大麻所持、パケ残りの微量でも「所持」とされるかという相談(大麻、刑事弁護)
2026年01月27日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡市に住む30代男性です。先日職務質問を受けた際に、所持品検査でズボンのポケットから大麻が入っていたパケを見つけられてしまいました。その場では逮捕されることはなかったのですが、警察署で尿検査も受けています。尿検査は陰性だったのですが、パケのなかに大麻の残りカスがあったようで、大麻所持ということで取調べを受けています。ほとんど目では見えないくらいの断片だったのですが、大麻所持になるのでしょうか。パケを捨て忘れていただけです。
A、微量の大麻であっても「大麻所持」の対象にはなると考えられます。もっとも、肉眼で見えないくらいの量であったということであれば、「所持」の故意がないこともあるでしょう。特に、捨て忘れていただけという説明を裏付ける事実があれば(例えば、何度もズボンを洗濯していて、パケの表面がボロボロになっていた等)、その弁解が認められる余地もあると思います。どこまで供述するかは難しい話で、「微量所持」の事実と、それ以外の証拠を合わせることで「過去の所持」について立証しようとしてくる場合もあります。完全に黙秘をすることも有力な選択肢です。
【解説】
覚醒剤に関してですが、微量の場合に「覚醒剤所持」といえるかという論点があります。ごくごく微量で薬理作用がないといえる場合には、「覚醒剤」該当性を否定するような裁判例も存在するところです。そして、微量の場合には、「所持」の故意が客観的な状況から立証できないことから、「所持の故意」について自白が取れない場合に嫌疑不十分で不起訴になることもあり得ます。そのため、覚醒剤の微量所持の場合は黙秘が基本になると考えられます。
大麻についても、同様に考えることができますが、大麻の場合は、微量だと起訴猶予の可能性もあるため、嫌疑不十分不起訴と起訴猶予の二兎を狙って供述するのか、あるいは黙秘するのかが難しい判断になることもあるでしょう。薬物事犯に詳しい弁護士への面談相談をお勧めします。
【参考文献】
内藤惣一郎ほか編著『覚せい剤犯罪捜査実務ハンドブック』(立花書房,2018年9月)184頁
【1 覚醒剤が存在しない場合の認定方法
設問のような事例としては,覚醒剤の譲渡事犯等で,覚醒剤を処分してしまったため存在しないが,覚醒剤を入れていた薬封筒あるいは薬包紙が押収され, これらに覚醒剤粉末が付着している場合(極微量のため,それ自体犯罪として問擬できない場合)や,覚醒剤使用事犯で,覚醒剤は注射してしまったため存在しないが,注射に用いた注射器から覚醒剤の反応が顕出された場合及び注射後排出された尿から覚醒剤の反応が顕出された場合等である。
実務上,このような場合には,薬封筒,薬包紙に付着している微量の覚醒剤粉末,注射器,尿からの覚醒剤反応をもとに,それぞれ所持者,使用者の処分前の覚醒剤の所持,使用を認定している。】
薬物事犯捜査研究会編著『薬物事犯捜査必携 三訂版 第3編 質疑回答』(東京法令出版,2011年3月)120頁
【問96. 【微量の覚せい剤の所持であっても、所持罪が成立するか】
約0.001グラムという微量の覚せい剤の所持であっても、覚せい剤所持罪が成立するか。
〔答〕
所持禁制品である覚せい剤であるが、成立するかどうかは、薬理効果、所持理由、認識の有無等による。
約0.001グラムという微量の覚せい剤の所持であっても、覚せい剤所持罪が成立した事例がある。】
藤永幸治編集代表『シリーズ捜査実務全書8 薬物犯罪(第2版)』(東京法令出版,2006年8月)85頁
【しかし、微量の薬物であれば、法の禁ずる所持の対象とならないとするのは、正しい解釈とは思われない。覚せい剤取締法等はそれぞれ規制薬物についての定義規定を置いており、これ以外に薬物の純度、薬理効果の有無までを構成要件に取り込むべきではない(亀山継夫「薬物濫用取締法の諸問題(4)」警察学論集32.11. 108) 。
