load

薬院法律事務所

刑事弁護

大麻施用罪(令和6年12月12日施行)で逮捕・勾留、大麻所持罪で再逮捕・再勾留されたという相談


2024年10月06日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は福岡市に住む50代会社員です。先日、福岡市内の大学に通っている私の息子が、大麻施用罪で逮捕・勾留されました。国選弁護人さんからは起訴されたら保釈請求をするという話を聞いていたのですが、起訴後に大麻所持罪で再逮捕・再勾留されています。会社の人も最初は待ってくれるという話だったのですが、再度逮捕されてしまってもう退職して欲しいといわれています。どうにかならないものでしょうか。

 

A、勾留に対して準抗告を行うととともに、保釈請求をすることで釈放を実現できる可能性があります。

 

【解説】

 

一般論として、併合罪関係にある複数の被疑事実については、基本的に再勾留は可能であり,社会的事実としては一連一体の事実で、関係者が同一であり、必要とされる捜査の内容もその大半が共通するような場合であっても異ならないと解されています(覚せい剤の使用と残量所持等の場合も含みます)。

とはいえ、先行勾留における先行被疑事件の捜査の結果として本件被疑事実に関する証拠も相当程度収集されたなど、捜査経緯や証拠関係等を踏まえてて両被疑事実の同時処理の可能性を具体的に検討した上で、勾留の必要性がないことを理由に再度の勾留請求を却下することはありえるとされています(最判平成30年10月31日・判例時報2406号の匿名解説)。

この点、上記最高裁判例に対する前法務省刑事局参事官東京高等検察庁検事(当時)宮崎香織氏による解説では次のとおり述べられています(警察学論集72巻5号148頁「刑事判例研究〔502〕」)。

157頁

【捜査においては,一連のものとして密接に関連する複数の犯罪事実につき,嫌疑の明白なものについて先に被疑者を逮捕・勾留し,その勾留期間中の捜査によって他の犯罪事実の嫌疑が強まれば,引き続き被疑者を同事実につき逮捕・勾留するということがしばしば行われる。その場合,被疑者やその弁護人から,先行する逮捕・勾留が違法な別件逮捕・勾留であると主張されることや,後の逮捕・勾留が同一の犯罪事実についての実質的な逮捕・勾留であると主張されることが想定される。そのような主張は,公判に至ってから,勾留中に得られた証拠が違法収集証拠であるとしてなされることもあれば,勾留請求の段階における弁護人の申し入れあるいは勾留の裁判に対する準抗告という形でなされることもある。

本決定においては,被疑者の勾留請求を却下した準抗告決定につき,同決定が説示した捜査の同時処理義務については否定したが,結論としては同決定を破棄しなかったため,結局,被疑者の勾留は認められないこととなった。

近時,裁判所は,勾留の要件をより厳しく審査するという傾向が顕著であるところ,いったん勾留請求を却下されると,その後に準抗告又は特別抗告を行っても,その結果を覆すことは相当困難であると考えられる。勾留請求を行うのは検察官であるが,検察官送致から勾留請求,これに対する裁判,更に準抗告まで,短時間のうちに行われることから,捜査機関としては,勾留が身柄拘束の不当な蒸し返しであると主張される可能性があることを意識し,かかる主張が失当であることが送致記録上明らかになるよう,予め備えておくことが望ましいと思われる。】

ご相談の事例の場合、弁護人から、身柄拘束の不当な蒸し返しであると主張して再逮捕・再勾留に準抗告することで釈放を実現することができる場合もあります。私は以前コカイン使用・所持の事例で釈放を実現したことがあります。

 

【参考裁判例】

最判平成30年10月31日

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=88095

なお,所論に鑑み職権により調査すると,原決定が,本件勾留の被疑事実である大麻の営利目的輸入と,本件勾留請求に先立つ勾留の被疑事実である規制薬物として取得した大麻の代替物の所持との実質的同一性や,両事実が一罪関係に立つ場合との均衡等のみから,前件の勾留中に本件勾留の被疑事実に関する捜査の同時処理が義務付けられていた旨説示した点は是認できないが,いまだ同法411条を準用すべきものとまでは認められない。

令和6年12月12日に「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」の一部が施行されます

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43079.html

厚生・労働2024年06月19日
大麻草から製造された医薬品の施用等の可能化・大麻等の不正な施用の禁止等に係る抜本改正
~大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律~ 令和5年12月13日公布 法律第84号
法案の解説と国会審議
執筆者:木村歩

https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article3567820/

【(2)大麻等の施用等の禁止に関する規定・罰則の整備
① 大麻等を麻薬及び向精神薬取締法上の「麻薬」に位置付けることで、大麻等の不正な施用についても、他の麻薬と同様に、同法の禁止規定及び罰則を適用する。
なお、大麻の不正な所持、譲渡し、譲受け、輸入等については、大麻取締法に規制及び罰則があったが、これらの規定を削除し、他の麻薬と同様に、「麻薬」として麻薬及び向精神薬取締法の規制及び罰則を適用する(これに伴い、法定刑も引上げ)。】

 

【解決事例】コカイン使用での勾留決定を、準抗告で取消し(違法薬物、刑事弁護)

 

【参考文献】

最高裁平成30年10月30日判例時報2406号(2019年7月11日号)70-72頁

宮崎香織「刑事判例研究〔502〕勾留の裁判に関する準抗告決定(原裁判取消し、勾留請求却下)に対する検察官からの特別抗告が棄却された事例〔最高裁判所第二小法廷平成30年10月31日決定」警察学論集72巻5号(2019年5月号)148-160頁

原田和住「併合罪関係にある被疑事実に対する捜査の同時処理義務」法学教室2019年6月号(465号)135頁

池田公博「併合罪関係にある被疑事実に関する捜査の同時処理義務の有無」令和1(元)年度重要判例解説166-167頁

齋藤司「逮捕・勾留に関する原則を活用する」『刑事訴訟法の思考プロセス』(日本評論社,2019年10月)165-182頁

片岸寿文・佐藤元治「日々の刑事弁護の実践例から理論を考える 第3回 再勾留を否定した準抗告に対する特別抗告」季刊刑事弁護99号(2019年秋号)98-104頁

片岡理知「捜査と準抗告-準抗告の裁判例からみた勾留期間延長又は鑑定留置の必要性・相当性-」川上拓一編著『刑事手続法の理論と実務』(成文堂,2020年7月)213-256頁

小島淳「判例評釈 最高裁平成30年10月30日」判例時報2481号(2021年7月1日号)124-129頁

小島淳「併合罪関係に立つ事実の間での逮捕・勾留について-逮捕前置主義,逮捕・勾留の一回性の原則との関係を中心に-」研修884号(2022年2月号)3-14頁

長池健司「勾留請求に関する諸問題」警察学論集75巻5号(2022年5月号)

金子章「再逮捕・再勾留の許否と身体拘束の基礎としての被疑事実の構成のあり方について ―近時の最高裁判例を契機とした一試論―」(横浜法学第33巻第1号,2024年9月)