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薬院法律事務所

刑事弁護

大麻を1回友人に販売したことで、営利目的譲渡といわれたという相談(大麻、刑事弁護)


2024年10月22日大麻・違法薬物

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、福岡県の国立大学文学部に通う大学4年生です。インターネットで大麻を購入していたのですが、友人に頼まれて手数料を1000円上乗せして販売しました。友人が大麻を持っていることがバレて私のことを話したようで、私のところに警察官が来ました。「営利目的譲渡」といわれているのですが、1回だけですし、1000円しか上乗せしていないのに営利目的譲渡といわれて困っています。

A、法律論としては、営利目的譲渡が成立し得ます。もっとも、一回きりということですし、上乗せした金額が少ないことから、「営利目的譲渡」の起訴を回避できる可能性はあります。早急に、大麻事案に詳しい弁護士に依頼して、弁護活動をしてもらうべきです。

 

【解説】

 

大麻事案については法定刑も引き上げられており、今後はより厳しい処分が予想されます。

ご相談の事例では、単なる所持事案ではなく、友人に譲渡もしていたということであり、令和6年12月12日以後であれば、麻薬取締法により、営利目的譲渡(1年以上10年以下の懲役または、1年以下の懲役もしくは10年以下の懲役及び300万円以下の罰金)となり得ます。最高裁判例によれば、覚醒剤取締法違反の事案ですが、1回切りであっても、上乗せした金額が少額であっても、「営利の目的」が認められるとしています。もっとも、検察官が単純譲渡事案として起訴する可能性もありますので、弁護人をつけて、営利目的を認定するための証拠が十分でないことの主張や、法律論として財産的利益への意欲(動機目的)が犯罪の積極的動機ではないといった主張を尽くすことが有用でしょう。

 

最決昭和35年12月12日

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51703

判示事項
一 覚せい剤取締法第一七条にいう覚せい剤の「譲り渡し」の意義
二 覚せい剤取締法第四一条の二にいう「営利の目的で」の意義

裁判要旨
一 覚せい剤を売却斡旋方を依頼してこれを他人に引き渡すときは、その所有権の転移の有無にかかわらず覚せい剤取締法第一七条にいう覚せい剤の「譲り渡し」にあたる。
二 覚せい剤取締法第四一条の二にいう「営利の目的で」とは、財産上の利益を得る目的をもつてなされる以上、一回かぎりのものでも差し支えなく必ずしも反覆継続的に利益を図るためになされることを要しない。

 

厚生・労働2024年06月19日
大麻草から製造された医薬品の施用等の可能化・大麻等の不正な施用の禁止等に係る抜本改正
~大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律~ 令和5年12月13日公布 法律第84号
法案の解説と国会審議
執筆者:木村歩

https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article3567820/

【(2)大麻等の施用等の禁止に関する規定・罰則の整備
① 大麻等を麻薬及び向精神薬取締法上の「麻薬」に位置付けることで、大麻等の不正な施用についても、他の麻薬と同様に、同法の禁止規定及び罰則を適用する。
なお、大麻の不正な所持、譲渡し、譲受け、輸入等については、大麻取締法に規制及び罰則があったが、これらの規定を削除し、他の麻薬と同様に、「麻薬」として麻薬及び向精神薬取締法の規制及び罰則を適用する(これに伴い、法定刑も引上げ)。】

 

【参考文献】

 

佐伯恒治「56 薬物事犯における「営利目的」大阪高判平9 • 6 • 20判夕971 • 277」植村立郎編『刑事事実認定重要判決50選(下)《第3版》』(立花書房,2020年3月)219-229頁

220頁

【薬物事犯における「営利の目的」とは,一般に,「犯人がみずから財産上の利益を得,又は第三者に得させることを動機・目的とする場合をいう」(最決昭57 • 6 • 28 刑集36 • 5 • 681 ) と解されている。こうした動機, 目的さえあれば「1回限りのものでも差し支えなく必ずしも反覆継続的に利益を図るためになされることを要しない」( 最決昭35 • 12 • 12 刑躾14 • 13 •1897 ) とされる一方営利目的があるというためには自己又は第三者が財産上の利益を得ることを単に詔識しているのみでは足りず,財産的利益への意欲(動機目的)が犯罪の積極的動因となっている場合でなければならないと考えられている(高木俊夫・判解刑昭57 • 217 )。】