load

薬院法律事務所

一般民事

建物明け渡しの強制執行にあたり、警察官の援助を得たいという相談(福岡県警の場合)


2026年01月16日賃貸借事件(一般民事)

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

Q、私は、福岡県に住む地主です。アパートを複数棟持っているのですが、時々、家賃を滞納する人がいるので家賃保証会社の弁護士に依頼して立ち退き訴訟を起こしています。最近、立ち退きの対象になった借主から執行官が暴力を受けたというニュースを見て気の毒に思っています。できれば護衛として警察官を付けてあげたいのですが、どうすればいいでしょうか。

A、民事執行法6条により、執行官は職務の執行にあたり警察官の助力を得ることができる場合があります。もっとも、援助要請の判断は執行官がするものですし、警察から十分な協力を得られない可能性があります。家主としてできることとしては、なるべく強制執行以外の手法で任意の立ち退きを得られるように努力すること、仮に強制執行に至る場合は弁護士を通じて借主の危険性について十分な情報提供をするといったことになると思います。

 

【解説】

民事執行法6条は、執行官が、「職務の執行に際し抵抗を受けるときは、その抵抗を排除するために、威力を用い、又は警察上の援助を求めることができる。」と定めています。

そのため、例えば暴力団事務所の明け渡しといった強力な抵抗が予測される場合では、警察から積極的な協力が得られると思われます。しかし、実務上、執行官が援助請求をすればかならず警察官の協力が得られるとは限りません。福岡県警の場合、援助の時期、方法等については、警察は独自に判断することができるという解釈をとっており、かつ、執行官の職務を代行するようなことは避けるべきとされています。最高裁判所事務総局編『執行官事務に関する協議要録(第4版)』(民事裁判資料第249号,2011年3月)では、室内に居座るような者を警察力で追い出せるとしていますが、福岡県警察本部刑事部刑事総務課法令研究会『特集 今さら人に聞けないよ‼刑事警察Q&A』(福岡県警察本部,2016年2月)では「避けるべき」としています。

このように、警察官に対する援助要請をしても必ずしも十分な協力が得られるとは限りませんので、家主としては強制執行は最後の手段と考えて対応されるのが良いと考えます。

 

※民事執行法

(執行官等の職務の執行の確保)
第六条 執行官は、職務の執行に際し抵抗を受けるときは、その抵抗を排除するために、威力を用い、又は警察上の援助を求めることができる。ただし、第六十四条の二第五項(第百八十八条において準用する場合を含む。)の規定に基づく職務の執行については、この限りでない。
2 執行官以外の者で執行裁判所の命令により民事執行に関する職務を行うものは、職務の執行に際し抵抗を受けるときは、執行官に対し、援助を求めることができる。

https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004/#Mp-Ch_1

 

【参考文献】

伊藤眞ほか編『条解 民事執行法〔第2版〕』(弘文堂,2022年7月)57頁

【執行官は、上記の通り抵抗を排除するため自ら実力を行使することができるが、抵抗が強度あるいは多数で、執行官だけでは執行の適正を確保することが困難な場合(そのような事態が予想される場合を含む)には、より強度の実力行使の権限と能力に基づく警察上の援助を求めることができる(本条①本文)。この警察上の援助は官庁間の援助の一種で、一般的には執行裁判所によってされる援助請求(18) について、執行官の地位と能力、執行処分の迅速性の必要性を考慮し、執行官の判断による援助請求が認められている(香川・注釈(1)197頁〔田中〕参照)。】

https://www.koubundou.co.jp/book/b605504.html

 

鈴木忠一・三日月章編『注解 民事執行法(1)序説・総則強制執行総則§§1~42』(第一法規出版,1984年9月)100頁

【本項は,警察上の援助を求めることを執行官の権限として規定したものであるから,執行官が本項の規定に基づいて警察機関に援助を求めた場合には,警察機関は,これを拒否するについて正当の事由がないかぎりこれに応じなければならない法律上の義務があるものというべきである25)26)。もっとも,警察機関としては,抵抗の状況,出動能力等を考慮して,援助請求の趣旨に反しない範囲で援助の時期及び方法につき独自の判断を加えることは許されよう27)。なお,執行官は,自らの威力行使により抵抗を排除する権限を有するのであるから,警察上の援助を求めるのは,その必要がある場合,すなわち,債務者等の抵抗の程度,内容等に照らし,執行官又はその補助者において容易にその抵抗を排除することができないか又はその抵抗を排除するのが相当でないときに限るべきであり,軽微な抵抗についてまでいちいち警察上の援助を求めるべきではない28)。】

