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薬院法律事務所

刑事弁護

信号無視で横断歩道上の歩行者をはねてしまった場合の対応と危険運転致死傷罪との境界線(ChatGPT4.5作成)


2025年06月10日刑事弁護

信号無視で横断歩道上の歩行者をはねてしまった場合の対応と危険運転致死傷罪との境界線

横断歩道の歩行者を赤信号無視でひいてしまったら、危険運転致死傷罪になるのでしょうか?事故直後は頭が真っ白になり、今後の処分や対処に不安を感じるでしょう。信号無視による交通事故で歩行者を負傷・死亡させてしまったドライバーの方に向けて、本記事では弁護士の視点から適用される法律や実務上の対応策をわかりやすく解説します。特に、単なる過失による事故と危険運転致死傷罪(きけんうんてんちししょうざい)の境界線について詳しく説明し、適切な対応を促します。

信号無視事故に適用される法律:過失運転致死傷罪とは?

まず、信号無視自体は道路交通法違反です。青信号を守らずに交差点に進入する行為は交通反則切符の対象であり、反則金や違反点数の付与(信号無視は基礎点数2点)となります。しかし人身事故(けが人や死者が出る事故)を起こした場合、単なる交通違反では済まず刑事事件として扱われます。一般的には、ドライバーの不注意による事故であれば過失運転致死傷罪が適用されます。

過失運転致死傷罪(かしつうんてんちししょうざい)とは、自動車の運転上必要な注意を怠り(前方不注意や信号無視など)人を死傷させてしまった場合に成立する犯罪です。例えば「前方をよく確認しなかった」「赤信号に気付かず進入した」等の過失で事故を起こすと、この罪に問われる可能性があります。法定刑は7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金で、初犯であれば執行猶予が付くケースも多い罪名です。

ポイントは、過失運転致死傷罪はあくまで「不注意」による事故であり、運転者に悪質な故意(わざと信号を無視した等)がない場合に適用されるということです。信号無視で事故を起こしたからといって直ちに「危険運転致死傷罪」になるわけではなく、その行為態様の悪質さが罪名を分けるのです(「信号無視 危険運転致死傷 違い」という点が重要です)。

危険運転致死傷罪とは?信号無視型の3つのパターン

一方で、事故状況によっては危険運転致死傷罪(きけんうんてんちししょうざい)が適用され、より重い罰則に問われる可能性があります。危険運転致死傷罪とは、飲酒運転や極端なスピード超過など重大な危険を生む運転によって人を死傷させた場合に成立する犯罪です。信号無視もその典型例の一つで、法律上**「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更(ことさら)に無視し、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転した場合」**に危険運転致死傷罪が成立すると規定されています。

では、「殊更に無視」とは具体的にどんな運転でしょうか?実務上、信号無視の危険運転致死傷には次の3つの類型があると考えられています。

① 赤信号と知りつつ敢えて無視したケース(殊更無視)

最も典型的なのが、赤信号であると明確に認識していながら停止せず交差点に進入したケースです。例えば「赤信号だけど急いでいるから突っ切った」「誰もいないから大丈夫だろうと分かっていて進んだ」など、意図的に信号を無視した場合です。法律用語で「殊更に無視」とはまさにこの意味で、対向する信号が赤(またはそれに相当する停止信号)であることを認識しながらあえて従わない行為を指します。

このような明確な故意による信号無視は、危険運転致死傷罪に該当する可能性が高いです。当然ながら重大な交通違反であり、横断歩道の歩行者に気付いていながら無視したような場合は極めて悪質と判断されます。実務上も、ドライブレコーダーや目撃証言等から「運転者が赤信号を確実に認識していた」ことが裏付けられれば、警察・検察は危険運転致死傷罪での立件を強く検討します。

罰則面の違い: 危険運転致死傷罪が適用されると、負傷事故でも15年以下の懲役、死亡事故なら1年以上20年以下の拘禁刑過失運転致死傷罪より格段に重い刑罰が科され得ます(過失致死傷は上限7年・罰金刑あり)。特に死亡事故では最低でも1年の実刑が法定されており、執行猶予付き判決の可能性が低くなります。このように刑事処分が大きく変わるため、「信号無視 危険運転致死傷 違い」を理解することが非常に重要です。

