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薬院法律事務所

刑事弁護

川手研典「実務刑事判例評釈(case 334)東京高判令4.7. 12スーパーマーケットのセルフレジに客が置き忘れた財布につき、その店長によって管理、占有されているものと認定した原判決の判断に誤りはないとされた事例」警察公論2023年6月号86頁


2024年01月29日刑事弁護

いわゆる「忘れ物」を持ち去ってしまう事件は良くあります。

 

「出来心」でしたという方が多いのですが、その背景には自覚できていない深いストレスがあったりするもので、公務員の方が忘れ物の交通系ICカードを持ち去って使用してしまう、スーパーで落ちていた財布を持ち去ってしまう、などということがあります。そういった方の心理面のケアは大事なのですが、もう一つ大事なこととして、その行為に「窃盗罪」が成立するのか、それとも「遺失物等横領罪」にとどまるのか、という問題があります。

 

※刑法

(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(遺失物等横領)
第二百五十四条 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045

これは、被害者の「占有」が認められるかどうかによるのですが、スーパーなどでの忘れ物の場合は、客の占有は認められなくても、店長の占有が認められて窃盗罪になることがあります。紹介する記事は、セルフレジに置き忘れられた財布に対する店長の占有を認め、窃盗罪の成立を認めたものです。同種案件の弁護をする際に参考になるでしょう。裁判例も一様ではないですし、時代や具体的状況によって変わりうるものですので、弁護人は詳細な事情を聴取し、適確に依頼者に有利な事情(占有が認められないといえる事情)を主張していかなければなりません。

 

ホーム > 月刊誌 > 警察公論2023年6月号(第78巻第7号)

https://tachibanashobo.co.jp/index.php/products/detail/3853

 

※「占有」の意義に関する最高裁判例

【刑法上の占有は人が物を実力的に支配する関係であつて、その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によつて一様ではないが、必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものではなく、物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在するを以て足りると解すべきである。しかして、その物がなお占有者の支配内にあるというを得るか否かは通常人ならば何人も首肯するであろうところの社会通念によつて決するの外はない。】

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51567

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事件番号
昭和32(あ)2125

事件名
窃盜、同未遂

裁判年月日
昭和32年11月8日

法廷名
最高裁判所第二小法廷

裁判種別
判決

結果
棄却

判例集等巻・号・頁
刑集 第11巻12号3061頁

原審裁判所名
東京高等裁判所

原審事件番号
原審裁判年月日
昭和32年6月29日

判示事項
一 刑法上の占有の意義
二 占有離脱物と認められない一事例

裁判要旨
一 刑法上の占有は人が物を実力的に支配する関係であつて、その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によつて一様ではないが、必ずしも物の現実の所持または監視を必要とするものではなく、物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在するを以つて足りる。
二 被害者がバスを待つ間に写真機を身辺約三〇糎の個所に置き、行列の移動に連れて改札口の方に進んだが、改札口の手前約三・六六米の所に来たとき、写真機を置き忘れたことに気づき直ちに引き返したところ、既にその場から持ち去られていたもので行列が動き始めてからその場所に引き返すまでの時間は約五分、写真機を置いた場所と引き返した点との距離は約一九・五八米に過ぎないような場合は、未だ被害者の占有を離れたものとはいえない。

参照法条
刑法235条,刑法254条