面の交付を受けることについて正当な利益を有すると認められる者」として発行がされるようになっています。なお、備考欄に「誘因者」の記載があることもあるようですので、その場合には問題なく発行されるでしょう。

 

自動車安全運転センター法

(業務)
第二十九条 センターは、第一条の目的を達成するため、次の業務を行う。
五 交通事故に関し、その発生した日時、場所その他内閣府令で定める事項を記載した書面を、当該事故における加害者、被害者その他当該書面の交付を受けることについて正当な利益を有すると認められる者の求めに応じて交付すること。

https://laws.e-gov.go.jp/law/350AC0000000057

 

【参考文献】

警視庁交通部交通総務課法令指導係『交通関係質疑回答集〈諸法令編Ⅰ〉』(警視庁,1996年3月)161-162頁

【事例21 事故の誘因者は、交通事故証明書がもらえないのか
問 交通事故の誘因者は、交通事故証明書がもらえないと聞いたが本当にもらえないのか。
答 誘因者自身が交通事故に関連しているという証明書は交付することができませんが、交通事故が発生したという事実についての証明であれば、その申請に正当な理由がある限り、交付されます。
交通事故証明書の交付を受けることができるのは、「交通事故証明書の交付を受けることについて、正当な利益を有すると認められる者」ということになっており、交通事故の当事者はもとより、その遺族や雇用主あるいは誘因者であっても、その交通事故が発生した事実証明が必要な場合には交付を受けることができます。
ただし、交通事故の誘因者(注)は、交通事故の当事者として取り扱われませんので、警察署(隊)からセンター事務所に送付される交通事故証明書の資料には記載されていません。したがって、誘因者自身が記載されている交通事故証明書は交付されないということになります。
(注) 誘因者とは、交通事故の直接の当事者ではないが、交通事故発生の原因になっている者です。例えば、前方を進行する自動車が、後続する自動車の直前で突然に転回したため、後続車が衝突を避けようとして方向変換し側方の自動車に衝突したような場合、転回した自動車の運転者がその交通事故の誘因者となります。】

 

矢代隆義『概説 交通警察〈第2版〉-交通警察活動の歴史と構造-』(立花書房,2022年12月)333-334頁

【(4)交通事故証明資料の作成
交通事故証明は、警察が行う公証行為である。公的機関がその業務を通じて把握した事実を、その本人の求めに応じて証明する行為を公証行為という。我が国では、交通事故に係る損害賠償責任保険や自動車保険が広く普及しており、これらの保険金の支払いがスムーズに行われるためには、交通事故が存在したという事実証明が必要である。警察は、その活動の一環として交通事故の処理を行うことから、昭和31年の自動車損害賠償保障法の施行以来、交通事故証明を行っている。
かつては、所轄の警察署長が、直接当事者の申請に基づき事故証明書を発行していたが、昭和50年に自動車安全運転センター法が制定され、当事者の申し出に基づき同センターが交通事故証明書を発給することとなった。自動車安全運転センター法第29条第1項第5号には、センターの業務として交通事故証明書の発行業務が規定されており、同法第31条により同センターは必要な事項を都道府県警察に照会することができるとされている。】

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3818

 

警察協会編『地域警察活動(交通)』(警察協会,2020年3月)

286頁

【交通事故による物の損壊、人に対する傷害の補償のため、強制加入が法律により義務付けられている自動車損害賠償責任保険や対物、対人、車両に対する損害を補填するため任意で加入する損害保険等の請求に必要な「交通事故証明書(自動車安全運転センターが発行)」の資料となる交通事故発生報告書を作成し、警察署長に提出する。】

289頁

【物件事故から人身事故への切替え、当事者等の追加等、証明内容に変更があったときは、速やかに自動車安全運転センター事務所に連絡すること。】

 

加藤隆義「交通捜査のあれこれ 第5回自転車による事故における重過失の考え方」捜査研究2023年10月号(877号)