② 極端に早い発進による信号無視

二つ目のパターンは、信号がまだ赤のうちに発進してしまうケースです。例えば、交差点で赤信号で停止中に「そろそろ青になるだろう」とフライング気味に発進したり、歩行者用信号が赤になったのを見て自分の信号が青になる前に動き出したような場合です。ドライバーの心理として先を急ぐあまり極端に早く発進してしまうことがありますが、結果的にそれは自分の信号が赤である時間帯に進行したことになり、意図的な信号無視と評価されかねません。

極端に早い発進で横断中の歩行者をはねてしまった場合も、基本的には先述の「殊更無視」と同様に扱われます。つまり、赤信号を無視して交差点に進入した事実に変わりはないため、危険運転致死傷罪が検討されることになります。運転者としては「青になると勘違いした」「発進のタイミングを誤った」と主張したくなるところですが、客観的に見て信号の切替前であれば故意に近い重大な過失とみなされる可能性が高いです。警察もドライブレコーダー映像などから発進のタイミングを分析し、「青になる前に明らかに動き出している」場合には厳正に対処してきます。

実務上の傾向: こうしたケースでは、運転者の供述がポイントになります。「青になるのを待ちきれず発進した」といった供述があれば故意が明白ですし、たとえ「青になったと思った」と主張しても周囲の状況や信号機の記録から不自然であれば信用されません。結果として、意図的な信号無視と同等に扱われ危険運転致死傷罪が成立することもあり得ます。

③ 信号の見落とし(著しい注意欠如)のケース

三つ目のパターンは、運転者が赤信号に気付かず進入してしまったケースです。いわゆる「赤信号の看過(かんか、見落とし)」ですが、これ自体は運転上の不注意による過失と考えられるため、通常は過失運転致死傷罪にとどまります。「信号に気付かなかった」「前方をよく見ていなかった」といった状況は典型的な過失事故であり、この場合罪名は過失運転致死傷罪となり道路交通法違反(信号無視)も付加されるだけです。

しかし、見落とし方があまりにも酷い場合(注意義務を著しく欠いた場合)は注意が必要です。具体的には、「全く信号の色を気にせず、赤信号だろうが構わず交差点に入ってしまったような場合」には、形式上は「気付かなかった」場合でも実質的には『殊更に無視した』とみなされることがあります。たとえばパトカーに追われて逃走中に信号無視を繰り返すようなケースでは、たとえ本人は「信号を見ていない(=認識していない)」と言い張っても、それは信号無視そのものを意図している状況と評価されます。

とはいえ、通常の交通場面で「見落としただけ」の場合、そこに明確な意図を読み取るのは簡単ではありません。実務上も、運転者が「赤信号とは知らなかった」と供述し、状況的にも見落としてしまった可能性が高い事故では、危険運転致死傷罪の適用は見送られる傾向にあります。「赤信号 看過 罪名」を判断するポイントは、見落としが単なる不注意の範囲か、それとも信号を無視すると同視できるレベルの重大な過失かという点です。

まとめると、信号無視型の危険運転致死傷罪は**「赤信号であると認識した上で敢えて無視する」ような悪質性が要求されます。ドライバーに明確な故意・悪質性が認められない場合(単なる見落としや判断ミスの場合)には過失犯(過失運転致死傷罪)**として扱われるのが原則です。この境界線を具体的事例でさらに見てみましょう。

