女性が加害者、男性が被害者となる強制性交等について 警察公論2018年2月号48頁~
2018年07月20日介護事故等の各種事故事件(一般民事)
警察公論2018年2月号に具体例が書いていました。以下に要約した内容を掲載します。
男性の被害者側代理人となる場合には、国会図書館から取り寄せて、警察に提出すべき論文だと思います。警察公論や警察学論集、捜査研究に掲載されている検察官や警察幹部、裁判官の論文は、警察実務において重みのあるものとして取り扱われているようです。
丸山嘉代「悩める現場の誌上事件相談室 第17回 検事!この事件、どうすればいいですか 第17回 強制わいせつ?それとも強制性交等?」
事案「若い青年の相談。数年前に年上の女性上司から「私に逆らうつもりならすぐに会社を辞めろ」などと怒鳴られて固まってしまい、無理矢理陰茎を口陰され、さらに性交されるという被害に遭ったというもの。」
検事の回答「改正前の法律が適用される。現行法であれば強制性交等にあたる。口腔性交と、性交。これまでも母親による息子に対する性犯罪を始めとして、女性による男性に対する性犯罪は、暗数も含めれば数多く存在していたといわれている。177条の暴行・脅迫については、被害者の抵抗が著しく困難になる程度のもので足り、抵抗が困難になったかどうかは、暴行又は脅迫の程度だけでなく、被害者の年齢、精神状態、犯人と被害者との関係、時間・場所等の様々な事情を考慮して判断されるもの。事案のように犯人が年上の上司として優越的な立場にあり、被害者もまだ年齢の若い青年であって抵抗しがたいなどの事情があれば、「会社を辞めろ」という程度でも、177条の脅迫にあたる場合がある。
また、性犯罪に直面した被害者がその恐怖や衝撃から体が凍り付いたようになり、抵抗できない状態になることは精神医学的観点からも指摘されている。その状態で口陰されれば、被害者の意思に反していても生理的に性交自体は可能となる。性交できたことのみをもって被害者の男性が同意していたと評価することは出来ない。」
※(56頁から引用)
【ところで,今回の回答では,男性が女性からの性行為の被害者になることを繰り返し強調してきましたが,捜査においてもその点に留意することが必要です。また,先ほどお伝えしたような,男性が男性からの性行為の被害者になる場合だけでなく,性的マイノリティの方が被害者になる場合があることにも留意する必要があります。この法律についての参議院法務委員会における附帯決議でも「強制性交等罪が被害者の性別を問わないものとなったことを踏まえ,被害の相談,捜査公判のあらゆる過程において,被害者となり得る男性や性的マイノリティに対して偏見に基づく不当な取扱いをしないことを,関係機関等に対する研修等を通じて徹底させるよう努めること」という項目が入っています。
今回のご相談の事案には,改正前の刑法が適用されますが,ご紹介した附帯決議の趣旨,精神は,その犯罪がいつ発生したものであろうとも,これからの性犯罪の捜査に広く当てはまるものと思います。被害相談に来た青年も「男性である自分が女性からの被害に遭ったとは言い出しにくく泣き寝入りしていた」と言っていたそうですから,その心情を酌みながら捜査を進めていただければと思います。】
https://cir.nii.ac.jp/crid/1523951029770455808
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000395862-i12930729
※参考
今井將人「「刑法の一部を改正する法律」の概要(上)」警察公論2017年11月号10頁(15頁)
【また,今回の改正により強制性交等罪の客体については女性に限らないこととされたのであるから,顆型的に被害者の性別によって被害の重大性・悪質性に差があると考えるべきではなく,捜査上の取扱いについても留意する必要がある※9】
【※9 本法についての参議院法務委員会における附帯決犠(抜粋)
四 強制性交等罪が被害者の性別を問わないものとなったことを踏まえ,被害の相談,捜査, 公判のあらゆる過程において,被害者となり得る男性や性的マイノリティに対して偏見に碁づく不当な取扱いをしないことを,関係機関等に対する研修等を通じて徹底させるよう努めること。】