令和7年6月1日施行の再度の執行猶予に関する要件緩和を踏まえた弁護活動(ChatGPT4.5作成)
2025年05月01日刑事弁護
再犯者にももう一度チャンスが!~2025年執行猶予制度の改正ポイント~
2025年6月1日から、刑法の執行猶予(しっこうゆうよ)制度に大きな改正が施行されます。今回の改正では、「再度の執行猶予」(=二度目の執行猶予)がこれまでよりも付与しやすくなります。難しい法律用語が出てきますが、噛み砕いて言えば「一度目のチャンスの後にもう一度だけ、更生のチャンスを与えよう」という方向へのルール変更です。なぜそんな改正が行われるのか、そして私たち一般市民にどんな意味があるのか、ややカジュアルな語調で分かりやすく解説します。
執行猶予って何? まずは基本をおさらい
「執行猶予」とは、犯罪の有罪判決を受けても一定の条件付きで刑務所に行くのを猶予してもらえる制度です。たとえば懲役○年という判決が出ても、「執行猶予○年」と付け加えられれば、その猶予期間中は刑務所に行かずに社会で生活できます。ただし、猶予期間中に再び罪を犯さず無事に過ごせば刑の執行が免除されますが、期間中にまた犯罪をしてしまうと原則として猶予が取り消され、最初の刑も含めて服役しなければならなくなるという厳しい条件付きです。
執行猶予は、刑務所に入ることのデメリットを避けつつ、いつでも収容される可能性があるというプレッシャーをかけることで、社会の中で本人の自主的な改善更生・再犯防止を図るという刑事政策上の重要な意義があります。簡単に言えば、「すぐには刑務所に入れない代わりに、次また悪いことをしたら収容されるかもしれないぞ」という条件で、社会内で更生のチャンスを与える制度なのです。また場合によっては、執行猶予中の人に保護観察(ほごかんさつ)を付けることもできます。保護観察とは、保護観察官や保護司といった専門家が定期的に面談・指導を行い、生活や更生をサポートする仕組みです。若い人や再犯リスクが高い人の場合、執行猶予に保護観察を付けて見守りを強化することで、立ち直りを助けようとするわけです。
改正の背景と目的:更生重視・再犯防止の流れ
近年、犯罪者の改善更生や再犯防止を重視する流れが強まっています。刑罰は「罰を与えて終わり」ではなく、罪を犯した人が二度と犯罪をしないよう立ち直らせることが大切だという考え方です。実際、2016年(平成28年)には「再犯の防止等の推進に関する法律」という法律が制定され、国を挙げて出所者や保護観察中の人の再犯防止支援に取り組む姿勢が示されました。刑務所内での改善プログラムの充実、出所後の就労支援、保護観察制度の強化など、さまざまな施策が進められています。
こうした中で、「社会の中で更生させる」ための制度である執行猶予についても見直しが行われました。特に注目されたのが再度の執行猶予です。従来、執行猶予中に再犯してしまった場合、よほど特別な事情がない限りはもう一度チャンスを与えることはできず、刑務所行きが避けられませんでした。しかし、「場合によっては二度目のチャンスを与えた方が本人の更生や社会復帰に役立つのではないか」「社会内で更生を続けさせた方が再犯防止に適切なケースもあるのではないか」という声が専門家の間で高まってきたのです。短期間の服役よりも、引き続き社会で生活しながら指導や支援を受けた方が、更生に効果的なこともあります。そこで今回の法改正では、この**「二度目のチャンス」**の要件を緩和し、適用できる範囲を広げることになりました 。
改正内容の具体的ポイント:再度の執行猶予の要件緩和
それでは具体的に、刑法25条2項(執行猶予の再度付与に関する規定)がどのように変わるのか、ポイントを見てみましょう。
- 対象となる刑の長さ(刑期)の上限引き上げ:これまでは、執行猶予中に罪を犯した場合に再度執行猶予を付与できるのは「新たな刑が懲役もしくは禁錮で1年以下」の場合に限られていました 。しかし改正により、この上限が**「懲役・禁錮2年以下」**まで引き上げられます。つまり、今後は2年までの刑であれば再度の執行猶予を検討できるようになります。1年を超える刑はこれまで対象外だったので、この変更で対象事件がかなり広がると期待されています。
- 保護観察付き執行猶予中の再犯でも再度猶予OKに:現行法では、一度目の執行猶予で保護観察が付けられている人(専門家の監督下に置かれていた人)が、その執行猶予期間中に再犯を犯した場合、絶対に二度目の執行猶予は付けられないと定められていました。ところが改正後は、初回の執行猶予に保護観察が付いていたケースでも再度の執行猶予を与えることが可能になります。保護観察付き執行猶予中の再犯者にも例外的にもう一度チャンスを与えられるようになるわけです。