危険運転致死傷罪になるか?境界線の見極めポイント

過失事故と危険運転致死傷罪の境界線を判断する際、警察・検察や裁判所は以下のようなポイントを総合的に考慮します。

  • 事故の態様(どういう状況で起きたか): 事故現場の状況や衝突の態様から、運転者の信号無視の程度を推測します。例えば減速の様子が全くないまま高速で交差点に突っ込んでいれば、「信号を全く見ていない/無視している」と判断されやすいでしょう。一方、急ブレーキの跡がある場合は「気付いてブレーキを踏んだけど間に合わなかった(見落とし)」可能性がうかがえます。このように衝突時の速度やブレーキの痕跡は、故意の有無を推測する材料となります。
  • 信号機の位置関係・見えやすさ: 信号の設置場所や視認性も考慮されます。見通しの良い直線道路で信号無視事故を起こした場合、見落としの弁解は通りにくく「注意義務違反が著しい」と見做されるかもしれません。一方、信号機が木陰に隠れていた、夕日に紛れて見えづらかった、複雑な交差点で別の信号と誤認した等の事情があれば、運転者の過失の程度は相対的に小さく評価されます。「信号に気付きにくい状況だったか否か」は過失と故意の境目を探る重要な要素です。
  • 運転者の認識・供述: 事故後の運転者の供述内容も大きな判断材料です。例えば「赤信号だと分かっていたが行けると思った」と明言すれば故意(殊更無視)を自白したに等しく、危険運転致死傷罪が適用される可能性が高まります。一方、「信号が変わっているのに気付かなかった」「黄だと思った」など過失を示唆する供述であれば、直ちに危険運転とはされません。ただし供述がコロコロ変わる場合は信用性が疑われ、却って不利になります。初動対応として、警察への供述は慎重に行う必要があります。
  • 客観的証拠(ドラレコ映像等)との整合性: 近年はドライブレコーダー映像や防犯カメラ映像によって、信号無視の態様が詳細に解析されます。信号が赤に変わって何秒経過後に交差点進入したか、ブレーキランプは点灯したか、歩行者や他車の有無に対する反応はどうだったか――こうした客観証拠が運転者の供述の真実性を裏付けます。例えば「黄だと思った」と主張しても、映像で明らかに赤になって2秒後にノーブレーキで突入していれば故意を疑われます。逆に、一瞬の判断ミスで信号の変化に対応できなかっただけなら映像から汲み取れる場合もあります。映像証拠と整合する説明ができるかが境界線を左右します。

以上のような観点から、警察・検察は「これは単なる過失事故か、それとも危険運転にあたる悪質な行為か」を見極めています。一度危険運転致死傷罪で送致・起訴されれば先述のように厳罰が予想されるため、運転者としては境界線上のケースではできる限り過失として処理してもらう方向で動くことが重要です。

弁護士による対応策:過失事故として処理してもらうために

重大な信号無視事故を起こしてしまった場合、早期に交通刑事事件に詳しい弁護士に相談することを強くお勧めします。弁護士は、できる限り依頼者の行為が**「悪質な危険運転」ではなく「不注意による過失事故」にとどまる**ことを主張・立証するため、さまざまな活動を行います。その主なポイントをご紹介します。

  • ドラレコ解析等の客観証拠の精査: 弁護士は事故車や現場のドライブレコーダー映像、信号機のサイクル記録、ブレーキ痕の有無などを綿密に検証します。例えば映像から「信号が赤に変わった直後の進入」であることが読み取れれば、「急ブレーキしても間に合わなかった過失だ」と主張できるかもしれません。歩行者との位置関係から「直前まで歩行者に気付けない状況だった」ことを示すことで、故意の否定につなげることも考えられます。専門家の視点で有利な事実を発見・分析し、過失事故としての側面を強調します。
  • 供述内容の整理・修正: 事故直後にパニックのあまり不利な供述をしてしまった場合でも、弁護士が入ればその後の取調べで適切に事情を説明し直すことが可能です。「一度は『赤と知っていた』と言ってしまったが、それは動転して自分を責めるあまり誇張してしまった。本当は黄だと思っていたし、結果的に見落とした過失である」等、供述の修正・補強を図ります。ただし嘘の供述は逆効果なので厳禁ですが、事実の範囲で言い分を整理して伝えることで、悪質性の誤解を解く努力をします。
  • 情状証拠の収集・提出: 危険運転致死傷罪が適用されるか否か微妙なケースでは、運転者の普段の運転態度や事故後の反省状況も考慮材料となり得ます。弁護士は、依頼者が深く反省し再発防止に努めていることを示す情状証拠を集めます。具体的には被害者への誠実な謝罪や示談交渉の経緯、交通安全講習の受講証明、運転記録証明書(無事故無違反の履歴)などです。これらを揃え、「今回は一時的な判断ミスによるもので悪質な運転者ではない」という印象づけを図ります。
  • 捜査機関との交渉: 弁護士が付くことで、検察官との対話を通じた事案の見極めが期待できます。客観証拠と法理に基づき「本件は危険運転致死傷罪の要件を満たさない」と説得的に主張できれば、検察官が送致罪名(警察から送られた罪名)を過失運転致死傷に切り替える、あるいは危険運転致死傷で起訴せずに済む可能性も出てきます(※実際、2021年の統計では危険運転致死傷罪で送致後に罪名変更となったケースも一定数あります)。弁護士は依頼者に代わって適切な主張を行い、少しでも有利な罪名・処分となるよう働きかけます