103頁

【25) 宍戸ほか•新版警察官権限法注解下598頁。なお,注33)掲記の警察庁警備局長回答及び海上保安庁警備救難部長回答は,援助の請求を受けた警察署長等は,援助の必要があると認めるときは速やかに援助するものとしている。
26) 本項の規定により執行官に対して援助を行うことは,警察官職務執行法8条の職務に該当するから,援助警察官に対して暴行.脅迫を加えた場合には,公務執行妨害罪が成立するものと解される。
27) 宍戸ほか•新版警察官権限法注解下598頁。
28) 債務者等があらかじめ抵抗をすべく準備している場合,事案の内容から組織的な抵抗が予想される場合,前の執行で抵抗を受けた場合などが適例である。】

 

最高裁判所事務総局編『執行官事務に関する協議要録(第4版)』(民事裁判資料第249号,2011年3月)3頁(民事執行法)

【〔5〕警察上の援助(旧法)
家屋明渡執行事件につき、債務者等から暴行を受けるおそれがあるので、警察官の立会いを求め、債務者らを戸外に連れ出したが、再び室内に戻って居座ってしまう。警察官は執行官に対し暴行等積極的妨害がないと逮捕はできないという。どのように執行すべきか。
(昭 50大分)
0 本問のような場合には、警察官としては債務者等が屋内に戻らないよう実力を用いることができるので、執行官としては、警察官に対して援助を求める根拠及び理由を説明して、その実力の行使を求めるべきである。】

 

東京弁護士会「第4回 東京地方裁判所執行官室と東京三弁護士会民暴連絡協議会との協議会報告」( LIBRA Vol.7 No.5 2007/5)13頁

【報告に対し,執行官から以下のようなコメントがなされた。
民事執行法6条に基づく警察上の援助の要否については,職務の執行に際し抵抗を受けるおそれがあるか否かという点を基準として考えている。執行官としても,職務の執行に際し抵抗を受けるおそれがあると考えられるときには,当然警察上の援助を受けて適正な執行をするという意識は持っている。したがって,申立人側として,警察上の援助の必要性が高い事案であると考えている場合には,執行官の職務の執行に際し抵抗を受けるおそれが高いことを示す具体的な事情を上申書に記載していただくとともに,その具体的事情を裏付ける資料がある場合にはそれを提供していただくのが望ましい。】

https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2007_5/p12_p13.pdf

 

警察実務法令特別研究会編『警察活動の法的根拠と特別刑罰法令の要解』(日世社,1996年8月)126頁

【執行官の援助請求により出動した警察官は、執行官の補助機関として行動するものと解すべきである。したがって、警察官は執行官と同様の権限を行使することができるから、執行官が用いることのできる威力と同様の威力を用いることができる。また、警察官は、個人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防、鎮圧及び捜査その他公共の安全と秩序の維持に当たることをその本来の任務とするものであるから、本項に基づく援助を実施するに際し、違法行為を行っている者を現行犯人として逮捕するなど司法警察権を行使することができる。】

 

福岡県警察本部刑事部刑事総務課法令研究会『特集 今さら人に聞けないよ‼刑事警察Q&A』(福岡県警察本部,2016年2月)250頁

【1 援助要請があった場合は、原則として、これに応じる義務がある。

2 援助の時期、方法等については、執行官と協議の上で、警察独自で判断することができる。
3 警察法の目的とする事項について必要がある場合に、警察の職務の範囲内において協力する。
例えば、
・ 執行官が警察官の面前で暴行を受けた場合
等は、当然警察官としての職務を執行することとなる

4 執行官の職務を代行する行為の禁止
例えば、
. 差し押さえるべき物を搬出してやる行為
・ 屋内で寝転んでいる者を警察官が実力で排除し、搬出する行為
等は、避けるべきである。】