load

薬院法律事務所

刑事弁護

令和6年施行刑法改正における執行猶予中の犯行と前科の扱い(chatGPT4.5作成)


2025年07月20日刑事弁護

令和6年施行刑法改正における執行猶予中の犯行と前科の扱い

改正前:執行猶予期間中の再犯と前科消滅の関係

改正前の刑法では、執行猶予付き判決を受けた者が執行猶予期間中に新たな罪を犯した場合でも、その新たな事件の有罪判決が確定する前に元の執行猶予期間が満了すれば、元の執行猶予は取り消されませんでした。刑法第27条(改正前)は、「刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う」と定めており、執行猶予期間が無事に満了すればその刑の言い渡しの効力(刑の執行を受ける効力)は消滅します。したがって、執行猶予期間内に罪を犯して起訴されても、判決確定までに猶予期間が終われば前の刑は執行されず、新たな事件の刑だけを受ける結果になっていました。このように、改正前は起訴された時期よりも有罪判決が確定した時期が重要で、確定が猶予満了後なら前刑の執行は免れる仕組みだったのです。

なお、「刑の言渡しの効力が失われる」ことと「前科が消滅する」ことは厳密には異なります。執行猶予期間を満了すると法律上は刑の効力が消滅しますが、「刑罰を科せられた」という事実自体は消えないため、前科(有罪判決を受けた経歴)は残ります。つまり、執行猶予が付いた有罪判決は期間経過で刑の執行義務がなくなるだけで、前科そのものが帳消しになるわけではありません。ただし刑法上は執行猶予が取り消されず満了した場合、前の刑は形式的に「なかったもの(言渡しの効力を失ったもの)」とみなされるため、例えばその後5年以内の再犯であっても法技術上は「以前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」と同様に扱われ(前科による制限を受けない)ケースもあります。しかし警察・検察の実務では、執行猶予満了後であっても過去に有罪判決を受けていれば前科ありとして捜査・量刑判断の材料にされるのが実情です。

改正後:令和6年改正による新制度と前科への影響

令和6年施行の刑法改正(正式には令和7年6月1日施行)では、上記の「猶予期間が満了すれば前刑の執行を免れる」という仕組みにメスが入れられました。改正刑法27条に新設された規定により、執行猶予期間中に犯した罪(罰金刑以上に当たる罪)について猶予期間内に公訴提起(起訴)がなされた場合には、たとえ新たな罪の判決確定時に前刑の執行猶予期間が経過していても、一定期間「効力継続期間」として前刑の言渡し効力および執行猶予の効力が引き続き存続するとみなされます。簡単に言えば、執行猶予中の再犯について期間内に起訴されていれば、猶予期間が過ぎてしまっても前の執行猶予がなかったこと(効力消滅)にならず、前の刑を執行できる可能性が生じるということです。これにより、従来可能だった「執行猶予期間が終わるまで裁判を引き延ばして前刑の執行を逃れる」という手法(俗に「弁当切り」と呼ばれていました)が難しくなったと評価されています。

改正後の具体的運用としては、新たな罪について起訴が執行猶予期間内に行われた場合、前刑の猶予期間は形式上延長されたものとみなされます。その上で、新たな罪の裁判結果に応じて以下のように扱われます:

  • 新たな罪で拘禁刑(旧懲役・禁錮に相当)以上の実刑判決が言い渡された場合は、原則として前刑の執行猶予を取り消し、前刑の刑も執行しなければなりません。ただし新たな罪の性質が特殊で、前刑の猶予期間経過後に犯した別の罪と併せて裁かれたような場合で情状により相当でない時は例外も認められます(改正刑法27条4項ただし書)。基本的には執行猶予中の再犯で実刑となれば、前の執行猶予も取り消され両方の刑が執行されることになります。
  • 新たな罪で罰金刑に処せられた場合は、裁判所の裁量で前刑の執行猶予を取り消すことができます(任意的取消し)。つまり再犯が罰金刑程度であれば、前刑についても刑務所に入れるべきかどうかを判断して取り消すことが可能です(必ずしも取り消さなければならないわけではありません)。
  • 新たな罪でも執行猶予付き判決(再度の執行猶予)が付された場合は、前刑の執行猶予は取り消されません。改正法では再度の執行猶予の要件緩和(例えば前刑が執行猶予付きでも新たに2年以下の刑まで猶予可能に拡大)が同時に行われたため、情状次第では前刑・新刑ともに執行猶予とする運用も可能になっています。改正刑法27条3項では、効力継続期間中であっても判決言渡し時点で前の猶予期間が満了していれば、前刑の言渡しは効力を失ったものとみなす旨が定められています。そのため裁判の時点で前の猶予期間が過ぎていれば、新たな罪に対する猶予は形式上「初めての執行猶予」として扱われ、宣告刑が2年を超えていても執行猶予を付すことが可能になります。このように改正法は、前刑の取消しによる不利益と再度の執行猶予による更生機会とをバランスさせる配慮も行っています。

一方、改正後でも起訴のタイミングが重要である点は変わりません。改正法の規定上、「猶予期間内に犯した罪について起訴されているとき」に効力継続期間が生じるとされています。したがって、もし執行猶予期間中の犯行であっても「起訴が猶予期間満了後になされた場合」には、この効力継続制度は適用されません。立法過程でも「猶予期間内に罪を犯し、その罪について猶予期間内に起訴された場合」に初めて改正規定を適用する旨が明示されており、実務上も起訴時点が猶予期間を過ぎていれば前刑の効力は従前どおり期間満了時に失われたものとして扱われます。つまり、起訴時点で既に執行猶予期間が終わっていた場合には、前の有罪判決は法律上効力を失っており(刑の言渡しの効力消滅)、執行猶予取消しの対象にはならないということです。改正後の制度はあくまで「猶予中に起訴されること」をトリガーとしており、起訴が間に合わなければ元の前科は法的には消滅したままとなります(※前科という事実自体は残存しますが、前刑を執行させることはできません)。