- (注)再度執行猶予には保護観察が必ず付く:なお、法律上再度の執行猶予が認められる場合には、必ず保護観察が付くことになっています 。二度目のチャンスを与える以上、専門的な指導・監督を強化して再犯防止を図るためです。したがって改正後も、もし再度の執行猶予が言い渡されたら、本人は保護観察官らの指導の下で厳重なチェックを受けながら生活することになります。
今回の改正によって、「再度の執行猶予」を言い渡せるケースが大幅に広がることになります。言い換えれば、裁判所としては**「それでも今回は刑務所ではなく社会内で更生させた方が良い」と判断できる選択肢が増える**ということです。これまでであれば規定上できなかった再度の猶予付き判決も、改正後は可能となります。ただし、再度の執行猶予を与えるためには法律上「情状に特に酌量すべきものがあるとき」、つまり通常よりも特に考慮すべき事情がある場合に限るという要件自体は残っています。あくまで例外的な措置であり、「二回までなら何をしても執行猶予がもらえる」というものではない点には注意が必要です。
現行制度の課題:再度の執行猶予がなぜ滅多に認められなかったか
そもそも、どうしてこのような改正が必要とされたのでしょうか?背景には現行制度の運用上の課題がありました。
第一に、要件が厳しすぎて適用できるケースがほとんどなかったことです。執行猶予中に再犯してしまう人は一定数いますが、その再犯に対する刑が「1年以下の懲役・禁錮」に収まることは実務上かなり少なくなっていました。昨今の量刑(刑の重さ)の傾向として、再犯には厳しめの刑が科されることが多く、初犯なら執行猶予付き判決になるような事案でも、再犯となると実刑(一度も猶予が付かない刑務所行き)になりがちです。その結果、「法律上は再度の執行猶予という制度があっても適用要件を満たすケースがほぼ無い」という状態に陥っていました。せっかく「改善の余地が大きいなら二度目も執行猶予にできる」という規定があっても、現実には絵に描いた餅だったのです。
第二に、保護観察付き執行猶予者への扱いのジレンマです。先述の通り、改正前の法律では「一度目で保護観察を付けられた人」が再犯した場合は再度の執行猶予が絶対に許されません。ところがこのルールがあるために、「もしまた犯罪をしたときに猶予を与えられなくなるくらいなら、最初の判決では保護観察を付けずにおこう」と裁判官が考えてしまう傾向が指摘されていました。保護観察自体は本来、本人の更生を助け再犯を防ぐために有益な制度です。それにもかかわらず、「保護観察を付けると万が一再犯したときに融通が利かない」という理由で、裁判所が保護観察付き執行猶予の活用をためらってしまうケースがあったのです 。実際、統計でも執行猶予判決を受けた人の中で保護観察まで付けられる人はごく一部でした(令和2年のデータで、執行猶予が付された29,734人中、保護観察付きは2,052人だけでした 。この数字からも、裁判所が保護観察付き執行猶予の適用に慎重だった様子がうかがえます。
以上のような課題を解決し、「社会内処遇」を適切に活用して再犯防止につなげるために行われたのが今回の改正と言えます。要件を緩和することで、「刑務所に入れなくても更生できそうなケース」では引き続き社会での更生機会を与え、逆に保護観察制度も積極的に使っていこうという狙いがあるのです 。
改正後の弁護活動はどう変わる?~弁護士の視点から~
法律が変われば、裁判での弁護人の戦略や主張も変化します。今回の改正によって再度の執行猶予が現実的な選択肢となることで、弁護活動にもいくつかの新たな方向性が考えられます。
まず、社会内処遇を積極的に主張する弁護戦略が重要になります。改正後は「再犯してしまったけれどもう一度執行猶予を与えて更生の機会をください」という主張が法的に可能になります。弁護士としては、依頼者(被告人)が再度の執行猶予を得られるよう、**「情状に特に酌量すべき事情」**をしっかり示す必要があります。具体的には、犯行に至った経緯に同情すべき事情があることや、被害者と和解していること、再犯防止のための環境が整っていること(家族の支援や就職先の確保、薬物犯罪なら治療プログラム受講など)を丁寧に主張していくでしょう。また、執行猶予中の生活プランもしっかり提示します。どこで働き、誰と暮らし、どのように更生に努めるかといった青写真を示し、「刑務所に入れなくても更生できる」という説得力を持たせるのです。
さらに、保護観察の活用提案も弁護人の重要な役割になります。二度目の執行猶予には必ず保護観察が付くため、弁護士は保護観察所や地域の更生保護サポート機関と連携し、依頼者が適切な指導・監督を受けられるよう手配するでしょう。例えば、薬物依存が背景にあるケースでは保護観察中にリハビリプログラムを受けられるよう提案したり、窃盗癖がある人なら生活改善のためのカウンセリングに繋げたりといった工夫が考えられます。社会内で更生するための受け皿づくりを弁護士自らサポートする場面も増えるかもしれません。
