刑事事件で、被害者への謝罪文をどう書けば良いのかという相談(盗撮、刑事弁護)
2022年10月24日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、この度、夫が盗撮事件を起こしてしまいました。担当している弁護士さんからは「謝罪文」を書くようにと言われているのですが、どう書けば良いのかわかりません。何を書いても被害者の方の気分を害するだけではないかと心配です。参考になるものはないでしょうか。
A、「書くべき事」について参考になるものはあります。もっとも、具体的な内容については十分に弁護士と協議をして作成すべきでしょう。
【解説】
刑事事件の示談交渉をする際には、被疑者・被告人に「謝罪文」を書いてもらうことが多いと思います。本人に謝罪の気持ちがないのに、弁護人の判断で示談交渉をすることはできないからです。しかし、刑事事件の「謝罪文」は、書式が乏しいです。インターネットで検索すると、弁護士の作成した書式は見当たります。ですが、もちろん、それに沿って書けばいいというものではないです。自分の頭で考えないといけません。とはいえ、書き方について何も手かがりがないと困るのも事実です。そのために悩まれている方も多いようです。
私は、依頼を受けた事件では次の文献を渡しています。
平野晋「効果から考える謝罪のベストプラクティス」(ビジネス法務2018年5月号35-39頁)
平野先生は、あるべき謝罪につき、次のとおり述べています。
【効果的な謝罪:完全な謝罪-fullapology-
1 みずからの非行を具体的に特定したうえで,責任を認めて表明し,
2 後悔の念や良心の呵責を表明し,
3 再発防止を約束し, かつ
4 損害の補償を申し出ること。】
私も、謝罪文には上記の4要素が不可欠だと思います。刑事弁護をしていても、出来の悪い謝罪文はこの4要素を満たしていないです。なお、先日読んだ『不当要求・クレーマー撃退のポイント50』という本でも、詫びたら責任を認めたことと法的に評価されるので、詫びてはならないと言われてきた米国でも、2000年頃から各州で謝罪が証拠にならないという「SORRY LAW」が制定されてから、詫びた方が賠償額が低く抑えられているという話が紹介されていました。
深澤 直之『不当要求・クレーマー撃退のポイント50』
https://www.amazon.co.jp/dp/4809031845
さらに、坂本正幸ほか編著「謝罪文」『情状弁護ハンドブック』(現代人文社,2008年5月)42-47頁と併せて渡し、本人に考えてもらいます。重要なのは、謝罪文は、自分が楽になるために出すのではなく、相手の気持ちを慰謝するために作るものだということです。自分を振り返り、被害者に与えた苦痛を考え、贖罪として何をすべきかを考えた上で書きます。その意味で、受け取ってもらえないということも当然ということをまず理解しなければなりません。そして、示談できなくて当然という気持ちを表明して、それでも犯行の責任として賠償を申し出ることです。最後に、以前のインタビューで述べたことを抜粋します。
【参考記事】
刑事弁護に注力「非難せず、寄り添う」〜罪を犯した背景にさかのぼり人生の再出発をサポート 誠実さをモットーに全ての案件に「手作り」の意識で取り組む〜
https://www.bengo4.com/lawyer/blog/111/
- 被害者との示談交渉で、気をつけていることはありますか。
まず、被害者が赦さないのは当然という気持ちで挑んでいます。本人にもそのことを説明しています。起こったものは消えないし、赦す赦さないは被害者が決めることです。そして、正直であることも意識しています。依頼者の氏名など、いえないことはいえないと言いつつも、法制度や、示談した場合の見通しも含め、話せることは積極的に話をしています。また、被害者にとっては弁護士と会うというだけでストレスなのですから、面会が実現したらまずお礼を述べるようにしています。
被害者と2時間くらい話をすることもあります。3回くらい面談したこともあります。「私の話が正しいかどうか、他の弁護士さんや警察にもどうぞ確認されてください」と述べることもあります。例えば、起訴されたら被害者の氏名が起訴状に載るということを警察が伝えておらず、そのことを私から聞いて、警察に確認したら事実だとわかったことから示談に応じたという案件もありました。
今までの経験上、赦してもらえることはそれなりに多くありました。私は、被害者が赦そうという気持ちになるには、①断罪と、②再発防止策を踏まえた正直な謝罪、③適切な賠償金の支払い、の三点が必要だと思っています。①断罪というのは、必ずしも刑事処罰を受けるということではなく、依頼者が悪いことをしたと社会的に、あるいは周囲に評価されること、反面でいえば、被害者が悪くないと確定されること、②そして再発防止策を踏まえた具体的な謝罪がされること、これは先ほどのように依頼者と話をしていくなかで自然とでてきます。そして、③適切な賠償金の支払いです。盗撮であれば、拡散のリスクがある場合や、トイレでの盗撮などは当然高めになります。何故この金額を提示したのか、ということはきちんと説明できるようにしています。
口はばったい言い方になりますが、弁護士が適切に示談交渉をすることは、被害者の被害回復にも繋がることだと思っています。金銭だけの問題ではありません。犯罪被害によって失われた安心感や、自己評価を回復するためには、加害者に関する情報の提供を十分に受けた上で、何らかの決断を下すことに意味があると思っています。私は、被害者側でも事件を受けているのですが、上の3要素のどれかが抜けている場合、被害者の苦痛はずっと続くように感じます。