実務上の運用・解釈と今後の取扱い

この改正は、俗に「弁当切り」と呼ばれた手法(猶予期間満了まで第二の事件の裁判確定を遅らせる弁護戦術)への対策として実施された経緯があります。改正により判決確定を猶予期間経過後にずらすだけでは前刑の執行逃れができなくなったため、「弁当切り」を狙った防御活動はもはや意味をなさないと指摘されています。実務では、検察官は改正前以上に執行猶予中の被告人の再犯を把握した場合に迅速に起訴手続きを進めることが予想されます。警察庁・法務省からも改正法の趣旨が各機関に周知されており、起訴の遅れによって執行猶予取消しを逃すケースを減らす運用が図られています。実際、改正に伴い「執行猶予切れ(猶予期間満了)を待つことができなくなった」ことが重要なポイントであり、弁護人も依頼者に正確に情報提供すべきだと注意喚起する声もあります。

もっとも、起訴が猶予期間に間に合わなかった場合まで前刑を遡って執行させることまでは制度化されていないため、発見・起訴が遅れたケースでは引き続き前刑の執行免除(効力消滅)が適用されます。極端に猶予期間末期に犯した犯罪が期間経過後に発覚したような場合には、改正後も結果的に前刑の執行を免れる可能性はゼロではありません。しかし、従来のように意図的に裁判を引き延ばす戦略は封じられたため、再犯抑止の効果は高まると期待されています。実務家からも「改正により執行猶予取消しが容易になった点は妥当であり、むしろ緩和された再度の執行猶予制度を活用して更生に努めるべきだ」という意見が出されています。

改正後の執行猶予取消し率についても、上昇が見込まれています。現行法下では執行猶予付き判決の約10%前後が取り消されていましたが、改正により猶予期間中の再犯で前刑が取消されるケースは以前より増える可能性があります。もっとも一方で、前述のとおり再度の執行猶予が認められる範囲も拡大しているため、初犯に近い扱いで更生のチャンスが与えられる事例も増えると考えられます。裁判所・検察実務では、改正法の趣旨に照らし前刑取消しによる処遇強化と、更生機会付与との双方を勘案した運用がなされると予想されます。法務省も改正法施行に際し通達等で運用方針を示しており(例えば起訴猶予の判断や保護観察の活用等)※、今後蓄積される判例や運用事例から細部の解釈が明確になっていくでしょう。

(※現時点で本改正施行直後であり、具体的な判例は未だありません。法務省や最高検察庁は改正の趣旨を踏まえた内部通知を発出しているものの、詳細な運用は今後のケースにより固まっていくものと思われます。)

まとめ:起訴時点で猶予満了の場合の前科の扱い

以上を踏まえると、令和6年改正後の制度でも「起訴時点で執行猶予期間が満了していた場合」には、原則としてその前刑の執行猶予は取り消されません。改正法の適用条件である「猶予期間内の起訴」に該当しないためであり、この場合前刑の言い渡しは既に効力を失っている扱いとなります。したがって執行猶予中の犯行であっても、起訴が猶予期間終了後になされたときは前科(前刑)の効力は法律上消滅したままで、前刑が復活することはないのが原則です。その新たな犯罪については通常どおり起訴・処罰されますが、前の猶予付き有罪判決は「執行猶予が取り消されることなく満了した判決」として扱われ続けます。

もっとも、前科そのものの事実は記録に残りますので、量刑上は前歴として考慮され得ますし、再犯時の身柄拘束や保釈判断など実務上も「前に猶予付きとはいえ有罪歴がある」ことは無視できません。また起訴時点で猶予満了だった場合でも、新たな犯罪の判決言渡し時には前刑の猶予期間が終わっていることになるため、その再犯に対して執行猶予を付す際には法律上「初回の執行猶予」とみなされる点に留意が必要です。つまり起訴が遅れたケースでは、裁判官は被告人を再度の執行猶予ではなく初回の執行猶予として扱えるため、宣告刑が2年を超えていても猶予を付けることが可能となります。このように改正後は起訴の時期によって前科の法的扱い(執行猶予取消しの可否や猶予付与の条件)が変わります。結論として、改正法下では起訴が猶予期間内に行われた場合に前科(前刑)の効力が消滅せず取消し得るものの、起訴時点で期間満了後であれば従来どおり前刑は消滅しており取消し不能という扱いが明確になったといえるでしょう。この改正により執行猶予制度の運用は厳格化しましたが、同時に再度の執行猶予による更生支援の道も広がっており、今後はこれらを踏まえた柔軟かつ厳正な実務運用が期待されます。

参考法令:改正前刑法27条、改正後刑法27条2項・4項・5項など; 刑法25条2項(再度の執行猶予要件); 刑法27条(猶予期間経過の効果).

参考文献・資料

  • 刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)概要
  • 法務省 法制審議会 資料「刑の執行猶予期間経過の効果に関する規定の新設」
  • 松村法律事務所コラム「執行猶予期間満了後の刑執行(執行猶予取消)の制度の導入」
  • デイライト法律事務所「執行猶予とは?(改正前後の比較解説)」
  • ルミナス法律事務所「執行猶予制度が変わります」(弁当切り対策の解説)
  • ダーウィン法律事務所コラム「執行猶予に関する法改正について」
  • 岡山弁護士会 肥田法律事務所「刑法改正ポイント(執行猶予切れ防止)」
  • ベリーベスト法律事務所コラム「執行猶予期間経過と前科消滅」など.