児童買春事件で、被害児童の両親と示談をすべきかという相談(性犯罪、刑事弁護)
2023年06月10日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、児童買春をしてしまいました。インターネットで検索すると「示談」をすべきだという記事と、意味がないという記事があります。どうすべきでしょうか。
A、理論的には、「示談」しても減刑されるものではありません。もっとも、量刑上考慮されることもありますし、検察官によっては示談を考慮して不起訴にする人もいます。
【解説】
基本的には、児童買春は示談すれば不起訴になるといったものではありません。その理由は後掲の参考文献のとおりです。そのため、私は原則として児童買春や青少年健全育成条例違反では示談交渉はしていません。もっとも、示談が常に無意味かというと、そうではありません。量刑上考慮されることはありますし、検察官によっては示談したことを考慮して不起訴にする人もいるようです。さらにいえば、示談するか否かとは無関係に、被害児童や被害児童の保護者が事件化することを望まないこともあります。プライバシーの侵害の危険性があることや、証人尋問の負担がある可能性があるからです。その場合は、自白があり、被害児童の供述があっても、起訴されないことがあるようです。実際に私が取り扱った事件でも、被害児童や被害児童の保護者の意向から余罪が立件されなかったと思われるものがありました。
なお、私はしたことがないですが、早期の示談をした結果、被害児童が以後の取調べに協力せず、証拠不十分で検察官に送致できないといった可能性も考えられなくはないと思いますが…仮に示談書などで被害児童に対して以後の取調べに応じないように求めた場合、証拠隠滅罪に問われる危険性が高いです。私は絶対にいたしませんし、やるべきではないです(以前、そういう示談がされた事案があったという話を、どこかで聞いた記憶があります)。
※2025/1/6現在、私は、児童が性被害を受けた事案は、少年事件、盗撮事件を除き対応しておりません。児童買春事件、青少年健全育成条例違反事件については、お問い合わせを頂いても対応いたしかねます。ご了承ください。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0100000052
(定義)
第二条この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一児童
二児童に対する性交等の周旋をした者
三児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
【参考文献】
森山眞弓・野田聖子編著『よくわかる改正児童買春・児童ポルノ禁止法』(ぎょうせい,2005年3月)167頁
【強制わいせつ罪は、犯罪の性質上、これを訴追し処罰することにより被害者の精神的苦痛等の不利益が増すことが考えられることから、被害者の保護の観点から親告罪としているものと解されています。しかし、児童買春罪については、加害者やその背後の組織の報復を恐れて告訴できなかったり、保護者への金銭の支払で示談をし、告訴を取り下げさせたりするようなことが通常の性犯罪以上に多いことも考えられ、これを親告罪とすると、児童買春の相手方となった児童の保護や、児童を性欲の対象としてとらえる風潮の抑制、児童一般の心身の成長への重大な影響の防止を十分に図ることが困難になるので、非親告罪としました。】
※2025/1/6 chatGPT o1 pro に検証してもらいました。
以下の文章は、児童買春罪(児童買春・児童ポルノ禁止法違反)における示談の効果・限界について述べられており、法的にも実務的にも概ね妥当な見解を示しています。結論的に言えば、
- 示談によって必ず不起訴や軽い刑になるわけではない
- しかし、場合によっては量刑上有利に働くこともあり、検察官によっては示談を考慮し不起訴になることもある
- 児童買春罪は非親告罪であるため、親告罪(被害者等からの告訴がないと起訴できない罪)のように「示談で告訴を取り下げさせる→事件化しない」という構図にはなりにくい
- 被害児童・保護者が「事件化を望まない」などの事情で捜査に非協力的になれば、結果的に立件が見送られる可能性もゼロではない
- とはいえ、示談を結ぶ際に「取調べに応じないよう求める」などの行為は証拠隠滅罪等に該当し得る危険な行為であり、絶対にすべきではない
という内容は、刑事実務の運用面とも矛盾しません。以下、ポイントを整理します。
1. 児童買春罪は「非親告罪」である
1-1. 親告罪との違い
- **強制わいせつ罪(刑法176条)**などは、被害者保護の観点等から親告罪とされている場合がありますが、児童買春罪は非親告罪です。
- 非親告罪の場合、たとえ被害者や保護者が「告訴しない」と言っても、警察・検察は捜査を継続し、起訴することが可能です。
1-2. 示談で「告訴を取り下げさせる」構図は基本的に成り立たない
- 親告罪の場合、「示談して被害者が告訴を取り下げれば不処罰(公訴棄却・不起訴)になる可能性が高い」という図式が成り立つことがあります。
- 一方、児童買春罪は非親告罪なので、示談や被害者の同意の有無にかかわらず、捜査当局が犯罪の事実を把握した以上、独自に起訴できるという点がポイントです。
2. 示談はまったく無意味ではない
2-1. 量刑上や起訴判断における考慮要素
- 児童買春罪は「示談すれば絶対に不起訴」という性質の犯罪ではありません。
- しかし、検察官が処分を決める際、被害者側との示談成立による被害感情の緩和等を考慮して、「起訴猶予」(不起訴)とする場合や、起訴に至っても量刑上の情状として酌んでもらえる可能性はあり得ます。
2-2. 被害児童・保護者の事情
- 被害者(児童)や保護者にとって、刑事手続に積極的に協力することは「公判で証言しなければならない」「プライバシーが公になるリスク」など負担を伴います。
- そのため、示談の有無に関係なく、被害者側が当初から事件化に非協力的という状況も現実にあり、結果的に立件が見送られる可能性も否定できません。
3. 示談の際のリスク
3-1. 「取調べに応じないよう求める」行為は危険
- 記事中の「示談書で、以後の取調べに応じないよう求める」などの行為は、証拠隠滅や公務執行妨害的な評価を受ける可能性があります。
- したがって、示談交渉で被害者を黙らせる意図を直接明示するような行為は厳禁です。
3-2. 法律家としての倫理
- 弁護士が被害者や保護者に「捜査協力しないよう」あおるような示談をするのは、倫理上も問題がありますし、違法リスクも高い行為です。
- 記事にもあるように、「やるべきではない」という指摘は妥当です。
4. 総合評価(文章の真偽)
- 「示談」イコール不起訴ではない
- 児童買春罪は非親告罪であり、示談の有無にかかわらず起訴され得る。
- ただし、示談が量刑や起訴猶予判断に影響する場合は実務上あり得る。
- 示談に伴うリスクや限界についての指摘も正しい
- 被害者や保護者の非協力により事実上立件が難しくなる場合はあるものの、「取調べに応じないよう求める」のは証拠隠滅の問題になりかねず、危険である。
- 示談の進め方自体に注意が必要であり、不適切な方法で被害者側に働きかけると、却って法的リスクを高めることになる。
- 結論的評価
- 記事の内容は「児童買春で示談しても必ず不起訴にはならないが、全く無意味でもなく、量刑や不起訴処分に影響する可能性がある」という点を正しく伝えている。
- また、「示談によって被害児童に捜査協力をやめさせるよう働きかけるのは危険」という見解も、刑事弁護の実務に照らして正当な注意喚起といえる。
したがって、本文章は児童買春事件における示談の効果や問題点を、実務上妥当かつ正確に説明していると評価できます。
※関連記事