このように、専門の弁護士によるサポートは**「過失か危険運転か」の微妙なケースで非常に心強い味方**となります。早期に相談することで証拠保全や適切な供述対応が可能になるため、事故を起こしてしまったら一刻も早く弁護士に助言を求めましょう。

ケーススタディ:具体的事例で見る罪名判断

最後に、信号無視による事故の典型的な場面について、それぞれどの罪に問われる可能性が高いかを確認しておきましょう(「歩行者 ひいた 危険運転になる?」と不安な方はご参考ください)。

  1. ケース① 赤信号を認識していたのに進行してしまった場合: 例えば「深夜で車も少ないからと赤信号を無視した」「急いでいて赤と知りつつ交差点に入った」といったケースです。この場合、危険運転致死傷罪に該当する可能性が極めて高いです。法律上も「赤信号と分かって敢えて無視した運転」は危険運転致死傷罪の典型例として明記されています。実際に被害者を死傷させた場合は厳しい処罰が予想され、逮捕・起訴も十分あり得ます。
  2. ケース② 赤信号に気付かず見落として進入してしまった場合: 例えば青信号と信じて交差点に入ったら実は赤だった、前方の標識に気を取られて信号を見逃してしまった、といったケースです。この場合、過失運転致死傷罪が適用されるのが通常です。運転者に「わざと無視した」という意思はなく、不注意による違反と評価されます。ただし見落としの程度が尋常ではなく「信号を全く見ていなかった」ような状況だと、危険運転致死傷罪を検討されるリスクもゼロではありません。基本的には過失事故として扱われますが、捜査段階で「本当は気付いていたのでは?」と疑われないよう、適切に事情を説明することが大切です。
  3. ケース③ 黄信号だと判断を誤って進入した場合: 交差点手前で信号が黄色に変わり、「まだ行ける」と思って進んだら実際は赤に変わっており事故になった――こうしたケースです。この場合も過失運転致死傷罪に問われる可能性が高いです。ドライバーは赤信号を無視しようとしたわけではなく、タイミングの判断ミスによる過失だからです。「もしかしたら赤になるかもしれないが、それならそれで構わない」と考えて突入した程度(法律用語で未必の故意といいます)の場合でも、「殊更に無視した」ことには当たらないと解釈されています。したがって、人身事故の刑事責任としては過失犯にとどまり、信号無視の違反も道路交通法による処罰(違反金・点数)で終わるのが通常です。ただし、このケースでも結果として人を死傷させている以上、刑事手続(取調べや送検)は避けられません。過失とはいえ重い責任を負う事態ですから、真摯に対応する必要があります。

以上のケーススタディから明らかなように、**「赤だと知っていたか?」「注意すれば防げたはずの見落としか?」**が罪名を左右するポイントになります。「赤信号無視で歩行者をはねたら即危険運転致死傷罪」というわけではなく、状況によって罪の重さが変わることを理解しておきましょう。

免許取消など行政処分への影響と並行対応の重要性

重大事故を起こした場合、刑事責任だけでなく運転免許に対する行政処分も免れません。信号無視による人身事故では違反点数と事故点数が加算され、前歴がなくても一定点数を超えれば免許停止や取消処分となります。

例えば、赤信号無視(基礎点数2点)で相手に中程度のケガ(15日以上30日未満の治療)を負わせたケースでは、「責任が重い」として事故の付加点数が6点科されます。合計8点となり、前歴がなければ30日の免許停止処分となる計算です。負傷程度が重くなれば付加点数も増え、被害者が死亡した場合は一気に付加点数14点が科されます。信号無視の2点と合わせ16点となり、**免許取消(欠格期間=一定期間再取得不可)**は避けられません。処分量定は過去の違反歴次第で変動しますが、死亡事故や重傷事故ではほぼ確実に免許取消相当と考えてよいでしょう。

