大麻所持事件、大麻の入手経路を黙秘すると勾留延長がなされるかという相談
2026年01月30日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡市に住む50代男性です。先日、執行猶予中に大麻を所持していたことが職務質問で発覚し、数か月後に逮捕されました。逮捕される可能性があるということはわかっていたのですが、気になっているのは勾留10日間で出られるかということです。大麻を所持していたことは認めているのですが、入手先は友人なので入手先については黙秘しています。勾留延長されると娘の結婚式に出られなくなるので困ります。
A、覚醒剤所持事件の場合は、一般的に勾留延長理由になるとする文献も存在します。もっとも、黙秘そのものを理由として勾留延長をすることができないことから考えれば、仮に勾留延長がなされたとしても争い得ることも多いと思います。
【解説】
捜査機関に逮捕され、引き続き10日間の勾留がなされた場合、検察官は10日以内に公訴を提起しないときは被疑者を釈放しなければいけません。これが刑事訴訟法の原則です。しかし、残念ながら原則通りにいかず、「やむを得ない事由があると認めるとき」であるとして、さらに10日間勾留延長がされることがしばしばあります。最高裁判例によれば、「やむを得ない事由があると認めるとき」とは、事件の複雑困難(被疑者若しくは被疑事実が多数であるほか、計算複雑、被疑者関係人らの供述その他の証拠の食い違いが少なからず、あるいは取調べを必要と見込まれる関係人、証拠物等が多数ある場合等)、あるいは証拠収集の遅延若しくは困難(重要と思料される参考人の病気、旅行、所在不明若しくは鑑定等に多くの日時を要すること)等により、勾留期間を延長して更に取調べをしなければ起訴、不起訴の決定をすることが困難な場合をいう(最判昭和37年7月3日民集16巻7号1408頁)とされていますので、その場合にあたらないことを主張していく必要があります。
具体的に設問の場合を考えると、共犯者の取調べ未了といった場合には争い得る可能性が高いと思います。後掲の参考文献にあるように、共犯者や密売人が任意の取調べに応じるとは期待しにくいからです。
微妙なのは「携帯電話の解析未了」といった場合です。本件のように在宅捜査が先行している場合には、スマートフォンを任意提出している、あるいは逮捕時にパスコードを教えているといった場合は「既に解析が完了できていなければおかしい」といって争うことになるでしょうし、パスコードを黙秘している場合は「延長期間内に解除できる見込みがない」といった争い方をすることになるでしょう。いずれにしても、勾留延長後の勾留状の謄本を取り寄せて、弁護人に分析してもらう必要があります。
※刑事訴訟法
第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
② 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131/20231215_505AC0000000066#Mp-Pa_2-Ch_1-At_208
※最判昭和37年7月3日民集16巻7号1408頁
https://www.courts.go.jp/hanrei/52899/detail2/index.html
【参考文献】
飯畑正一郎「78 勾留期間を延長すべきやむを得ない事由の意義」
高麗邦彦・芦澤政治編『令状に関する理論と実務Ⅰ(別冊判例タイムズ34号)』(判例タイムズ社,2012年8月)174-176頁
【類似の問題として,覚せい剤の自己使用等の被疑事実で覚せい剤の入手先や常習性の裏付け捜査のための関係人(密売人や覚せい剤仲間)の取調べ未了が勾留延長の理由となるかがあり,この場合,密売人や仲間が任意の取調べに応じることは通常期待できないから,原則として勾留延長の理由とはならないと考えられる。】(175頁)
https://www.hanta.co.jp/books/3246/
最高裁事務総局刑事局監修『逮捕・勾留に関する解釈と運用』(司法協会,1995年9月)171頁
【なお,勾留期間の延長の裁判に当たっては,入手経路の点についての捜査が延長期間内に遂げられるという見込みについての疎明も必要であると思われる。例えば,被疑者が供述を拒否し,証拠の収集が困難であるような場合には,被疑者から自白を得るためだけの勾留延長が許されないことはいうまでもないことであるから,この入手経路について,被疑者の交友関係の捜査や共犯者の取調べ等,自白以外の捜査の見込みを疎明させ,その一応の見込みがあることを確認した上で延長の裁判をする必要があると思われる。】


