売掛金の回収が出来なかったという理由で、賃金が減額されたという相談(労働問題)
2024年09月08日労働事件(企業法務)
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は営業社員です。顧客からの売掛金が回収出来なかったことを理由に賃金から未回収額を差し引かれました。違法ではないでしょうか。
A、違法です。労基署に違反申告に行って下さい。
【解説】
売掛金の回収が出来なかったことについて,原則として使用者は労働者に対して転嫁をすることは出来ません。例外的に、回収出来ないような人間に売ったということに。故意や重過失がある場合ですが,その時も故意でない限り全額の請求は出来ません。私の調べた限りでは、売掛金未回収について労働者の賠償責任を認めた裁判例はありませんでした。後継、東京地判平成27年7月14日判決は、ホストクラブの売掛金について「本来被告が負担すべき未回収の売掛金相当額」と判示しています。また、賃金の一方的天引きは労働基準法24条の賃金全額払いの原則に明白に反しています(おそらく、労使協定などは締結されていないと思われます)。
※労働基準法
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
○2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
【参考判例】
最高裁判所第一小法廷昭和51年7月8日判決
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54209
【使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。】
■28233422
東京地方裁判所
平成25年(ワ)第28033号
平成27年07月14日
埼玉県(以下略)
原告 X
同訴訟代理人弁護士 花澤俊之
東京都(以下略)
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 柳田康男
主文
主文
1 被告は、原告に対し、175万9571円及びうち54万3005円に対する平成25年2月16日から同年5月29日まで年6分の、同月30日以降支払済みまで年14.6パーセントの、うち91万6566円に対する同年3月16日から同年5月29日まで年6分の、同月30日以降支払済みまで年14.6パーセントの、うち30万円に対する同月29日から支払済みまで年5分の各割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し、その8を原告の、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実および理由
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告に対し、1060万4450円及びうち72万8950円に対する平成25年2月16日から支払済みまで年14.6パーセントの、うち107万0740円に対する同年3月16日から支払済みまで年14.6パーセントの、うち880万4760円に対する同年5月29日から支払済みまで年5分の各割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、原告と被告との契約が労働契約であるとして、未払賃金等及び不当解雇(不法行為)による損害賠償等の支払を求め、また、原告が第三者から受けた暴行につき、それが被告と共謀したものであるとして、損害賠償等の支払を求める事案である。
1 前提となる事実
本件訴訟の争点について判断するに当たり前提となる事実は、以下のとおりであって、当事者間に争いがないか、括弧内に挙示する証拠(以下、枝番のあるものはこれを含む。)又は弁論の全趣旨によって認めることができ、この認定を妨げる証拠はない。
(1) 当事者等
ア 被告等
被告は、(省略)においてホストクラブ「A」(以下「本件クラブ」という。平成25年7月頃閉店。)を営業していた者である。
B(以下「B」という)は、本件クラブを含む複数のホストクラブを統べる「Cグループ」において、被告より上位の立場にある者である。
イ 原告
原告は、平成24年12月から平成25年5月29日まで、本件クラブにおいて、それが労働契約に基づくものか否かはともかく、ホストとして稼働していた(以下、原告の稼働に係る被告との契約を「本件契約」という。)。
(2) Bによる暴行
Bは、平成25年5月29日午前2時頃、本件クラブ店内において、原告に対し、その態様や程度はともかく、暴行を加えた(以下「本件暴行」という。)。なお、本件暴行の際は、被告も本件クラブ内にいた。
2 本件訴訟の争点
