load

薬院法律事務所

刑事弁護

在宅事件で、弁護人の立会がない限り取調べを拒否すべきかという相談(痴漢、刑事弁護)


2024年11月01日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、福岡市に住む30代の会社員男性です。先日、満員電車で痴漢と疑われて警察に連れて行かれました。やっていないと言い続けてその日は釈放されたのですが、不安になって弁護士さんに相談に行きました。すると、弁護士さんからは、弁護士から取調べの立会いを求めて、実現しない限りは取調べに応じないという弁護方針を進められました。弁護士さんの言うことなので従っているのですが、警察の態度は厳しくなってきましたし、私としてはやっていないのだからやっていないと言い続ければ良いのではないかとも迷いが出ています。どうすべきでしょうか。

A、これは弁護士によりスタンスが異なるところです。積極的に否認をした方が良い場合もありますし、供述しないという方針をとる場合でも、逮捕リスクを減らすためには取調べには応じた上で完全黙秘する方が良いこともあるでしょう。

 

【解説】

「弁護人の立会いを認めない限り、取調べに応じない」。近時、最先端の刑事弁護を追究する刑事弁護人の中で広まりつつある手法です。成功すれば、供述証拠を一切与えないということで、嫌疑不十分での不起訴を狙いやすくなるということがあります。もっとも、「供述しない」という方針については警察の反発が強く、逮捕のリスクを高めるという問題はあります。場合によっては積極的に否認供述を述べ続けた方が早く終わることもあり得ます。依頼された弁護人と良く協議して、納得がいかなければ他の弁護士のセカンドオピニオンを求めるといいでしょう。

 

【参考文献】

川崎拓也・黒田学「特集 取調べへの弁護人立会い 弁護実践としての到達点」自由と正義2024年5月号27-32頁

29頁

【<古田国賠(名古屋高判令和4年1月19日)>勾留請求却下後の捜査機関からの取調べ要望の連絡を受けて、現に捜査機関に出頭し、弁護人立会いでの取調べを求め、これを拒絶されたためにやむなく帰宅するという弁護方針を採っていた事案において、名古屋高判は、弁護人が立ち会えないことを理由として取調べに応じなかった行為を「正当な理由のない不出頭を繰り返した場合に準じ、逃亡ないし罪証隠滅のおそれがあるとして逮捕の必要性があると評価することに合理的根拠がないとはいえ(ない)」などと判示した。

極めて不当な判決であるが、弁護実践においては、この判決内容も意識した判断、活動が必要である。逮捕リスクを徹底してなくすのであれば、取調べの「場」の設定(呼出しに応じて出頭し、取調べに応じる)まで必要になるであろう。】

https://www.nichibenren.or.jp/document/booklet/year/2024/2024_5.html

警察実務研究会編『警察公論2022年12月号付録 令和4年度版警察実務重要裁判例』107頁
【3 近時、身柄事件のみならず、在宅事件についても、捜査段階における弁護活動がより活発になってきており、本件のように、被疑者が弁護人を伴って出頭し、弁護人の立会いがなければ取調べに応じない旨主張する事案も増えていくという見方もあり得るところ、こうした事案においては、被疑者や弁護人に対し、取調べへの弁護人の立会いに関する法解釈・運用を説明して取調べに応じるよう促すことが重要であることはもちろんであるが、仮に、被疑者側の理解が得られなかった場合には、本判決のような裁判例を踏まえつつ、必要に応じて担当検察官と相談するなどし、どのような対応をとるのが最善であるのかを事案ごとに十分に検討していく必要があるように思われる。】

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3814

刑事訴訟法 No.157 (文献番号 z18817009-00-081572275) 2023/1/13掲載 本文
在宅被疑者が弁護人立会いなしの取調べを拒否したところ、逮捕された事例(名古屋高等裁判所令和4年1月19日判決<LEX/DB25593187>)
宇都宮大学准教授 黒川亨子

https://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-081722495_tkc.pdf

 

ご相談後の流れ(在宅事件)