2息子が特殊詐欺の受け子をしたということで捕まったが、どうすれば良いかという相談(詐欺、刑事弁護)
2024年02月01日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市に住む60代の男性です。先日、大学生の息子が特殊詐欺の受け子をしたということで警察に捕まったと連絡がありました。弁護士を就けようと思っているのですが、どうすれば良いでしょうか。
A、特殊詐欺の受け子についての弁護活動は「黙秘」が原則になります。一方で、被害弁償・示談が可能であれば早急に行った方がいいでしょう。
【解説】
特殊詐欺の受け子の弁護活動は、「黙秘」が原則になります。「詐欺の被害金だったかもしれない」という供述内容が記載された調書が作成された場合には、初犯でもだいたい実刑となるからです。一方で、警察官・検察官は「自白」を取ろうとしてきます。下記文献は、特殊詐欺の受け子などをさせられている若年者に対する取り調べについて、その手法を説明したものです。どうやって黙秘する被疑者を「自白」させられるか、エピソードも含めて解説してあり参考になります。弁護人が黙秘を勧めることに強い疑問を持たれているようで、そこも検察官の本音として興味深かったです。
大樂倫大「特殊詐欺の現金回収役事案一否認事件の捜査・被疑者の取調べ」捜査研究2022年12月号(866号)34頁
【筆者が検察官として捜査・公判の実務を通じて日々感じ続けているのは、捜査段階で黙秘する被疑者の多さである。その背景には、取調べに応じて話すことのリスクを重視し、供述するメリットがなければ原則黙秘させるという、弁護人戦略があると思われる。このリスクやメリットというのは、事実認定や量刑という裁判の結果のみに着目した観点からと感じられるが、取調べには、これらを超えた意義があるはずである。
すなわち、取調べは、犯人の更生を促す場でもあるはずである。逮捕・勾留の約20日間のように一人の人間(取調官)と連日膝をつき合わせて対話をして自分自身を見つめ直す機会というのはそうはないはずである。こうした取調べでの対話を通じて、犯人は、様々な視点から事件を見直すよう求められ、自分の将来を考えさせられ、自分の内面と向き合う勇気を持つよう後押しされ、更生を促され、そうして自身の内省が進んでいく。自白(真実の告白)の証拠としての価値はいうまでもないが、自己に不利益な事実を自ら語ること自体が犯人にとって更生に踏み出すための大きな一歩になるものである。こうした取調べの重要性は、昔も今も変わらないはずであって、今もまさに、全国で一人ひとりの警察官・検察官がこうした思いで取調べに臨んでいると思う。
我が国において、特殊詐欺の撲滅という目的へ向けて様々な取組がなされている中、この取調べの場もこの目的を達成するための一手段になると信じている。】
私も、特殊詐欺の受け子などについては、「黙秘」を勧めています。ただこれは、大樂倫大検察官のいうように、「事実認定や量刑という裁判の結果のみに着目した観点」ではないです。私は、受け子などの闇バイトをさせられている若年者は、反社会的勢力の「被害者」と考えているからです。現在の検察実務・刑事裁判実務の、初犯でも原則実刑という厳罰主義に反対しています。「刑務所帰りの人材」を多数供給しているだけで、むしろ反社会的勢力を助長しているとすら考えています。そのような刑事裁判実務を前提とすると、弁護人としては、「黙秘」で起訴を免れる、量刑を安くするという弁護活動をせざるを得ません(正直に話した受け子は厳しく処罰され、黙秘した上位者は嫌疑不十分不起訴で処罰を逃れます)。
特殊詐欺、組織末端でも5割超が実刑に 犯罪白書
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE141G60U1A211C2000000/
法務省 令和3年度犯罪白書
https://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00049.html
438頁
