尿検査で大麻の陽性反応が出たが、使用した記憶がないという相談(大麻、刑事弁護)
2024年10月20日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市に住む20代会社員です。先日、友人と二人で繁華街を歩いているところで職務質問を受け、友人は大麻を所持していたということで現行犯逮捕されました。私も警察署に連れて行かれて尿検査をしたのですが、大麻の陽性反応がでました。自分でもびっくりしています。大麻を使ったこともないので、あるとしたら友人か誰かに大麻を飲まされたのではないかと思うのですが、わかりません。私も大麻施用罪で処罰されるのでしょうか。
A、覚醒剤の場合は、尿中から覚醒剤成分の検出があれば、特段の事情がない限り覚醒剤を自己の意思で摂取したものと推認されます。しかし、これはあくまで覚醒剤の場合に成り立っている経験則であって、大麻の場合には同様とはいえないはずです。もっとも、この点についてはまだ議論が深まっていませんので、覚醒剤と同様の取扱いがなされる可能性はあります。弁護人をつけて意見書を出す等の対応が有用でしょう。
※大麻施用罪は令和6年12月12日施行です。
【解説】
大麻施用罪が新設されたことにより、今後、大麻事案についても覚醒剤取締法違反事件と同様の取扱いがなされることが予想されています。相談事例は、覚醒剤取締法違反(使用)で良くあるパターンです。覚醒剤自己使用の場合は「特段の事情」が出てこない限り起訴されますので、大麻についても「特段の事情」を積極的に主張しなければならない可能性があります。これは経験豊富な弁護人でなければ判断が難しいので、弁護人に依頼する場合は、薬物事犯の知識・経験が豊富な弁護士を選ぶことが大事です。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91131
【参考リンク】
令和6年12月12日に「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」の一部が施行されます
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43079.html
厚生・労働2024年06月19日
大麻草から製造された医薬品の施用等の可能化・大麻等の不正な施用の禁止等に係る抜本改正
~大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律~ 令和5年12月13日公布 法律第84号
法案の解説と国会審議
執筆者:木村歩
https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article3567820/
【(2)大麻等の施用等の禁止に関する規定・罰則の整備
① 大麻等を麻薬及び向精神薬取締法上の「麻薬」に位置付けることで、大麻等の不正な施用についても、他の麻薬と同様に、同法の禁止規定及び罰則を適用する。
なお、大麻の不正な所持、譲渡し、譲受け、輸入等については、大麻取締法に規制及び罰則があったが、これらの規定を削除し、他の麻薬と同様に、「麻薬」として麻薬及び向精神薬取締法の規制及び罰則を適用する(これに伴い、法定刑も引上げ)。】
【参考文献】
合田悦三「覚せい剤営利目的輸入罪における故意(知情性)の認定について」警察学論集70巻12号(2017年12月号)52-75頁
53-54頁
【「覚醒剤を故意に体内に入れた(摂取した)」ことが争われている場合には、いわゆる「二段の推認」を前提にした検討・判断が行われる。すなわち、まず、被告人の尿から覚醒剤成分が検出された事実をベースとして、覚醒剤成分が人体内部の生理作用によって合成されることはないという現在の科学的知見(公知の事実)等により、「その検出された覚醒剤成分が、外部から被告人の体内に入ったこと」が確実に推認される。そして、次に、「覚醒剤成分が外部から被告人の体内に人ったこと」をベースとして、覚醒剤が極めて厳格に規制されている高価な薬物であって、日常的に流通して体内に取り人れられる飲食物などに混人しているとは通常考えられないこと、日本国内で通常販売されている市販薬に覚醒剤成分を含むものがないこと、非常に強い苦味があるとされているので、第三者が飲食物に密かに混入しても通常は気づかれること、主要な使用方法である水溶液の注射について、第三者が気づかれずに被告人に対してそれを行うのは通常困難であること等(経験則)から、その覚醒剤成分は、「特段の事情がない限り、被告人の意思により」被岩人の体内に人ったことが推認される。】
細野正宏「実務刑事 判例評釈(case 271)東京高判平28.12.9 尿中から覚醒剤成分が検出されたことはその者が自らの意思で覚醒剤を摂取したことを強く推認させる事実であるが,尿中から覚醒剤成分が検出されたことのみに基づいて自らの意思で覚醒剤を摂取したことを認定するには,その者の生活状況や前記推認を妨げる特段の事情に関する慎重な検討が必要であるとし,被告人が自らの意思によって覚醒剤を摂取したとするには合理的な疑いがあるとされた事例(確定)」警察公論2017年10月号86-95頁
95頁
【以上のとおり,本判決は,あくまで本件事実関係を前提とした検討・判断であり,必ずしも一般化できるものではないものの,尿中から覚醒剤成分が検出された場合には,「特段の事情」が存在しない限り,経験則上,その者が,自らの意思に基づいて覚醒剤をそれと認識した上で摂取したものと推認するという考えを前提としつつ,その者と覚醒剤との結び付きを示す事情や覚醒
剤の意図的な使用を疑わせる言動等が認められないにもかかわらず,尿中から覚醒剤成分が検出されたことのみに基づいて,自らの意思で覚醒剤を摂取したものと認定するには,その者の生活状況や人間関係等や前記推認を妨げる特段の事情に関する慎重な検討が必要とした点で,この種事案に関し,今後の捜査・公判において, 参考となる事案である。】
大西直樹「覚醒剤の自己使用事案における故意の認定」警察学論集70巻11号(2017年11月号)155-174頁
164頁
【上記のとおり、尿中から覚せい剤成分が検出されれば、通常、それだけで党せい剤を意図的に体内に摂取したとの事実が相当強く推認されるから、その意味で、上記間接事実は、この種事案における最も重要な間接事実であるといえる。もっとも、それ以外にも覚せい剤使用の故意を推認させ、あるいは、これを補強する間接事実が想定されることはいうまでもなぃ。前記1の事例のように、尿から覚せい剤成分が検出されたことによる故意の推認力が必ずしも強いとはいえないこともあり、そのような場合には、特に、それ以外にいかなる間接事実があるかについて検討することが直要になろう。以下、覚せい剤使用の故意を推認させ、あるいは、これを補強する間接事実として想定される典型的な事情を挙げることとする。】