(1) 第1の争点は、原告請求の未払賃金等請求権の有無等であるが、この点に関する当事者双方の主張は、要旨、以下のとおりである。
(原告)
ア 本件契約の法的性質
以下の事情に照らすと、原告と被告との間には、使用従属関係が認められ、本件契約は労働契約というべきである。
(ア) 原告には、被告からの仕事の依頼に対し、諾否の自由はなかった。
本件クラブでは客が来店すると入り口の従業員がホストに客を配点する方式が採られていたが、原告は一度もその配点指示を断ったことがない。また、従業員からいわゆるヘルプで席に着くように指示を受けた際も、断ったことがない。さらに、原告は、被告から、仮装イベント等イベントを行う場合、特に指示されて出勤している。
なお、原告が他店で働くことは禁止されており、原告は、被告で勤務していた期間、他店で勤務していない。
(イ) 原告は、業務遂行上、被告から指揮監督を受けていた。
被告は、原告がしばしば遅刻をしていたこと、被告の命令に従わなかったこと等から原告を解雇したとしており、被告自身、原告への指揮監督を認めている。
(ウ) 勤務場所や勤務時間はほぼ決まっていた。
被告は、原告に対し、当初、自由出勤で構わない旨約束していた。しかし、実際の勤務開始後は、被告は遅刻による罰金を科している。
なお、勤務場所にはタイムカード機が設置されており、原告は出勤時間と退勤時間を打刻していた。原告は、通常午後7時頃から翌日午前零時30分頃まで勤務をしていた。
(エ) 原告の業務は代替性のあるものであった。
原告の被告における業務は、ホストとしての接客であった。原告を指名する客もあったが、多くの場合、原告は、被告の指示によりいわゆるヘルプとして他のホストが対応している席で接客業務をした。
(オ) 報酬の算定・支払方法
原告は、被告に勤務している当時から、報酬の算定方法を理解できなかったし、現時点において被告から提出された給与支払明細(乙1ないし4)を見ても理解できない。このように、原告が自己の賃金の算定基準を知らないということ自体、被告が使用者として一方的に賃金を決めていたこと、すなわち、使用従属関係の存在をうかがわせる。
被告は、原告の給与から所得税を控除している(乙1ないし3)が、仮に原告が個人事業主であれば、被告が所得税を控除する理由はない。
被告は、ホストの給与条件を「日給1万円以上+売上バック(最大80パーセントバック)+指名料(100パーセントバック)」として募集していた。しかし、原告の場合は、給与明細によれば、平成25年1月及び2月の「日当」は支払われず、3月及び4月の「日当」は7000円である。これは、被告が一方的に原告の給与を決めていたことを意味する。
イ 未払給与の額
原告の手元にある給与に関する「内訳」と題する書面(甲2の1・2)によれば、原告の平成25年1月分の基本給は72万8950円であり、2月分の基本給は107万0740円である。
被告の提出する給与支払明細書によっても、平成25年1月度(平成24年12月27日から平成25年1月25日)は54万3005円(=74万8450円(乙1の給与支払明細書部分の総支給額合計-5万9845円(所得税)-2万5600円(ヘアメイク代)-12万円(バンス))、同年2月度(平成25年1月27日から同年2月25日)は91万6566円(=109万0740円(乙2の給与支払明細書の総支給額合計)-9万4074円(所得税)-3万0100円(ヘアメイク代)-7000円(その他)-4万3000円(バンス))である。
ウ 被告の主張について
(ア) 売掛金未回収による支払拒否の主張について
被告は、売掛先の未回収を理由として原告への給与支払を拒否する。しかし、これは、労働者を使用し、最終的な利益を得る地位にある者が、本来自身が負担すべき客への債権不回収の危険を、地位の弱い労働者に一方的に負担させることに外ならず、使用者たる被告の優越的地位の濫用及び暴利行為であり、公序良俗に反する。なお、客をつけで飲食させるか否かの判断は、労働者である原告が行うわけではなく、被告が行うものであるから、その意味からしても原告がその危険を負う理由に欠ける。
(イ) 弁済の主張について
被告が原告に対して平成25年1月度分として30万6100円を支払ったことは否認する。
エ よって、原告は、被告に対し、労働契約に基づき、未払賃金合計179万9690円及びうち72万8950円に対する平成25年2月16日から、うち107万0740に対する同年3月16日から、各支払済みまで、賃金の支払の確保等に関する法律6条1項による年14.6パーセントの割合による遅延損害金の損害の支払を求める。
(被告)
ア 本件契約の法的性質について
本件契約が労働契約であることは否認する。被告において、ホストは各々が完全歩合制の個人事業主である。
原告の主張ア(ア)ないし(オ)に対する認否、反論は以下のとおりである。
