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薬院法律事務所

企業法務

契約書(処分証書)がある場合に、契約外の合意の存在はどの程度認められるか


2022年03月15日企業法務

すっかり忘れていましたが、街弁が大企業相手の事件をするときに使える経験則があります(解釈基準とでもいうべきかも)。

司法研修所編『民事訴訟における事実認定』(法曹会,2007年11月)150頁

(イ)処分証書の内容たる法律行為の内容が,同証書に記載されるのが通常と考えられる場合(契約書の記載が極めて詳細で,疑義を残さないような形式となっている場合,契約当事者の一方が,大会社や銀行,官庁である場合等)には, これに記載のない事項は,特段の事情がない限り,法律行為の内容となっていないものと認めるべきである*140

○売買契約書に記載されていない特約を認めたことが,違法とされた事例
最判昭和47. 3 . 2集民105号225頁
【事案の概要】
X(原告,被上告人)は, Y(被告,上告人,国)に,本件土地建物を売却したが, Xは,上記売買契約の際, Yが上記土地等を買受けた後は, これを台東簡易裁判所の敷地として使用すべき旨の土地の利用方法に関する特約があったにもかかわらず, Yが同特約を履行しなかったとして,本件売買契約を解除し, Yに対し,本件土地についての所有権移転登記の抹消登記手続を求めた。
売買契約書に上記特約は記載されていない。
原審は,契約の経緯等に照らし,本件土地が台東簡易裁判所の敷地として使用されるものであることが,表示されていたのみならず,暗黙のうちに, YはXに対し,同士地を同裁判所の敷地として使用すべき債務を負ったものと推定するのが相当であるとして, Yには上記特約に基づく債務不履行があるとして,本件売買契約の解除の効力を認め, Xの請求を認容した。
【裁判所の判断】
Y(国)が私人との間に売買契約を締結する際には,法令により契約書の作成が義務づけられているところ,本件契約書には,売買の目的物,代金額,代金の支払及び所有権移転登記義務の履行に関する定め,その他詳細な特約条項が6か条にわたって定められているにもかかわらず,原審認定のような特約に関する定めは存在しない。しかして,売買の目的たる土地の利用方法に関する特約は,契約の当事者にとっては極めて重要な事項であるから,前記法令の規定に基づき当事者間に契約書が作成された以上, このような特約の趣旨は,その契約書の中に記載されるのが通常の
事態であって, これに記載されていなければ,特段の事情のない限り,そのような特約は存在しなかったものと認めるのが,経験則であるといわなければならない。原審が認定したような事情のみでは,右特段の事情があるとはいえず,その認定判断には,契約の成否及び解釈に関する経験則の適用に誤りがあり,ひいては審理不尽,理由不備の違法がある(破棄差戻し)。

*140他方,本文のような前提を欠く場合,例えば,契約書の内容が極めて簡単な場合,あいまいな条項が記載されている場合や,裏契約として念書が作成されているような場合には,他の証拠によって,比較的容易に契約書記載以外の特約の存在を認めることができる。