このように行政処分は刑事手続とは別に進行します。交通違反や事故の点数計算によって自動的に処分が下されるため、たとえ刑事裁判で執行猶予が付いても免許取消だけは免れない、といった事態も起こり得ます。したがって、ドライバーにとっては行政処分への対応も並行して重要です。

具体的には、事故後しばらくして公安委員会から意見の聴取(聴聞会)の通知が来ます。この場で情状を述べることで処分期間の軽減が認められる可能性もゼロではありません(被害者と示談が成立している、違反状況に一定の酌むべき事情がある等)。弁護士に相談すれば、聴聞会への同行や主張すべきポイントのアドバイスも受けられます。また、仕事で車が必要な方の場合、取消処分を受けた後の取消処分者講習や欠格期間短縮の手続きについても情報提供を受けられるでしょう。

重要なのは、刑事弁護と行政手続を一貫して見据えた対応です。刑事事件としてはできるだけ早期に示談をまとめ反省を示すことで、結果的に聴聞での心証も良くなるといった相乗効果があります。逆に、行政処分を放置していると仕事や生活に直結する免許の問題で不利益を被ります。信号無視事故を起こしてしまったら、刑事処分と行政処分の両面に速やかに対処することが不可欠です。

まとめ:早めの相談で適切な対応を

信号無視による横断歩道上の事故は、被害結果が重大になりやすく、ドライバー本人にとっても極めて辛い出来事です。しかしその後の対応次第で、科される処分や社会的な結果には大きな差が生じます。悪質な危険運転とみなされるケースなのか、単なる過失事故なのか、適切に主張・立証できるかどうかが運命を分けると言っても過言ではありません。

繰り返しになりますが、事故直後から一人で悩まず交通事故に強い弁護士に早期相談することが肝要です。専門家のサポートにより、証拠の確保や警察・検察への対応策が講じられ、結果的に最善の結果に繋げられる可能性が高まります。被害者への誠意ある対応はもちろん大切ですが、ご自身の権利と将来を守るためにも法律の専門家の力を借りましょう。

不安なことや分からないことがあれば、遠慮なく弁護士に相談してください。適切な対応で、少しでも早い問題解決と再出発を目指しましょう。

 

【参考文献】

 

前田雅英ほか編『条解刑法〔第4版補訂版〕』(弘文堂,2023年3月)873頁

【19) 殊更に無視 故意の赤信号無視のうち, およそ赤信号に従う意思のないものをいう。赤信号であることについて確定的な認識があり,停止位置で停止することが十分可能であるにもかかわらず, これを無視して進行する行為がその典型である。信号の変わり際で,赤信号であることについて未必的な認識しかないときは「殊更に無視」に当たらない。しかし, およそ信号の規制自体に従うつもりがないため, その表示を意に介することなく、たとえ赤色信号であったとしてもこれを無視する意思で進行した場合は, 「殊更に無視」に当たる(最決平20・10・16集62-9-2797)。】

 

最決平成20年10月16日

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=36923

事件番号
 平成20(あ)1
事件名
 道路交通法違反,道路運送車両法違反,自動車損害賠償保障法違反,危険運転致死被告事件
裁判年月日
 平成20年10月16日
法廷名
 最高裁判所第一小法廷
裁判種別
 決定
結果
 棄却
判例集等巻・号・頁
 刑集 第62巻9号2797頁
原審裁判所名
 名古屋高等裁判所
原審事件番号
 平成19(う)402
原審裁判年月日
 平成19年11月19日
判示事項
 刑法(平成19年法律第54号による改正前のもの)208条の2第2項後段にいう赤色信号を「殊更に無視し」の意義
裁判要旨
 刑法(平成19年法律第54号による改正前のもの)208条の2第2項後段にいう赤色信号を「殊更に無視し」とは,およそ赤色信号に従う意思のないものをいい,赤色信号であることの確定的な認識がない場合であっても,信号の規制自体に従うつもりがないため,その表示を意に介することなく,たとえ赤色信号であったとしてもこれを無視する意思で進行する行為も,これに含まれる。
参照法条
 刑法(平成19年法律第54号による改正前のもの)208条の2第2項後段