(ア) 原告の主張ア(ア)の事実は否認する。
客の来店に当たっては、担当のホストが事前に連絡を取っているのが通常なので、ホストと客が一緒に入店してくるのが基本である。また、客が直接来店した場合は、入り口の内勤職員が担当ホストを呼び、客と一緒に席に着くことになる。基本的に指名でないホストが客を席に案内することはない。
また、ヘルプで席に着いたりイベントに参加したりするのは、ホストにとって有益な、ホスト自身の顧客獲得機会の提供である。
(イ) 原告の主張ア(イ)の事実は否認する。
大勢のホストが、同じ店で各々競いながら各自営業をしているのであるから、全体としての合意事項があるのは当然である。被告の原告に対する指揮監督の問題ではない。
(ウ) 原告の主張ア(ウ)の事実は否認する。
店舗での客商売である以上、勤務場所や店自体の営業時間が決まっており、他のホストも営業時間に出勤している。
(エ) 原告の主張ア(エ)の事実は否認する。
ホスト個人に対して客がついているのであり、ホストは代替性のない業務である。ヘルプとして他のホストの接客に同席させてもらうのは本来的な業務ではない。
(オ) 原告の主張ア(オ)の事実は否認する。
被告において、ホストの勧誘や募集広告の際には、現実の待遇をやや誇張することもあるが、応募者には面接の際に現実の待遇について納得した上で入店してもらっている。
ホストに支払う報酬から10パーセントの源泉徴収を行うのは、税務当局と会計士からの指示である。
イ 原告の未払給与の主張について
(ア) 本件クラブでは、店に売上金の入金がされて、はじめて売上入金に対する一定の報酬がホストに発生するシステムであり、時給や日当で働いてはおらず、基本給等は存在しない。
被告が原告に支払をしていないのは、原告の被告に対する売上入金が未入金であるからである。
なお、本件クラブにおいては、前月の27日から当月の25日までが1か月の計算期間であり、25日が締日、支払日が翌月である。
(イ) 被告は、原告に対し、平成25年1月度の報酬として、平成25年2月15日に30万6100円を支払っている。
(2) 第2の争点は、本件暴行に係る被告の原告に対する責任の有無及びこれが認められた場合の賠償額であるが、この点に関する当事者双方の主張は、要旨、以下のとおりである。
(原告)
ア 本件暴行の態様等
Bは、同行した約5名とともに原告を取り囲み、「うちのグループにけんか売っただろう」等と怒鳴りつけ、原告の髪の毛をつかんで引きずりまわした後、顔面及び胸部を殴って暴行を加えた。
イ 被告の責任
被告は、本件暴行以前に、原告に対し、就業時間後の居残りを命じ、Bが本件クラブに現れるや否や、店舗に鍵を掛けた上、Bが原告に対して暴行している間、止めに入ることもせずに、その様子を笑いながら見ており、介抱することもなかった。
そして、本件クラブの営業主ではないBが、原告に対して解雇を通告し、その後、原告に本件クラブに対する債務がある旨の債務確認書を作成させていることに照らせば、被告とBとは、原告の解雇及び債務転嫁という共通の目的をもって本件暴行に及んでいるといえる。
以上から、原告に対して直接暴行していない原告も、本件暴行に対して共同不法行為者としての責任を負う。
ウ 損害
本件暴行の結果、原告は通院加療3週間の顔面及び胸部の打撲傷を負った。本件暴行により原告が被った損害は以下のとおりである。
(ア) 医療費 1万5690円
(イ) 本件暴行による後遺症慰謝料 139万円
原告は、本件暴行による左目元打撲により、左目の視力が0.8から0.5に低下した。その後遺症慰謝料は139万円が相当である。
(ウ) (イ)を除く本件暴行による精神的損害による慰謝料 200万円
(エ) 合計340万5690円
エ よって、原告は、被告に対し、共同不法行為に基づき、損害合計340万5690円及びこれに対する不法行為の日である平成25年5月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告)
ア 原告の主張する本件暴行の態様は否認する。
Bは原告が主張するような強い暴行はしていない。Bは原告の腹部正面に前蹴りを1回し、顔面を2、3回殴ったものであり、暴行の強さとしては、人が倒れるような強い感じではなく、いずれも軽いものであった。
イ 被告とBとの間に共謀があるとの主張は争う。
被告には、本件暴行に先立ち、本件暴行についての認識、予見、認容等はなかった。
被告は本件クラブのドアを施錠していない。本件暴行の間、笑いながら見ていたことはない。
解雇を通告したのは被告であり、書類を記載させたのは内勤職員のDである。BはCグループのナンバー2の立場であり、経営の統括者的地位にあることから、原告の主張はあてはまらない。
ウ 損害については争う。
