家宅捜索を受けた際に、昔購入していた大麻を見つけられたという相談(大麻、刑事弁護)
2024年10月13日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡県福岡市に住む30代の自営業者です。若い頃に大麻を吸っていたことがありましたが、結婚を機にすぱっと辞めて、残っていた大麻は捨てました。ところが、今回私の友人が大麻所持で捕まったことから、昔の私のやり取りがわかったようで、自宅に家宅捜索が入りました。その時、私も忘れていたのですが、パケに入った乾燥大麻が古いカバンの底に残っており、押収されました。大麻所持で取調を受けているのですが、起訴を回避できないでしょうか。
A、廃棄していたつもりということであれば「所持」の故意が否定されて大麻所持罪が成立しないこともありえます。仮に所持罪が成立するとしても起訴猶予を狙える可能性はあるでしょう。弁護人に面談相談をして、必要に応じて意見書を出すべきでしょう。
【解説】
一般論としては、規制薬物の「所持」については、所持を開始した時点で自己の実力支配下におく意思があれば足り、その後忘れていたとしても所持罪は成立するとされています。もっとも、本件のご相談は既に「廃棄」したつもりであったところ、廃棄漏れがあったというパターンです。この場合に所持の故意が認められるかについて論じた裁判例は見当たりませんでしたが、所持することへの認識・認容が欠けるために成立しないのではないかと考えます。後掲参考文献の古田佑紀・齊藤勲編『大コンメンタールⅡ薬物五法〔覚せい剤取締法〕』(青林書院,1996年8月)の②と③の考え方が参考になります。現在、大麻についての取締りは厳しくなっていますので、早めの弁護士相談が重要です。
令和6年12月12日に「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」の一部が施行されます
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43079.html
厚生・労働2024年06月19日
大麻草から製造された医薬品の施用等の可能化・大麻等の不正な施用の禁止等に係る抜本改正
~大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律~ 令和5年12月13日公布 法律第84号
法案の解説と国会審議
執筆者:木村歩
https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article3567820/
【参考文献】
内藤惣一郎ほか編著『覚せい剤犯罪捜査実務ハンドブック』(立花書房,2018年9月)100頁
【では,所持罪の成立には, 2のような意思等の存在が必要なのであろうか。結論からいえば不要である。所持は,あくまで覚醒剤を自己の実力的支配内に置く行為であればよく,その態様の如何を問わないことは本法14 条の文理解釈から明らかであるから,隠匿の態様でなくても,また, 2の意思等がなくても, ともかく覚醒剤と知りつつ自己の実力的支配内に置けばそれだけで所持罪は成立すると解されるからである。
判例も同旨であり,例えば, Aが被告人方へ持ち込んで置いていった覚醒剤を自宅居室内に留め置いた事案について,「覚せい剤取締法第14 条第1項が禁止する覚せい剤の『所持』とは覚せい剤であることを知りながら,これを事実上自己の実力支配内に置く行為を指称し,積極的にこれを自己又は他人のため保管する意思の有無又はその行為の目的,態様の如何を問わないものと解するのを相当とするところ,……仮に所論の如く,右覚せい剤は,被告人が,その保管方を拒んだのに拘らず,右Aが勝手に被告人方居室に置き去ったものであったとしても或は仮に被告人がこれを同人のため預る意思もなければ,自らこれを密売する目的もなく,隠匿もしなかったとしてもその所為は,覚せい剤不法所持罪を構成するものといわねばならない」(東京高判昭31 • 2 • 27 高刑集9• I • I 16, 同旨東京高判昭49 • 4 • I東京速報2012, 東京高判昭30 • 7 • 20 東高時報6• 8 • 251) と判示している。なお,所持の故意は,所持を開始するときに存在すれば足り,その後,覚醒剤の存在を忘れていたとしても故意は否定されない。
これは麻薬等の所持にも共通するものであり,麻薬につき東京高判昭27 • 2 • 8 (高判特29 • 26), 銃砲等につき最判昭25 • 10 • 5 (刑集4.IO • 1889) の判例がある。】
https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3474
古田佑紀・齊藤勲編『大コンメンタールⅡ薬物五法〔覚せい剤取締法〕』(青林書院,1996年8月)201-202頁
【また,いったん所持を開始した後所持していることを忘却した場合については,故意が存続していたと解されているが,その理由付けとしては,①所持を開始した時点において故意が存在すれば足り,その後に継続してその故意があることを要しないとするもの(名古屋高金沢支判昭25 • 9 • 22 特報13 号117 頁,麻薬等裁判例集141 頁,最判昭28 • 11 • 15 同144 頁,東京高判昭50 • 9 • 23 刑裁月報7巻9= 10 号842 頁,麻薬等裁判例集336 頁),②所持を継続していることについての認識が必要であるが,一時的に忘却しただけではその認識を失ったことにならないとするもの(東京高判昭28• 2 ・17 特報38 号38 頁,麻薬等裁判例集143 頁),③原因において自由な行為における故意の問題と同様,所持の開始時点において故意があれば,その後その放棄するなどその継続を否定するような特段の事情がない限り,所持は存続するとするもの(香城・136頁)がある。】