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薬院法律事務所

一般民事

土地を借りて建物を建てて住んでいたが、土地を時効取得できないかという相談(賃貸借問題)


2024年09月12日賃貸借事件(一般民事)

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【質問】

 

Q、私は、福岡市に住む50代男性です。私の父は、友人から土地を借りて建物を建てていました。契約書はありません。50年間住んでいたのですが、この度地主から立ち退きを求められています。50年間も住んでいて途中からは地代も払っていなかったようですが、時効ということで土地は父のものになりませんでしょうか。

A、「他主占有」であり、基本的には土地の時効取得はできません。もっとも、「自主占有に転換した」といえる場合もあるので、不払いの時期が重要になるでしょう。

 

【解説】

 

他人の土地を、他人の土地と知った上で時効取得するためには、「二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有」しなければなりません。所有の意思の有無(自主占有か、他主占有か)は、占有者の内心の意思を基準に決められるのではなく、占有者がその物を占有することになった原因(権原という)の客観的性質によって、判断されます(最判昭和45年6月18日判時600号83頁)。他主占有の場合,占有がどれだけ長期間継続しても、取得時効は完成しません。

ただし、他主占有が自主占有に変わる場合も認められています(185条)。他主占有者が所有の意思を表示した場合〔たとえば、賃借人が賃貸人に向かって、「実はこの土地は自分の物だ」と主張した場合〕と、新権原による自主占有を開始した場合〔たとえば,賃借人が賃貸人と売買を結んだ場合〕)です。そういった事情がなければ地代不払いということになるだけです。

 

※民法

第二節 取得時効
(所有権の取得時効)
第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
(所有権以外の財産権の取得時効)
第百六十三条 所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。
(占有の中止等による取得時効の中断)
第百六十四条 第百六十二条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。
第百六十五条 前条の規定は、第百六十三条の場合について準用する。

(占有の性質の変更)
第百八十五条 権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-Pa_1-Ch_7-Se_2

 

【参考判例】

 

最高裁平成6年9月13日

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62721

【本件土地を上告人の先代Dから小作していたEがいわゆる農地解放後に最初に地代を支払うべき時期であった昭和二三年一二月末にその支払をせず、これ以降、右DらはEが本件土地につき地代等を一切支払わずに自由に耕作し占有することを容認していたことなど、その確定した事実関係の下においては、Eが遅くとも昭和二四年一月一日には右Dらに対して本件土地につき所有の意思のあることを表示したものとした原審の判断は、正当として是認することができる。】