(3) 第3の争点は、原告の解雇についての被告の不法行為の成否及びこれが認められた場合の慰謝料請求権の有無であるが、この点に関する当事者双方の主張は、要旨、以下のとおりである。
(原告)
ア 被告は、本件暴行の後、原告を解雇した。
本件解雇に、社会通念上相当であると認められるの客観的・合理的な理由は存在しない。仮に、原告に何らかの責任があるとしても、被告は、解雇の際になされるべき聴聞手続をせず、Bと共謀して一方的に本件暴行を加え、かつ、債務確認書への署名・押印の強要により、本来被告が負担すべき客の未払代金を負担させようとしており、解雇権の濫用である。原告の解雇は無効であり、不法行為を構成する。
イ 不当解雇による損害
不当解雇による損害は、逸失利益又は精神的損害の慰謝料として、平成25年1月度及び2月度における原告の給与の平均値{89万9845円=(72万8950円+107万0740円)÷2}の6か月分である539万9070円が相当である。
仮に、原告の給与につき、被告の資料を前提にとすると、上記(1)(原告)イのとおり、平成25年1月度は54万3005円、2月度は91万6566円であるから、原告の給与の平均値は72万9785円{89万9845円=(72万8950円+107万0740円)÷2}となり、その6か月は437万8710円である。
ウ よって、原告は、被告に対し、共同不法行為に基づき、損害賠償539万9070円及びこれに対する不法行為の日である平成25年5月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告)
争う。
原告を「解雇」したのは、原告が日頃から脱法ドラッグをしていたこと、原告がしばしば仕事に遅刻したこと、原告がしばしば被告の命令に従わなかったこと、などからである。
当裁判所の判断
第3 当裁判所の判断
1 第1の争点(未払給与の有無及びその額)について
(1) 本件契約の法的性質について
証拠(甲14、乙1ないし3、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は本件クラブ側から指示された接客を断ったことがないこと、接客の中には自己の指名客だけでなく、いわゆるヘルプとして他のホストが対応している席での接客業務が含まれていたこと、本件クラブにはタイムカード機が設置されており、原告は出勤時間と退勤時間を打刻し、被告は原告に遅刻による罰金を科していること、被告は原告の給与から所得税を控除していることが認められ、以上の諸事実からすると、被告への労務提供全般にわたり、原告が被告から指揮監督を受ける関係にあったと認められ、本件契約は労働契約であると認められる。
この点につき、被告は、ホストは各々が完全歩合制の個人事業主である旨主張する。しかし、被告が同主張に関して種々指摘する事情は、いずれも上記認定事実と前提を異にするか、あるいは、上記認定事実から本件契約が労働契約であることを推認させることを妨げるものとはいえないものであり、同主張は採用できない。
(2) 未払給与の額等について
証拠(甲2、乙1)及び弁論の全趣旨によれば、原告の給与は、平成25年1月度(平成24年12月27日から平成25年1月25日)につき、54万3005円(=74万8450円(乙1の給与支払明細書の総支給額合計)-5万9845円(所得税)-2万5600円(ヘアメイク代)-12万円(バンス))、同年2月度(平成25年1月27日から同年2月25日)につき、91万6566円(=109万0740円(乙2の給与支払明細書の総支給額合計)-9万4074円(所得税)-3万0100円(ヘアメイク代)-7000円(その他)-4万3000円(バンス))であると認められる(なお、給与支払明細書(乙1、2)で控除されている「預り金(会費)」は、社員旅行の積立金であるところ、原告は社員旅行に行っていないため、また、同じく控除されている「未入金のマイナス」は、売掛金の未回収を理由とするものであるところ、以下のとおり、公序良俗に反する合意を前提とするものであるため、いずれも控除されるべきでない。)。
この点につき、被告は、原告への給与不払は客からの売掛金の未回収が理由である旨主張する。しかし、仮に、本件契約に被告主張に沿う合意が含まれているとしても、このような合意は、本来事業者である被告が負担すべき客への債権不回収の危険を従業員である原告に負担させることに外ならず、これに本件クラブにおいては客をつけで飲食させるか否かの判断を原告ではなく店側が行うものであること(甲14、原告本人)も考慮すれば、公序良俗に反し、無効(民法90条)というべきである。
また、被告は、原告に対して平成25年1月度分として30万6100円を支払った旨主張するが、同主張は、上記売掛金未回収を理由とする給与不払の主張との整合性を欠く上、これを認めるに足りる的確な証拠もなく、同主張は採用できない。
