建設機械をリースしたら、借り手と一緒に、地主さんから訴えられたという相談(賃貸借事件)
2018年07月20日賃貸借事件(一般民事)
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡県で、建設機械のリース業の会社を経営しているものです。ある建設会社にクレーン車のリースをしていたのですが、その建設会社が事務所の敷地の地主さんと賃貸借契約で揉めたようです。そこまでは別に当社が関係する話ではなかったのですが、地主さんが、建設会社への立ち退き訴訟と併せて、当社にまで「クレーン車を撤去せよ」という訴訟を起こしてきました。とはいっても、貸しているものですので、契約上も引き上げることはできません。どうすれば良いでしょうか。
A、代理人弁護士をつけて、御社が撤去義務を負わないことを主張すべきでしょう。
【解説】
この論点については、関係する大審院判例があります。その大審院判例は、こういった内容です。AがBに建物を貸して、BはCから借りた機械を建物に設置して、砕石業を営んでいました。その後、建物の賃貸借契約は解除され、Bは機械を放置して立ち退きました。Aは、放置された機械について、Cに撤去を求めたというものです。大審院は、Bが原状回復義務を履行しない場合は、Cは賃借人との関係如何に関わらず、これを撤去することを要すると判断しています(大審院大正5年10月31日判決)。
では、AとBとの間で賃貸借契約の終了に争いがあり、AがBとCに対して明け渡し請求をしてきた場合はどうでしょうか。実はこの記事は私が経験した事例を元ネタにしているのですが、一審は、AとBの賃貸借契約は終了しているとして、BとCに明け渡しを認めて、明け渡し請求以後の賠償義務も認めました。私は高裁の段階で関わりました。直感的におかしいと思ったのが、AB間で賃貸借契約の終了が争われているのに、Cが勝手に機械を撤去出来ないだろうということです。しかし、文献を調べても前例が見当たらず、確かに契約終了であれば機械を設置できる権限はないよな・・・と理屈付けに悩みました。そこで、我妻栄先生の民法を読んで気がついたのですが、そもそもCは「占有者」ではありません。当該事案では、強固に土地に設置されていたので、なんとなく建物の所有者による占有と同視してしまいましたが、機械を設置しているのはBですから、所持の意思も事実もありません。大審院もあくまで「撤去義務」を認めただけです。
なので、明け渡し義務を負うことはなく、あくまで物権的妨害排除義務を負う余地があるだけです。物権的妨害排除請求権については「第三者が妨害状態を引き起こした場合でも、その行為について原因を与え(相当因果関係が認められる場合)、その妨害を終わらせることができる地位にある者に対して、妨害排除請求権が認められる」(上掲双書21頁)となっています。従って、賃貸借契約の終了が争われている間は妨害を終わらせる地位にありません。
ということを書いたところ、高裁の裁判官も納得して和解になりました。一審では契約終了について激しく争われていたので、この部分が見落とされていたのです。
情報量が多くなった時代で、検索も簡単になりましたが、やはり基本概念を理解することは大事、という話です。
【参考文献】
我妻榮・有泉亨補訂『新訂物権法(民法講義Ⅱ)』(岩波書店,1983年5月)267-268頁
【相手方の費用で妨害を除去することを請求することである。費用の点については、前に返還請求権について述べたと同様の争いがある。判例は、妨害を生じさせている物の所有者は、その妨害の生に全く関知しない場合にも、自分の費用で妨害を排除すべきだと判示している。例えば、甲の家屋の賃借人乙が丙からその所有の砕石機を借りて借家に据え付け、家屋の賃貸借関係が終了して立ち退いた後にも砕石機を除去しないときは、甲は所有者丙に対して、その除去を請求することができるという(大判大正5.10.31民1009頁。なお、同昭11.3.13民471頁参照)。前述の理由で判例を支持する(丙から甲に対して、引渡請求をすることも考えられる。この場合には、甲は丙が自由に取り去ることを認容するだけでよい。〔260〕ハ参照)。なお、このような場合に丙は所有権を放棄して除去の責任を免れることはできないと解すべきである。】
https://www.iwanami.co.jp/book/b260850.html
遠藤浩ほか『民法(2)物権〔第4版増補版〕(有斐閣双書)』(有斐閣,2003年5月)
21頁
【相手方は、これらの方法で現に妨害状態を生じさせている者で、その故意・過失を問わない。第三者が妨害状態をひき起こした楊合でも、その行為について原因を与え(相当因果関係が認められる場合)、その妨害を終わらせることができる地位にある者に対して、妨害排除請求権が認められる】
26-27頁
【大審院昭和五年一〇月三一日判決はつぎのような事案。Aの家屋の賃借人Bは、Cから借りた機械を借家に据え付けて砕石業を営んでいた。その後家屋の賃貸借が解除され、Bは機械を放置して立ち退いた。そこでAはCに対して機械の収去を求めたが応じないので、家屋の使用・収益を妨げられたとして損害賠償を請求した。原審A勝訴。Cより上告して賃借人Bが原状回復義務を負っており、Cには機械収去責任はないと主張したのに対して、賃貸借終了後、Bは原状に回復して家屋を返還すべきであるが、義務を履行しないときは、Cは「賃借人二対スル関係如何二拘ラス之ヲ撤去スルコトヲ要スル」と判示した】