婚姻費用の計算にあたって、「資産」(民法760条)が考慮されないという問題
2021年08月21日一般民事
民法上、婚姻費用の計算にあたっては資産を考慮できるとされています。しかし、実務ではされていません。
もっとも、資産から得られる収入は考慮されえます。そのため、源泉徴収票だけで判断すると計算を誤ることになります。
松本哲泓『婚姻費用・養育費の算定-裁判官の視点に見る裁判官の実務-』(新日本法規,2018年4月)94頁
【力 資産
民法760条は、夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担すると規定するから、婚姻費用の分担において、資産の有無を考慮できることは間違いないが、通常、生活費は、その収入から賄われ、その収入が生活費に不足する場合のほかは、資産、特に固有資産を取り崩して生活費に充てることはしない。そこで、原則としては、資産は、収入としない。
しかし、資産から生じる果実は、その資産が義務者の固有財産であっても収入と扱うべきである(東京高決昭42.5.23家月19.12.39)。反対の裁判例もあるが(東京高決昭57.7.26家月35・ll・80)、特殊な例と思われる。
また、義務者に収入がない場合、義務者には家族の生活を保持する義務があるから、資産を考慮して、その種類(例えば、収入を得るための手段である農地である場合に、 これを処分せよとはいえないように思われる。)、多寡にもよるが、少なくとも最低生活を維持できる費用の分担をする義務がある場合もあるといえよう。】
https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/5100131
民法第760条
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E6%B0%91%E6%B3%95%E7%AC%AC760%E6%9D%A1
第760条
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
※反対説
二宮周平・榊原富士子『離婚判例ガイド[第3版]』(有斐閣,2015年4月)15頁
【7婚姻費用認定で考盧される「資産」とは
(1) 相続財産等特有財産
考盧すべき資産の中には,相続財産やそれを貸与して得た賃料収入など夫婦の同居中から直接は生活費とされていなかった財産を含めない(考盧すべき収入は主として義務者の給与収入であるとした東京高決昭57.7 . 26家月35巻1 1号80頁)。資産を売却して分担することは妥当ではなく,主として双方の定期収入から分担する。 しかし,一方の特有財産であれ, それによって生活してきたような場合, 例えば相続財産である不動産の賃料収入で生活してきた場合には,考盧事情となる。】