なお、原告は、各給与の支払日の翌日から賃金の支払の確保等に関する法律6条1項による年14.6パーセントの割合による遅延損害金を請求するが、同項に定める利率は退職の日の翌日から適用されるものであるから、各給与の支払日の翌日から退職の日である平成25年5月29日までは、商事法定利率年6分の利率が適用される。
(3) 以上のとおり、第1の争点についての原告の請求は、未払給与合計175万9571円及びうち54万3005円に対する平成25年2月16日から、うち91万6566円に対する同年3月16日から、それぞれ同年5月29日まで年6分の割合による、同月30日以降各支払済みまで、年14.6パーセントの割合による、遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
2 第2の争点(本件暴行に係る不法行為の成否及びその賠償額等)について
(1) 被告の責任の有無について
本件暴行の際、被告が原告に対して直接暴行していないことは当事者間に争いがないところ、原告は、本件暴行について被告がBと共同不法行為者としての責任を負う根拠として、〈1〉本件暴行以前に、被告がBから本件クラブ訪問する理由を「原告がCグループの人間にけんかを売ったことによる話合いである」と聞き、原告に対して就業時間後の居残りを命じ、Bらが本件クラブに現れるや否や、本件クラブの入り口に鍵を掛けた上、Bが原告に対して暴行している間、止めに入ることもせずに、その様子を笑いながら見ており、事後に介抱することもなかったこと、〈2〉本件クラブの営業主ではないBが、原告に対して解雇を通告し、その後、原告に本件クラブに対する債務がある旨の債務確認書を作成させていること等の事実を指摘する。
しかし、上記〈1〉の事実中、被告が本件クラブの入り口に鍵を掛けたことは、これを認めるに足りる証拠はなく、その余の事実及び〈2〉の事実を前提としても、本件暴行以前に、被告において、Bが原告に暴行を加えることについて予見や認識、認容があったと認めることはできず、本件暴行についてBと被告との事前の共謀、ひいては共同不法行為の成立を認めることはできない。
(2) よって、その余の点について判断するまでもなく、第2の争点についての原告の請求は理由がない。
3 第3の争点(解雇に係る不法行為の成否及びその賠償額等)について
(1) 本件暴行の後、原告に解雇の意思表示(以下「本件解雇」という。)をした者につき、原告はBである旨、被告は被告自身である旨主張するが、証拠(甲15)及び弁論の全趣旨によれば、解雇はBと被告が話合いの末に決めたことであることが認められ(本件解雇の意思表示に関する被告本人の供述はあいまいであって採用できない。)、仮に本件解雇が不法行為に該当するとすれば、いずれにせよ雇用主である被告が責任を負うべきものである。
そして、被告は、原告の解雇理由につき、原告が日頃から脱法ドラッグをしていたこと、原告がしばしば仕事に遅刻したこと、原告がしばしば被告の命令に従わなかったこと等を挙げるが、その主張はいずれも抽象的なものにとどまり、これを認めるに足りる証拠もなく、しかも、本件解雇は本件暴行の直後に原告への十分な事情聴取もなく行われ、その際、本来被告が負担すべき未回収の売掛金相当額について債務確認書(甲5)を作成させていること(被告は同書を作成させたのは内勤職員である旨の主張もするが、仮にそうであっても、同職員が使用者である被告の指示ないし了承なく同書の作成に及んでいるとは考えがたい。)などからすると、本件解雇は解雇権を濫用した無効なものであるにとどまらず、不法行為を構成するというべきである(以下「本件不法行為」という。)。
(2) 損害について
原告は、本件不法行為よる損害につき、平成25年1月度及び2月度における原告の給与の平均値の6か月分の逸失利益を主張する。しかし、原告の給与が歩合制であること、平成25年1月度と2月度の給与差が大きいこと等からすると、原告において、本件解雇がなければその後6か月にわたり平成25年1月度及び2月度の平均値を給与として得られた蓋然性があると認めることはできず、逸失利益についての原告の主張は採用できない。
他方、上記(1)のとおりの本件解雇時の事情等、本件に表れた一切の事情を考慮すると、原告には本件不法行為により精神的苦痛が生じていると認められ、これに対する慰謝料は30万円とするのを相当と認める。
(3) 以上のとおり、第3の争点についての原告の請求は、慰謝料30万円及びこれに対する本件不法行為の日である平成25年5月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
4 よって、原告の請求は以上の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
民事第11部
(裁判官 五十嵐浩介)