薬理効果が期待できるかどうかは、そのような微量の薬物については、「所持」の犯意がないのではないかという点で問題となる(客観的な状況から所持の犯意を推認できない)にすぎないのである。】
https://www.tokyo-horei.co.jp/sousajitsumu8/
松田昇ほか『新版 覚せい剤犯罪の捜査実務101問〔改訂〕』(立花書房,2007年6月)113頁
【したがって、所持していた覚せい剤(特に結晶の場合)が微量であるため、所持の意思が認められないことはあり得ても、微量であるが故にそれだけで直ちに所持罪は成立しないとするには疑問が残る。】
神奈川県警察覚せい剤事犯捜査研究会編『部内用 覚せい剤事犯捜査演習』(東京法令出版,1986年7月)29頁
【微量所持の事実のみでは、勾留請求をしても却下されるケースがみられる。このため、微量に至る前の所持の事実あるいは使用の事実を追及し、その補強証拠として活用することに配意する必要がある。麻薬事犯であるが、付着物を自白の補強証拠とした事例として次の〔1 2 〕がある。 〔1 2 〕東京高判昭―ニ―・ニ・ニ――東京時報七巻二号六三頁】
飛田清弘ほか『覚せい剤事犯とその捜査』(立花書房,1981年8月)
【覚せい剤であることを認識しながら、これを自己の実力支配内に置いた以上、たとえ支配内に置いた時間が短時間であっても、所持罪は咸立する(注1 4 )。当該覚せい剤が微量であっても、それが「覚せい剤」と認められる以上、例えば、 0・0 0 1――グラムのフェニルメチルアミノプロバン塩を含有する結晶についても、「およそ右のような物を含有する以上、(中略)含有率の如何にかかわらず」所持罪は成立する(注1 5 )。ただ、同じO・0 0 1――グラムの覚せい剤ではあっても、それが結晶性のものではなく、粉末であって、この粉末には増量剤として、更にカフェインや塩酸エフェドリンが混入されているため、「その含有する塩酸フェニルメチルアミノプロパンは極めて微量であったことが認められ(中略)、何人に対しても覚せい剤としても効用を有しないもの」であるような場合(例えば、使用した覚せい剤を包んでいた紙に使用残の覚せい剤粉末がかすかに付着しているというような場合)には、不法所持罪に該当しないと判示した高裁判決(注1 6 )があることに留意すべきであろう。】208頁
【(注 1 5 )
東京地判昭和五二・二・一判例集未登載。なお、この判決は、微量であれば覚せい剤としての効用がないとの弁護人の主張に対し、「弁護人の所論の趣旨を徹底すれば、相当量の覚せい剤を含有する結晶であっても、これを微量に小分けして所持する限りは罪とならないことになり、この点からも所論は失当である。」と判示している。この他にも、塩酸フェニルメチルアミノプロパンの結晶性粉末0・0 0三グラムの所持罪の成立を認めた事例として、東京地判昭和五一・九・一七判例集未登載がある。
(注1 6 )東京高判東京四八•六・六高刑集二六・三・ニ九一。】212頁
村上尚文『麻薬・覚せい剤犯罪-解釈と実務』(日世社,1975年11月)302頁
【薬物それ自体は存在しないが、薬物が存在していたことを推認させるような科学的証拠が存する場合とは、例えば、麻薬の所持事犯にあって、麻薬は他に処分してしまい存しないが、麻薬を入れていた薬封筒あるいは薬包紙が押収され、これに微量の麻薬粉末が付着している場合とか、覚せい剤の施用事犯にあって、覚せい剤は注射してしまって残存しないが注射に用いた注射器から覚せい剤の反応が顕出される場合とか、注射後排出した尿から覚せい剤の反応が顕出される場合とかである。これらの場合につき、薬封筒、薬包紙に付着している微量の麻薬粉末、注射器、尿からの覚せい剤の反応をもとに、それぞれ所持者、施用者の認める処分前における麻薬の所持、覚せい剤の施用を認定することも、通常、実務で行われているところであり、判例によっても、こうした認定は肯定されている。】


