子どもが書いた絵を破られたので器物損壊罪で告訴したいという相談
2026年03月02日犯罪被害者
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、東京都に住む女性です。先日、夫と喧嘩したのですが、夫が激高して私の連れ子が描いてくれた私の絵を破りました。後で謝ってきたのですが、絶対に許せません。今は別居しているのですが、警察に器物損壊罪で告訴に行ったところ「財産的価値がないので告訴を受理できない」と言われました。どうにかならないでしょうか。
A、器物損壊罪の対象となる「器物」は、経済上の交換価値がなくても、主観的、感情的価値があり、それが社会通念上刑法上の保護に値するものであれば、客体となります。破られた絵が消失している場合は裏付けとなる証拠が十分でないとして受理しないといった可能性はありますが、子どもの絵ということであれば、刑法上の保護に値するものだと考えられます。
【解説】
器物損壊罪の対象となる器物は、必ずしも財産的価値があるものに限りません。記念写真のようなものでも、故意に破損したということが立証できれば、処罰の対象とすることは十分に可能だと考えられます。もっとも、例えばデジタルカメラをプリントアウトしたものであれば、いくらでも複製できるので処罰価値がないといったことで警察官が受理を嫌がる(不起訴になることが予測されるので捜査資源を配分することを嫌がる)ということは考えられますが、絵であれば一点ものなわけですから、刑法上の保護に値すると考えます。費用はかかりますが、どうしても処罰を求めたいということであれば弁護士に告訴代理人を依頼することも一つの方法です。なお、器物損壊罪は親告罪ですので、半年以内の告訴をしなければ処罰できなくなります。
※刑法
(器物損壊等)
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
(親告罪)
第二百六十四条 第二百五十九条、第二百六十一条及び前条の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045#Mp-Pa_2-Ch_40-At_261
※刑事訴訟法
第二百三十五条 親告罪の告訴は、犯人を知つた日から六箇月を経過したときは、これをすることができない。ただし、刑法第二百三十二条第二項の規定により外国の代表者が行う告訴及び日本国に派遣された外国の使節に対する同法第二百三十条又は第二百三十一条の罪につきその使節が行う告訴については、この限りでない。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131#Mp-Pa_2-Ch_1-At_235
【参考文献】
大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第三版 第13巻〔第246条~第264条〕』(青林書院,2018年7月)801頁
【物とは財物と同義と解してよく(大塚・注解1223頁),種類,性質のいかんを問わず,また,経済上の交換価値があるか否かを論ぜず,財産権の目的となりうる一切の物件を指す(大判昭 14 • 11 ・11新聞 4493号 5頁).
したがって,客観的交換価値は認められないものであっても,所有者・占有者にとって主観的,感情的価値があり,それが社会観念上,刑法的保護に値するものであれば,本条の客体となる.なお, 1か月近い日数の間掲示され,看板としての効用を充分果たし終わり,撤去され廃棄される寸前にあった立看板について,「その本質的な利用価値は殆んどなくなっていたものと認めるべきである」として,器物損壊罪の成立を否定した裁判例がある(大阪地判昭36• 9 • 15下集 3巻9= 10号882頁)】
https://www.seirin.co.jp/book/01748.html
吉田誠治『新版第2版 記載例中心 事件送致の手引』(東京法令出版,2022年5月)633頁
【器物損壊罪も財産犯であるので,被害額の多寡及び被害の内容(被害者が大切にしていた,例えば.記念写真のような物については,財産的価格のみでその価値を計ることはできない。).被害回復(被害弁償)の有無.被害者の処罰意思の有無.程度が重要な情状となるが,この種事件では.例えば飲食店の中で暴れて店内の器物を損壊した場合のように,財産犯としての側面のほかに,粗暴犯的な面を併せ有する事案もあるので,事案によっては,犯行の動機.犯行の手段・方法.被害者等の関係者に与えた影響等も情状として考慮する必要がある。】


