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薬院法律事務所

刑事弁護

妨害運転罪(道路交通法第百十七条の二の二第8号)における「他の車両等の通行を妨害する目的」の認定


2024年01月25日刑事弁護

いわゆる「あおり運転」については、令和2年6月に法改正がなされ、刑事罰と行政処分が整えられるとともに、自動車運転処罰法の危険運転致死の類型にも取り入れられました。では、この判断で決めてとなる「他の車両等の通行を妨害する目的」はどういった証拠から認定されるのでしょうか。この点については余り知られていないようですので、少し調べてみました。

 

まず確認すべきは、警察庁の通達です。

 

令和2年6月12日付警察庁丁交企発第126号等通達「妨害運転等の悪質・危険な運転に対する厳正な対処について」

https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kouki/20061203.pdf

【3 妨害運転等に対する厳正な指導取締りの徹底
(1) 厳正な指導取締りの徹底
他の車両等の通行を妨害する目的で行われる悪質・危険な運転が関係する事案を認知した場合には、客観的な証拠資料の収集等を積極的に行い、創設された妨害運転罪や危険運転致死傷罪(妨害目的運転)等のあらゆる法令を駆使して、厳正な捜査の徹底を期すこと。
また、妨害運転等の悪質・危険な運転を未然に防止するため、車間距離不保持、進路変更禁止違反、急ブレーキ禁止違反等の道路交通法違反について、積極的な交通指導取締りを推進すること】

 

次に確認すべきは、警察学論集で発表された警察庁幹部による解説です。木村昇一編著『交通事故・事件,交通違反供述調書記載例集〈第6版〉』(立花書房,2021年7月)においてもこの論考が参照されていました。道路交通執務研究会編著『執務資料道路交通法解説(18-2訂版)』(東京法令出版,2022年11月)1376頁でも概ね同趣旨の記述があります。

 

作道英文・小山慧「「道路交通法の一部を改正する法律」について(上)第4悪質・危険運転者対策の推進に関する規定の整備(妨害運転に対する罰則の創設等)」

警察学論集73巻9号(2020年9月号)

【ア 他の車両等の通行を妨害する目的
「他の車両等の通行を妨害する目的」とは、相手方に自車との衝突を避けるために急な回避措置をとらせるなど、他の車両等の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいい、単に認識.認容があるだけでは足りない。
したがって、例えば、追越車線を走行中の遅い車両に対して、当該車両の運転者が自らの違反(通行帯違反)に気がついて自発的に車線を変更することを期待して、車間を詰めるような行為(車間距離不保持)。後続車両の進路を妨害するかもしれないことを認識しつつも、妨害を積極的に意図することなく、先を急いでいるとの理由によって、当該車両の前方で急な進路変更を行うような行為(進路変更禁止違反)。自らの運転技術を見せるために、蛇行運転を繰り返すような行為(安全運転義務違反)等が行われた場合には、「他の車両等の通行を妨害する目的」は認められないことから、本罪ではなく、車間距離不保持等の違反がそれぞれ成立することとなる。
このように、「他の車両等の通行を妨害する目的」を要件とすることにより、厳罰の対象を真に悪質.危険な行為に限定している(5)。】

【5) 「目的」という主観的な要件ではなく、「執ように」や「連続して」といった客観的な要件により悪質・危険な妨害行為を絞り込むことも考えられたが、客観的には執よう又は連続的に行為が行われた場合であっても、それが単に「先を急いでいるため」等の理由により行われたにすぎないものを厳罰に処することとすれば、厳罰の対象となる行為の範囲が広範に過ぎることとなることから、「目的」を要件として設定することとしたものである。もっとも、「目的」自体は主観的な要件ではあるが、その立証は可能な限り客観的な証拠によってなされるべきであり、その立証に当たって行為の執よう性や連続性が判断要素の一つとされ得ることは言うまでもない。】

https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/aori.html

 

※道路交通法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=335AC0000000105

第百十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

四 次条第一項第八号の罪を犯し、よつて高速自動車国道等において他の自動車を停止させ、その他道路における著しい交通の危険を生じさせた者

第百十七条の二の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

八 他の車両等の通行を妨害する目的で、次のいずれかに掲げる行為であつて、当該他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法によるものをした者
イ 第十七条(通行区分)第四項の規定の違反となるような行為
ロ 第二十四条(急ブレーキの禁止)の規定に違反する行為
ハ 第二十六条(車間距離の保持)の規定の違反となるような行為
ニ 第二十六条の二(進路の変更の禁止)第二項の規定の違反となるような行為
ホ 第二十八条(追越しの方法)第一項又は第四項の規定の違反となるような行為
ヘ 第五十二条(車両等の灯火)第二項の規定に違反する行為
ト 第五十四条(警音器の使用等)第二項の規定に違反する行為
チ 第七十条(安全運転の義務)の規定に違反する行為
リ 第七十五条の四(最低速度)の規定の違反となるような行為
ヌ 第七十五条の八(停車及び駐車の禁止)第一項の規定の違反となるような行為

 

※自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=425AC0000000086_20220617_504AC0000000068

第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。

四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為