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薬院法律事務所

刑事弁護

勾留中の違法な取り調べを理由に、勾留取消ができるか


2026年01月26日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

Q、私は、福岡市に住む30代女性です。夫が深夜にひき逃げをしたということで逮捕されています。被害者の方は亡くなっているのですが、国選弁護人さんの勧めで黙秘をしています。警察官の方からかなり厳しい取調べを受けているようで面会でも表情が暗いです。黙秘しているのに取調べを継続しているのは問題があるんじゃないかと思いますし、釈放してもらえないでしょうか。

A、違法な取り調べといえる場合には勾留を取り消す方向の事情として考慮されることがあります。もっとも、実務上は、厳しい取調べというだけでは黙秘権侵害とまでされないのが現状ですし、違法な取調べであるからといって勾留を直ちに取り消すほどの事情にはなりません。もっとも、それでもあえて勾留取消請求をすることで違法な取調べをけん制する、弁護人から取調官に対する抗議文を送る、拘置所への移監請求をするといった対応は考えられるでしょう。

 

【解説】

 

一般論として、勾留は、その法律的性質としては、取調べを直接の目的とするものではないし、概念上取調べが不可欠の要素として包含されているものともいえないから、取調べ自体の違法と勾留自体の違法とは、概念上別個のものである。したがって、勾留中に違法な取調べがなされたからといって、勾留そのものが違法になるということはないとされています。もっとも、刑事訴訟法87条は勾留の必要性がなくなった場合には勾留を取り消さなければならないとしていますので、その勾留の必要性を判断する際の考慮要素とされることはあります。とはいえ、ハードルは高いので、実務上は取り消される可能性が少ないことを承知であえて勾留取り消し請求をする、あるいは抗議文を送るといった対応をすることが多いでしょう。

 

※刑事訴訟法

第八十七条 勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131#Mp-Pa_1-Ch_8-At_87

 

 

 

【参考文献】

 

新井紅亜礼「80勾留中に違法な取調べがある場合における勾留取消し」

田中康郎監修『令状実務詳解〔補訂版〕』(立花書房,2023年4月)440-444頁

【弁護人としても、勾留の取消しを請求するほかに、捜査官に対し、違法・不当な取調べをやめるよう申入れをしたり、違法・不当な取調べを理由に被疑者を拘置所に移送するよう裁判官に職権発動を求めたり、勾留場所を拘置所に変更することを求める準抗告を申し立てることなどが考えられ、実務でも、そのような弁護活動が実際に行われている。】444頁

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3843

 

高麗邦彦・芦澤政治編『令状に関する理論と実務Ⅰ(別冊判例タイムズ34号)』(判例タイムズ社,2012年8月)179-180頁

村越一浩「勾留中に違法な取調べがあった場合の勾留取消し」

【東京地決昭45.8.1判夕252号238頁は,結論としては勾留取消しを認めなかったものの,「勾留についての必要性の判断は本来勾留しなければならない積極的な必要性(勾留する方に働く事情)と,勾留することによる不利益,弊害(勾留しない方に働く事情)との綜合的な比較衡量判断であるが,捜査官の違法行為により勾留中の者に対し著しい不利益,弊害を与えることがあるとすれば,右事情は当然前記勾留しない方に働くー事情として考慮すべきであって,これを理由とする場合の勾留取消も右刑訴法八七条を直接適用してなすべきものと解するのが相当である」と説示した。この東京地裁決定の一般論を支持する見解が有力である(金谷・後掲404頁,法曹会編・後掲28頁,萩原・後掲293頁)。そして,違法な取調べが与える不利益,弊害をどの程度考慮すべきかという点については,当該違法・不当な取調べの態様,その違法・不当の程度,将来もそのような行為が繰り返される危険の強弱,更には当該勾留が起訴前のものか起訴後のものか等によって決すべきものといわれている(前掲東京地裁決定,金谷・後掲404頁,法曹会編・後掲28頁)。】179頁

https://www.hanta.co.jp/books/3246/

 

法曹会編『例題解説刑事訴訟法(五)〔改訂版〕』(法曹会,1998年7月)30-31頁

【そこで、以上の考え方に基づいて、設例に戻って考えると、勾留中に余罪につき数日問被疑者の供述拒否権を無視した尋問が執拗に行われたとの事実は、勾留の必要性(勾留継続の相当性)を考える際にマイナスに作用する一事情ではあるが、本件公訴事実の内容、これから推定される逃亡のおそれの高さ(有罪となれば実刑を免れえない事案については特段の事由がない限り逃亡のおそれは相当高いと推定してよかろう)と対比して考えると、右程度・態様の違法取調があったからといって、原裁判が勾留継続の相当性を否定し直ちに勾留を取り消したのは極めて疑問があるというべきであり、その上、抗告理由中にある検察官の主張事実が認められた場合には、そのような違法取調が将来もくり返される危険は低いということになって、一層原裁判の不当性は顕著になるわけである。したがって、本件原裁判は、抗告裁判所の決定によって取り消される可能性は、はなはだ高いというべきであろう。】

https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002724047