加えて、依頼者本人への意識づけと支援も欠かせません。二度目の執行猶予を勝ち取れたとしても、それは「これが最後のチャンス」という猶予です。弁護士は依頼者に対し、「今回執行猶予になっても次はもうないと思って頑張りましょう」と強く説諭するでしょう。ただ裁判で勝つだけでなく、その後の更生まで見据えてサポートする姿勢が一層重要になります。場合によっては家族とも協力し、依頼者の生活態度の改善計画を立てたり、地域の更生保護団体につなげたりと、チームで再犯防止に取り組むことも考えられます。
一般市民にとっての意義と影響:社会復帰のチャンスを支えるために
今回の執行猶予制度の改正は、一般市民にとってどんな意味があるのでしょうか。
ひとつは、犯罪をした人への社会の関わり方が変わっていくという点です。再犯者にももう一度のチャンスを与えるというのは、「失敗した人をすぐに見放すのではなく、更生を見守り支える社会」へのシフトとも言えます。もちろん犯罪は許されないことですが、そこで人生が終わりではなく、立ち直る機会を設けることで、結果的に**新たな被害者を生まないようにする(再犯防止)**効果が期待できます。私たち一般市民にとっても、犯罪をした人が二度と罪を犯さずに社会の一員として更生してくれることは、安全で安心な社会につながります。改正により再度の執行猶予が活用されれば、刑務所に入って社会との繋がりが断たれるよりも、家族や地域の中で更生した方が再犯率が下がるケースでは特に、私たちの暮らす社会全体の利益となるでしょう。
また、家族の立場から見ても大きな意義があります。もし身近な家族が罪を犯してしまい執行猶予中に再び過ちを犯した場合、従来であればほとんど確実に実刑となって収容されていました。しかし改正後は、場合によっては家族と一緒に生活しながら更生を目指せる可能性が生まれます。家族としては、二度と裏切らないでほしいという思いで本人を支え、社会復帰に協力できるでしょう。「もうチャンスはないんだ」という覚悟を本人と共有しつつ、更生の手助けをすることができます。具体的には、生活リズムを整える手伝いをしたり、交友関係に気を配ったり、一緒に更生プログラムに参加したりといったサポートが考えられます。周囲の支えがあるかないかは、再犯防止に大きな影響を与えます。制度が整っても、最終的に本人を更生させるのは社会や家族の温かなサポートであることを忘れてはいけません。
最後に、誤解してはいけないポイントも押さえておきましょう。再度の執行猶予の要件緩和とはいえ、何度も好き放題に犯罪が許されるという話では決してありません。あくまで「特別に酌量すべき事情」がある場合の例外措置です 。裁判所も慎重に判断しますし、二度目の執行猶予が与えられるのは相当な理由があるケースに限られます。例えば被害者の強い嘆願や示談成立、本人の病気治療による改善見込みなど、相当の事情が必要です。それでも再犯してしまった場合には、今度こそ刑務所で刑に服することになります。一般市民としては、「もう一度チャンスを与える」と「甘やかす」は違うという点を理解しつつ、更生しようとする人を社会で支える大切さを認識することが重要です。
おわりに
令和7年6月施行の刑法改正によって、執行猶予制度は新たな段階に入ります。犯罪をした人への接し方として、**「必要以上に厳罰に処すよりも、社会の中で更生させることで再犯を防ごう」**という考えが色濃く反映された改正と言えるでしょう。これからは裁判で「再度の執行猶予」が言い渡される事例も増えるかもしれません。私たち社会全体で、過ちからの立ち直りを応援し、再犯を防止する仕組みを育んでいくことが大切です。そのためにも本制度の趣旨を正しく理解し、周囲の更生を温かく見守る寛容さと、再犯には厳正に対処する毅然さの両方を持った社会でありたいですね。
刑法
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045
現行法(令和7年5月1日現在)
(刑の全部の執行猶予)
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
令和7年6月1日施行
(刑の全部の執行猶予)
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者
二 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者
2 前に拘禁刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が二年以下の拘禁刑の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、この項本文の規定により刑の全部の執行を猶予されて、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。