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薬院法律事務所

企業法務

仮執行宣言付判決による強制執行にも、執行文付与の申立が必要なことについて


2021年10月19日企業法務

民事執行法25条により、仮執行宣言付の判決により強制執行するためには執行文の付与が必要となっています。

https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004

(強制執行の実施)
第二十五条 強制執行は、執行文の付された債務名義の正本に基づいて実施する。ただし、少額訴訟における確定判決又は仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決若しくは支払督促により、これに表示された当事者に対し、又はその者のためにする強制執行は、その正本に基づいて実施する。

 

仮執行宣言付判決に執行文の付与が必要ということが、法律上そうなっていることはわかりますが、実はいまいち理解できていませんでした。送達証明書も提出させるわけですし、意味があるのかと。実は、以前より不要でないかという指摘があっていたようです。最後に引用する文献に詳しく書いています。そもそも「単純執行文」自体不要ではないかということでした。

 

 

鈴木忠一・三日月章編『注解 民事執行法(1)序説・総則強制執行総則§§1~42』(第一法規出版,1984年9月)439頁
【〔二〕執行文の必要
(-)原則前述のように,債務名義作成機関と執行機関とが分離していること及び債務名義の成立から必ずしも直ちに執行力を生じないこと(例えば,執行力の発生は,判決においてはその確定に係り,和解調書において執行が条件の履行に係っている場合には条件の成就に係る。)から,原則として債務名義には執行文の付記が必要とされる。従って,確定の給付判決ののみならず,仮執行宣言付給付判決,執行判決(24),執行証書(226)のように執行できる旨の宣言ないし合意を包含するものでも, これ11)を要する。】

 

 

石川明ほか編『注解民事執行法[上巻] 1条~111条』(青林書院,1991年1月)233頁
【(2)執行文の付与を必要とする債務名義
22条は、債務名義とされる各種の公証文言を掲げているが、これらのうち、仮執行宣言付支払命令(同条4号)以外のものは、仮執行宣言付判決、執行証言、執行判決などのように当該債務名義に基づいて強制執行を行うことができることが明らかにされているものでも、すべてそれらの正本に執行文を付与されなければ、これによって強制執行を行うことができない】

 

 

裁判所書記官研修所編『執行文に関する書記官事務の研究-上巻-』(司法協会,1992年3月)22頁
【3 単純執行文の必要性
執行文の機能は上述したところであるが,制度としての単純執行文の必要性については,いくつかの疑問が提起されている。もちろん, これらはいずれも立法論である。しかしながら,執行文付与の事務に従事する者としては, このような否定的な見解を等閑視することはできない。
もっとも古いところでは,大正4年に発行された次の文献がある。「執行文の制度たるや中古の立法を承継せるものにして・・・今立法論として之を考究すれば執行機関の職務を採る者の学力経験の発達せる現時に在りては執行文の制度の如きは之を廃するも敢えて不都合を生ずることなかるべく又之を廃するときは執行文付与の手続執行文付与に対する異議等を省くに至るを以て実際上簡便なるを得るの利益を観るべきなり」15)。現在では,主任書記官クラスの書記官事務経験者を執行官に任用しているが, このような運用の下では,かえって執行機関の方が執行の要件を自ら調査するに適しているといえなくもない。
次に,我が国における民事訴訟法学の確立者ともいうべき兼子一教授は,昭和26年発行の「増補強制執行法」において,次のように述べている。「立法論としては,判決の確定のような要件は判決確定証明書(民訴499条1項)を提出させることとすれば,執行機関でも容易に認定できるから,特別の場合を除いては,執行文の付与を省略することも一理あろう」16)。調査資料の所在という観点を含めて単純執行文の制度的必要性に疑問を呈したものといえるであろう。
さらに,昭和49年に発行された実務家の著書においても,立法論として不要であるとの見解が表明されている。「もっとも,給付義務の存在が無条件であって,債務名義に記載された当事者間で執行が問題となる場合で,仮執行宣言付判決,仮執行宣言付支払命令,和解・調停調書,公正証書を債務名義とする場合を考えると,執行力の存在は債務名義の記載自体から明らかなはずであるから,執行文を重ねる意味はないように思われる。仮執行宣言付支払命令については執行当事者の承継の場合を除き執行文を要しない旨の明文の定めがあるが(民訴旧561 1 ,法25但),他の場合も立法論としては,執行文を要しないと改めてもよいと思う」17)。
民執法の立案担当者自身はこの点に関して次のように語っている。「執行文自体の存否と申しますか, これを存置すべきかどうかという議論も審議会でありましたが,基本的にこれを廃止してしまうまでのデメリットがあるわけではございませんし,たとえばオーストリー法のように執行文のない制度もありますが,それだってやはり判決の確定証明書をつけなければならないということになるわけで,名前にこだわることはないということから,執行文の制度は現行法のまま存置することにいたしました」18)。
立法論としては, これ以外にも疑問がないわけではない。例えば,執行文は債務名義成立後の一定時点の執行力の有無及び内容を調査し証明するものでありながら,その執行文に有効期間が定められていないのはなぜなのか。仮執行宣言付判決に執行文が必要とされ,乙類審判事項に関する家事調停調書に執行文が不要とされる実質的根拠はどこにあるのか。これらは, この研究を通じて常に念頭にあった疑問であるが,解明することはできなかった。執行文付与の実務としては,問題となる個々の場面に当たって,存在する制度をより有用なものとする解釈・運用を要求されているというべきではなかろうか。】