【「受け子・出し子」の約9割の者が報酬を受け取るか報酬を受け取る約束をしていたが,実際に報酬を得た者は半分に満たず,報酬を得られたとしても高額な報酬を得た者はまれであった。それどころか,犯罪組織では従属的な立場である「受け子・出し子」であっても,その約半数が全部実刑となっている。「受け子・出し子」として特殊詐欺を実行する犯罪組織に参加する可能性がある者に対しては,「受け子・出し子」の役割を果たした後に待っている帰結に関する具体的な情報を提供し,「受け子・出し子」として特殊詐欺に加わることが,決して「割に合う」犯罪ではないと認識させることが,これらの者が特殊詐欺に加わることを防止する上で有効であると思われる。その機会としては,一般的な周知広報活動の場面に加えて,「受け子・出し子」の約6割を30歳未満の若年者層が占めている上,約3割が保護処分歴を有していたことを考えると,保護処分に係る罪名が詐欺であるか否かに限らず,保護観察や少年院における指導の一環として行う余地もあるのではないかと思われる。】
【参考裁判例】
令和2年2月26日/福岡高等裁判所/第2刑事部/判決/令和1年(う)337号
本件は、特殊詐欺2件の事案で、本件各犯行への被告人の関与は、本件各犯行の被害金がまとめられた紙袋を受け取り直ちに共犯者に渡すという受け子としての1回限りの限定的な関与にとどまり、事件や組織の概要については知らされていたとは考え難いことからも、末端の立場にすぎず、その刑事責任は一定のものにとどまる。また、被告人には懲役前科はないこと、被告人の娘が出廷し、家族でサポートしていく旨約束していること、被告人も詐欺の故意認識は争っているものの、違法行為に荷担した自らの責任を感じて被害者らに対する謝罪の弁を述べ、見舞金を支払っていることなど被告人にとって酌むべき事情がある。他方、本件各犯行は、役割分担が明確になされた組織的で計画的な犯行であり、2名の高齢者に合計約1500万円もの多額の財産的被害を生じさせたもので、悪質かつ重大な事案である上、被告人は、情を知らない女性を介して被害金を受領するという、本件各犯行を完遂するために必要不可欠な実行行為の一部を担ったものである。加えて、被告人が本件各犯行に及ぶに至った経緯及び動機に酌むべき点がないことも併せ考えると、本件は、行為責任の観点から相当厳しい処罰が求められる事案というべきである。
被告人の役割が受け子である特殊詐欺事案の量刑傾向を見ると、被害額が四、五百万円以上の事案においては、犯行回数が一、二回程度にとどまっていたとしても、被害額のうち相当部分の被害弁償又はその見込みや示談の成立、被害者からの宥恕などの特に酌むべき事情がない限りは、実刑に処せられている傾向にある。本件は、被害額が合計約1500万円もの多額に上る事案であるから、上記の量刑傾向に照らすと、刑の執行猶予を付することを相当とするような特に酌むべき事情がない限りは、被告人を実刑に処すべきである。
そこで、本件において、上記の特に酌むべき事情が認められるかを検討する。まず、受け子として関与した回数が1回にとどまる点は、上記の量刑傾向に照らし、特に酌むべき事情に当たらないことは明らかである。事件や組織について知らされていないことは、受け子の役割の者であればそれほど珍しいことではないから、特に酌むべき事情には当たらない。そのほか、原判決は、〈1〉被告人に懲役前科がないこと、〈2〉被告人の娘が出廷し、家族でサポートしていく旨約束していること、〈3〉被告人が詐欺の故意を争っているものの、違法行為に荷担した自らの責任を感じて被害者らに対する謝罪の弁を述べ、〈4〉見舞金を支払っていることを指摘するが、〈4〉については、被告人は、各被害者に対して、5万円ずつ、合計で10万円を支払ったにすぎず、被害額に比して僅少であり、その余〈1〉~〈3〉は、いずれも一般情状であって酌むにしても限度がある。これらの事情は、いずれも特に酌むべき事情には当たらない。
また、弁護人は、当審において、本件各犯行によって被告人が得た報酬が3万円にとどまることを指摘するが、3万円は受け子の報酬として特段少ないものとはいえないから、特に酌むべき事情とはいえず、当審における事実取調べの結果、被告人が被害者のうち1名に対して更に10万円を送金した事実が認められるものの、これを併せ考慮しても、執行猶予を付することを相当とするような特に酌むべき事情を認めるには至らない。
したがって、被告人に対し刑の執行を猶予した原判決の量刑判断は、同種事案の量刑傾向から踏み出したものであり、是認することもできない。
(一審判決:懲役3年・5年間執行猶予、破棄自判:懲役3年・未決勾留日数中70日算入)
第2刑事部